第53話
「ノーティス様、アクティス第一王子がお呼びです」
「わ、わかった……」
ついに事の気が来たか、といった覚悟の表情をノーティスは浮かべ、その体を小刻みに振るわせていく。
こうなることは分かってはいたことであるものの、いざ本当にその現実を突きつけられてみると、やはりその場から逃げ出してしまいたいほどの恐怖心と不安感を抱かずにはいられなかった…。
「(行くしか……ないのか……)」
この状況において、逃げ出すことなどもはや何の意味も生み出しはしない。
ノーティスは体だけでなくその心の中までも震え上がらせながら、アクティスの待つ第一王室を目指してその足をゆっくりと進めていくほかないのであった…。
――――
「ノーティスです…失礼します…」
「来たか。入れ」
完全に憔悴しきった口調で、ノーティスはアクティスの待つ部屋の扉の前でそう言葉を発した。
それに対し、アクティスは普段とあまり変わらない冷静な口調で言葉を返し、訪れたノーティスの事を迎え入れた。
「……」
「……」
…二人の間を非常に重苦しい空気が包み、どちらも言葉を発さない。
とは言っても、アクティスの方は自然と黙っているだけなのだが、ノーティスは恐怖から言葉が口にできないといった様子であった…。
しばらくの間二人の間でそのような時間が繰り広げられた後、最初に口を開いたのはアクティスの方であった。
「ノーティス、お前は今まで第二王子としてこの王宮を好き勝手してきたわけだが…。どうだった?楽しかったか?」
「そ、それは一体どういう意味で…」
「なぁに、別に深い意味はありはしない。思い出話を聞かせてもらいたくなっただけだとも」
「お、思い出……」
…どこか意味深な言葉を放つアクティスを前にして、ノーティスはその内心にさらなる不気味な思いを抱かされる。
「(な、なんのつもりだよ…。言いたいことがあるならはっきり言えよ…。どこまでも俺の事をもてあそびやがって…)」
「なんだ、回りくどいことをせずに思ったことをストレートに言ってくれって表情をしているな?ならそうしてやろうか?」
「っ!?!?」
まるで自分の心を読まれたかのようなアクティスの言葉を受け、ノーティスは一段と強くその体を震え上がらせる。
「なら聞こうか。ノーティス、お前はエリッサとの婚約というこの上ない機会とチャンスを得たわけだが、どうしてそれをみすみす手放した?民を束ねる第二王子のふるまいとして、ありえないものだとは思わないか?」
「そ、それは……む、向こうがすべて悪いだけで……」
「向こうがすべて悪い?王宮をこのざまにしたのはお前の方だろう?」
「そ、それは聖獣が愚かにもこの私に従わなかっただけで…。私が悪かったという…わけでは…」
なかなかに歯切れの悪い口調でそう言葉を発するノーティス。
そんな彼に対し、アクティスはさらに一段と踏み込んだ言葉を投げかける。
「それじゃあこれは知っているか?かつてお前が一方的に弾圧していた貴族家たち。その者たちがエリッサの導きによって名誉を回復し、再び貴族家としての立場を取り戻すことに成功しているということを」
「なっ!?!?」
その事実は、ノーティスにとって二重の意味で受け入れたくないものであった。
一つは、彼はその事をアクティスには知られていないだろうと思っていたのにすでにアクティスに知られてしまっていたこと。
そしてもう一つは、その事はすべて隠蔽したはずであるのにこうして表になってしまっているという事…。
「さぁ、説明してもらおうかノーティス。貴族家を束ね、彼らの事を支えてやらなければならない立場にあるはずのお前が、一体どうしてそんなことをしたのか。まさか自分の私腹を肥やすため、などと言わないだろうな?」
「そ、それは……」
この状況における効果的な言い訳など、ノーティスが持ち合わせているはずもない。
この状況に置いて彼は、ただただアクティスに許しを請うほかないのだから。
「レグルスに愛されたエリッサを一方的に婚約破棄、その上彼女は生まれつき迫害されていたらしいじゃないか。お前は第二王子なのだろう?レグルスが彼女になつく可能性を考えられなかったのか?」
「も、申し訳ありません…」
「しかもその上、お前はレグルスに一方的に嫌われて、力でレグルスの事を自分のものにしようとして、その結果多くの兵たちを傷つけて、それにとどまらず私が託した王宮までもボロボロにして」
「申し訳ありません……申し訳ありません……」
「しかもその事をエリッサに謝りに行って?彼女の父を共通の敵にして自分の味方に引き込もうとしたものの全く相手にされず?結局レグルスの力で王宮を元に戻すことも叶わずと?」
「申し訳ございません…申し訳ございません…申し訳ございません……」
「はっはっはっは!ここまで来ると、一体どうしてお前が今まで第二王子としてやってこられていたのか不思議に思えてならないなぁ…。まぁいいさ。ノーティス、お前は第二王子として、もう十分に夢を見てきただろう?」
「ひっ……」
…その時、ノーティスの目の前には”恐怖”としか形容できないだけの光景が広がっていたのだった…。
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