episode.29 海の上で食べ歩き!
こんがりと焼ける魚の香りにトオルもケンシンも引き寄せられる。モルディブを彷彿とさせる海上の村、大きな桟橋には露店がずらっと並び、漁からもどった漁師たちやパラパラと来はじめた観光客が集まっている。
「みなさん! 四日ぶりですね! これから復興したウイハ村で名物の食べ歩きをしていこうと思います! 猫が多く暮らすこの村では各露店で猫用も売ってるみたいでケンシンも一緒です!」
肩に乗ったケンシンが鳴いた。トオルには「やったー」と聞こえ、配信越しの視聴者にはいつものしゃがれた鳴き声が聞こえた。
<お、あのイケメンだせ>
<オーガのお兄さん>
<トオルくんの女子人気はあのお兄さんで成り立ってるからな>
<もうオーガのお兄さんのイラスト描いている女子いたぞ>
<ってかTruくんトオルくんってばれちゃったしな>
「トオルさん、トオルさんであればお代は入りませんと村のものが。ですから今日はたくさん食べていってください。猫たちも喜びます」
カイはそういうとにっこりと口角をあげた。
<おぉ〜〜!! イケメンだぁ>
<これは女子戻ってくるぞ>
<ってかキャスティングがいいよなぁ。エルフマッマといい、オーガニキといい>
<オーガさんの肩に乗ってる黒猫かわええ>
<オーガニキの給料や! 3万円>
<Love沼:Truくん可愛い>
<筋肉もタトゥーもリアルだしすげーな>
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
***
まず、トオルがやってきたのは魚の丸焼きが売っている店だ。オーガ族の女性が元気よく呼び込みをしている。オーガ族の若い女性で、カイと同じく額にツノをもち体にはタトゥーが入っている。スポーツ選手を思わせる様な健康的な体型とトオルよりも一回り大きい体格、笑顔からチラつく牙が魅力的だった。
「おっ、救世主様! とれたて新鮮! 脂ののったウイハサーディンの塩焼きだよ!」
「サーディン……?」
トオルは目の前の魚を見て考える。ハラワタをとり、うねうねと棒に刺されて直火にかけられている様子をみて彼の頭に思い浮かんだのは「鮎」であるが、鮎は川魚である。
<トオルくん、サーディンに迷う>
<いわしだぞ>
<いわし>
<いわし>
「あぁ! すみません。一匹お願いします」
「はいよ、じゃあ相棒さん用も……はい」
オーガのお姉さんから串を受け取る。お姉さんは小イワシをトオルの肩に乗っていたケンシンに加えさせた。
「うみゃいうみゃい」
ケンシンはもらった小イワシをむしゃむしゃしする。無論、トオルはそっちがメインのためカメラでしっかりと写すのだった。コメントは大盛り上がり、ケンシンが飲み込むのを待ってからトオルも一口。
「うんまぁ……カリカリに焼けた皮とふわっふわで脂身たっぷりの身、塩気も最高」
「救世主様、頭もカリカリで美味しいよ!」
お姉さんに教えてもらって少し躊躇したが、トオルは思い切って頭にかぶりつく。魚の頭はさっくさくでどの部位よりも香ばしい。
「うんまぁ」
「救世主様、まだまだいろんなお店があるけどまたうちにもきてよね。記録もたくさんとっていってね!」
<姉御……最高っす>
<オーガ族に目覚めたわい>
<これはエッですな>
「あざっす。次は……」
「新鮮な貝のオサシミだよ! あら救世主様! 食べていってよ! 今日はたくさん獲れたんだ! ネポネのしょうゆわさび、ウイハ伝統のスパイシーソースで食べると美味しいよ!」
「おっ、サシミだ」
ホタテ、アワビ、エビ。マグロやサーモン、タイなどの白身魚。トオルも見慣れている魚の刺身が並んでいる。
「昔ここにやってきたネポネ人に教えてもらってから、この村でも人気なんだよ! ささ、救世主様嫌いなものはあるかい?」
「ないっす!」
「じゃあ、ちょっとずつ盛り合わせね。ソースはスパイシーとしょうゆわさびどっちがいい?」
「どっちもかけてもらうことってできます?」
「あら、よくばりねぇ。はいよ! それから、相棒にはおいしいマグロだよ!」
ケンシンは中トロのような刺しの入った切り身をもらうと満足げに飲み込んだ。
<ヌッコ! ヌッコ!>
<ケンシンかわええ>
<にゃむにゃむしよる>
<猫にマグロってだめじゃね?>
同時接続閲覧者数 10万
コメントの流れもどんどんと早くなっていく、トオルはそれをみつつ刺身を口に入れた。もちろん、しょうゆわさびはトオルの思ったとおりの味。スパイシーソースはチリソースに近い甘辛で非常にご飯が欲しくなる味だった。
「うんまぁ……」
その後、トオルは隣で売っていた「浜焼き」に立ち寄る。直火で焼かれたアワビにしょうゆをたらっと垂らして。ホタテにはバターと醤油を。大きなロブスターはバターをたっぷりとかけていただいた。大ダコのゲソを炭火としょうゆで焼いた串焼きはもう一本食べたいほど美味しかった。猫用には冷ました炙りマグロを。
日本で食べれば非常に高そうな炙りマグロを食べている様子でコメントは大盛り上がり。トオルもいい感じに腹が膨れはじめていた。
「ささ! 救世主様! ウイハのポケを食べていってね!」
「ポケ?」
「あったかい白米に、味付けした魚をのっけた料理だよ!」
「あぁ、ポキ丼か」
木の器に盛り付けられたそれは「ポキ丼」と呼ばれる料理に酷似していた。角切りにされたサーモン、マグロ、きゅうりとアボカド。香りはしょうゆとわさびにニンニク。
「ください!」
「猫ちゃんは……もう満腹みたいだね」
露店のおばちゃんオーガがケンシンを撫でると、彼は「むぅー」と鳴いてトオルのリュックの中に引っ込んだ。
(お役御免、ケンシンお疲れさん)
「あざっす。いただきまーす!」
「そうだ、救世主様。残り半分になったら声をかけてね?」
「え、あ、はい」
トオルは露店の近くにあったテーブル席に座るとカメラをミニ三脚にセットしてから手を合わせた。
「いただきます!」
ホカホカ白米と漬け込まれた刺身、野菜を口いっぱいに頬張る。わさびとニンニクのアクセントがよく効いている。魚の甘い脂、しょうゆの塩っ辛さに薬味のアクセントが絶妙に混ざり合ってトオルの口の中は幸福感でいっぱいだ。
「うんまぁ……」
気がつけばもう器ののこり半分。
トオルは不思議に思いつつも露店に戻り、おばちゃんオーガに声をかけた。
「あら、救世主様。残り半分になったらこのスパイシーソースで味を変えられるんだけどしたいかい?」
先ほどサシミにかけて食べたソースだが、彼はほとんど満腹だったのでちょっとコッテリしすぎる気がした。
「あの〜、お湯とかってあります? 飲む用の」
突然お湯を求められて驚いたおばちゃんオーガだったが、救世主の不思議な要望に面白さを感じたのかヤカンに水を入れて直火にかけた。程なくしてヤカンから湯気があがる。
「お湯ができたけど、どうするんだい?」
「そりゃ……こうっしょ!」
トオルは受け取ったヤカンを持って、のこったポケの器に注ぐ。熱湯がかかるとマグロやサーモンは熱が通って白く色が変わり、醤油とニンニクのかおりがぶわっと広がった。
「救世主様? それは」
「まぁ、お茶漬けってやつだなぁ。こうすると、満腹でもするする入っちまうのよ!」
熱々のポケ茶漬けを掻っ込んで飲み込む。熱くて美味い、締めには最高の一品だった。
「もう満腹だぁ! ということで今回の配信はここまで!次の動画や配信までまったね〜!」
トオルは配信を切ると今日の同時接続と投げ銭を確認する。
最高同時接続閲覧者数 43万人
総投げ銭額 37万円
「おやまぁ、あとでおばちゃんもやってみようかねぇ。救世主様、おやババ様」
トオルの後ろには族長であるババ様とその横にはすっかり元気になったドラ猫のリナが座っていた。
「救世主様、改めてお礼を……リナもおかげさまで命を拾いましたのじゃ」
リナはトオル側によるとぴょんと飛びつく。トオルは彼女を抱き止めると顔へのすりすりを受け入れた。
「ご主人様たちを救ってくださってありがとう……救世主様」
トオルはリナのおでこを優しく撫でる。今までトオルが感謝されることといえば、居酒屋でサービスした時とかほんの小さなことだったが、まさか自分が「救世主様」なんて呼ばれる日が来るとは思っても見なかったので心がザワザワとしていた。
「お役にたててよかったよ、元気でな。また来る時はよろしく」
リナを撫でていると自然と他の猫たちもトオルの周りに集まってきていた。トオルは腕の中にいたリナをテーブルの上に下ろしてやる。
「この村の猫を代表してお礼を……あと、その。ねっ?」
リナが可愛らしくテーブルの上にお座りをするとパチパチと瞬きをして首を傾げ
「またあの美味しいご飯……ネコネコパクパクにゅーる。私たちに食べさせていらしてね」
あまりに可愛いおねだりにトオルはここに週1で通う様な気がしてならなかった。
***あとがき***
お読みいただきありがとうございます! 次章、トオル現実世界でピンチ! おたのしみに〜!
ぜひ応援よろしくお願いします!本作もトオルの様にバズりたい・・・!
作者のモチベーションが上がりますので、少しでも面白いと思ったら、広告下の☆で評価するの+ボタンからぽちっと3回よろしくお願いします。
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