第36話
仕掛けられた魔法罠の直上をレグルスが通過した途端、拘束魔法がレグルスの体に対して放たれ、その動きを完全に封じ込める。
それがノーティスの思い描いた展開であった。
「くらえレグルス!ざまぁみろ!!」
駆けてきたレグルスが罠の上を通過したタイミングで、罠の発動を確信したノーティスは高らかにそう言葉を発した。
そしてノーティスの狙った通り、レグルスが罠の上を通過すると同時にあたり一帯はまばゆい光に包まれ、床下から現れたうねるような光がレグルスの体を包んでいき、その体にまとわりついていく。
「や、やったぞ!!大成功だ!!!」
次の瞬間には、罠の上に横たわるレグルスの姿がノーティスの前に現れた。
ノーティスはその光景を心から嬉しそうに見つめながら、隣に控える兵の首をつかんで自分のもとに抱き寄せ、上ずった口調でこう言葉を告げる。
「よくやった!!思惑通りじゃないか!お前への報酬ははずんでやるぞ♪」
「ノ、ノーティス様!!!上!!上!!!!」
「ん???」
喜びの感情をあらわにしたのもつかの間、兵はノーティスに対して大きな叫び声をあげ、自分たちの上に注目するよう促した。
それにつられる形で自身の真上に視線を移したノーティスの瞳には、信じがたいものが映っていた。
「レ、レグルス!?一体どういうことだ!?あ、あいつは確かにここに…!?」
ノーティスは動揺しながらそう言葉を発すると、すぐさま自分たちの前に仕留めていたレグルスの方へと視線を戻す。
そこには確かに魔法によって拘束されたレグルスの体があるのだが…。
「ノーティス様!!これはただの幻影です!!ついさっきも同じ手で罠をかいくぐられたのです!!騙されてはいけません!!」
「な、なん…だと…!?」
「しっかりしてください!!第二王子ともあろうお方が目の前の状況を正しく理解されないとあっては、兵たちの士気にかかわります!!!」
「う……」
…その時、ノーティスの心の中にはいろいろな感情が同時に沸き上がった。
罠でとらえることに失敗した悔しき感情はもちろんの事、まんまと幻影に騙されてぬか喜びをしてしまったことに対する恥ずかしさや、その事をほかの兵たちに見られていたという恥ずかしさなど、それはそれはプライドの高い王として君臨してきたノーティスにはダメージの大きなものであった。
「(こ、こんなものに俺が騙されるなど…!!!こ、こいつめ…本当にどこまでも生意気な!!!)」
「ノーティス様!!伏せてください!!」
「な、なにっ!?」
ノーティスに恥ずかしさを感じさせる間もなく、その場に飛び上がっていたレグルスは次の行動に移った。
その体が床に落下してくるまでの間で、周囲の空間に対してめらめらと燃えさかる火炎を撒き放ったのだ。
生み出された炎によって別の罠があぶりだされ、その効力が失われる。
それと同時に、この場に仕掛けられていた戦闘具も火炎によって一瞬のうちに変形し、その能力を失ってしまう。
そして極めつけは…。
「あぁぁぁぁ!!!私の美しい髪の毛が…!!!!」
兵がその体をかばってくれたため、やけどなどはせずに済んだノーティス。
しかしその代償と言わんばかりに、彼の髪の毛は焦げてちりちりになり、とても見るに堪えないものに変形していた。
「ノ、ノーティス様!!大丈夫……です……か?」
火炎の発生を見て心配してきたのか、別の一人の兵がノーティスのもとに駆けよってくる。
…しかしその者はノーティスの姿を見た途端、湧き出る笑いをこらえるのに必死になった。
「(…わ、笑ってはダメだ!!ここで笑ったらどんな目にあわされるかわからない!!し、しかし…しかし面白すぎる!!一流芸人も顔負けな見た目をあのノーティス様がしている!!これまでいっつも偉そうな態度をとっていただけに、ギャップがやばい!!ざまぁすぎる!!!)」
兵は表情にこそその感情を出さなかったが、おそらくその心中をノーティスは察した様子だった。
…しかしそのことを詰めてしまったら自分の容姿が醜くなっていることを自分で認めることとなるため、ノーティスは必死に自分を押しとどめ、努めて冷静に返事をすることとした…。
「うむ、私は大丈夫だ。何の心配もいらないとも」
「そ、そうですか、それはなによりでございます…。(うそつけ!絶対気にしてるだろ!!)」
「…少し火に当たってしまったようだが、王たる私の前ではこの程度どうということはない。実質上は無傷と言っていいレベルだ」
「さすが、ノーティス様でございます…。(笑うな……笑うな……!!)」
その時、あたり一帯に炎を撒き終えたレグルスがてくてくとノーティスの前に姿を現した。
そしてそのままノーティスの現在の姿を目にすると、シンプルにその姿を鼻で笑って見せたのだった。
「プッ」
「(こ、こいつ…!!!本当にどこまでも生意気な…!!!)」
…思わずレグルスへのイライラが募ったノーティスだったものの、結局自分一人だけではどうすることもできず、その場から颯爽と立ち去っていくレグルスの背中を悔しそうに見つめることしかできないのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます