episode.30 深夜の大騒動


「おや、バイトかい?」


「あ、太田さん! この前は猫ちゃんたちの餌ありがとうございました。はい! 今日最終出勤日で……夜勤っすけど」


「あらあら、大変ねえ。頑張って!」


 大家のおばあさん、太田さんに元気に挨拶をしてからトオルは居酒屋へと向かった。WowTubeに本腰を入れるためにバイトを退職するのだ。フリーターになってから数年、かなりお世話になったアルバイト先だったので最終出勤日を夜勤にしてもらい、終業後お店で少し飲むことになっていた。



***


「ありがとうございました! 10番卓オーダー入ります!」


「はいよ〜!」


 元気な声かけにトオルも応える。焼き場とホールのサポートを任されているトオルは串焼きを作りつつカウンター近くのオーダーも対応している。

 店長は藤本さんという気さくなおっさんで、貧乏時代のトオルには多めにまかないを持たせてくれたりと可愛がっていた。


「たれ2本、しお2本。かしこまりました!」


 トオルは目の前のお客さんのオーダーを受けて焼き場に串をセットする。そのまま別でオーダーを受けていた厚焼き卵の調理も始める。


「電話でまーす!」


 ホールの女の子の声に「はいよー!」と全員が返事する。トオルはじわじわと熱くなる厨房と、たれが焦げる甘い香りに腹がぐぅとなった。


「店長、お電話変わってください」


「はいよ、ん? はい、はい、すぐに向かわせます」


 藤本店長は電話を切ると深刻そうな顔でトオルの隣に立つと「変わるから帰りなさい」と言った。


「え? 店長?」


「トオル、警察から電話でお前の家に空き巣が入ったらしい。物音に気がついた大家さんが通報したそうですぐに戻ってこいと」


「えっ……?」


「送別会は後日。いいから早く帰りなさい」


「は、はいっ!」


 トオルは何が何だかわからぬまま荷物を引っ掴んで自宅へと走った。居酒屋から自宅までは徒歩10分、走れば6分ほどの距離であった。トオルは走っている最中に家の近くが騒がしいことや赤いランプの点滅で店長が言っていたことが事実であることをやっと認識した。

 トオルが住んでいるボロアパートには野次馬と聴取をする警察官が数人。他の住民たちも心配そうに顔を出していた。


「あぁ、串野さん!」


「太田さん、あの何が……」


「どうも、あなたが串野トオルさんかな?」


 ガタイのでかい男がトオルに話しかける。彼は警察官で三井と名乗った。名刺をもらい、トオルは起きたことの説明を受ける。


 深夜0時ごろ、大きな物音を聞いた太田さんが庭の方から物音がしたトオルの部屋を覗いたところ窓ガラスが割れており、中を確認したところ犯人がドアの方へと逃げていったそうだ。


「一応、現場の検証が終わったら盗まれたものの確認をしてほしいんですが……串野さんはアルバイト中だったと?」


「はい、えっと、財布とかスマホは持ってます。あと机の上にあったPC、デジタルカメラ……あと押し入れの中が荒らされてなければその辺に通帳とかが」


「そうですか、ありがとうございます」


「あの、猫が……」


「猫?」


「はい、こういう白いメインクーンを飼ってまして。こんな感じで開けっぱなしだと逃げてしまうんじゃないかと」


 トオルはスマホでケンシンの写真を見せると三井は部屋の中の人たちに向かって猫がいる旨を伝えた。しかし、鑑識と思われる人たちは首を振った。


「猫は見ていませんが……」


 ただ、トオルはケンシンが頭の良いやつでトオルからは逃げないことがわかっていたのであまり心配はしていなかった。おそらくどこかに隠れているだけだろうと。呼べばすぐに出てくると踏んだのだ。


「ケンシン! 帰ったぞ」


 ドアの外からそう声をかけたが返答はない。こんな異常事態、トオルの声がすれば一目散に走ってくるはずのにだ。


「メインクーンですか」


 三井の方はかなり冷静にトオルのスマホを眺めている。


「はい、まだ子供で」


「子猫……ちなみに居酒屋の他に動画配信活動もしている。であっていますか?」


「あ〜はい。こういうチャンネルで」


 三井はトオルのチャンネルを確認し、


「これは猫も窃盗された可能性が高いですね。メインクーンは高価で取引されますし子猫とあればその価値は高くなる。その上、あなたのチャンネルでは猫を結構取り扱っているようだ」


「え……?」


 トオルはスマホを受け取って、相棒が連れ去られたかもしれないという事実に戦慄した。


「三井さん、先ほど串野さんからいただいた貴重品は全て家の中にあることが確認できました。串野さん、こちら指紋のご協力を」


 その後、トオルは無茶苦茶になった部屋を確認したが盗まれているものはなかったし、PCなどに触られた形跡もなかった。ただ、ケンシンだけがいなくなっていた。


「最近ですが……こういう事件が増えてましてね。あなたのような活動者の家に窃盗が入り、ペットが盗まれる被害です。もしも、猫が帰ってきた等あれば名刺の電話番号に連絡ください」


「は、はい……」


 三井たちが引き上げていくまでトオルは太田さんの部屋で休ませてもらうことになった。翌日、窓ガラスと鍵の修理会社が来て早急に部屋の復旧をしてくれたため、すぐにトオルは自分の部屋で過ごすことができたが、心にはポッカリと穴が開いてしまうのだった。



***あとがき***


お読みいただきありがとうございます! 後書きが多くてすみません・・・何卒!


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