episode.28 シーマーメイドの秘宝


「海だ〜! ひゃっほーい!」


 水中カメラを持って美しい海にダイブすると、透明な海中はどこまでも見渡せそうだった。トオルが高校の修学旅行で訪れた沖縄の海よりもずっとずっと透明で、異世界だからか色とりどりの珊瑚や魚たちが海底を彩っている。無論、カナヅチのトオルは足のついた状態で桟橋につかまりながら潜っている。

 ちょうど肩まで浸かるくらいの深さで心地の良い温度、トオルは浮き輪を持ってくればよかったと後悔した。


 トオルの前に現れたのは大きな魚影……ではなく


「こんにちは、救世主様」


 水中でも聞こえた美しい声。流れる様な黒髪に美しい黄色の瞳はまるで黒猫のようだ。


 目の前の人魚に見惚れていたら息が苦しくなってトオルは海面に上がって息を吸う。すると、彼女も追って顔を出した。


「ども……」


「あらあら、恥ずかしがり屋さんなのね。その黒い箱は何かしら?」


 彼女は不思議そうに首を傾げる。彼女の後方には美しい水色の尾鰭が揺れる。


「これは、記録をとってまして。こんな感じで映し出してるんです」


 トオルがデジカメのモニターを見せてやると、人魚は興味津々に覗き込む。その近さと体が水中で触れ合っていることにドキドキしつつも、トオルは平然を装う。


「みんな! 出てきても大丈夫よ!」


 彼女の号令と共に海面に何人もの人魚が顔を出す。若い男女、子供、老人。さまざまな年齢や見た目、髪や肌の色をもつ人魚たちがトオルを囲む様に泳いでいる。


「我がシーマーメイドの住処を守ってくださり、ありがとうございます。あの化け物がいなくなり、またこうしてシーオーガたちとの生活を過ごすことができます」


 一番最初に現れた黒髪の彼女がトオルにハグをするとチークキスをした。そのあとすぐに離れると潜ってしまった。


「おや、トオルさん。もうシーマーメイドたちには会いましたかな?」


 桟橋から声をかけたのはカイだった。カイの肩にはあの太々しい黒猫が乗っかっている。


「あぁ、うん。さっき黒髪の人にお礼を」


「おや、それは族長のミリア様ですな。ミリア様はババ様の幼馴染。若く見えますが、我々よりも……」


「こらカイ! なんで余計なこと言わないでちょうだい!」


 ばしゃん! と水をかけられてカイと黒猫が悲鳴をあげる。海面では不満そうに眉間に皺を寄せたミリアが揺れていた。


「す、すみませんミリア様」


「お前はそうやって口がすぎるのが良くないところね。ババの若い頃にそっくり。まぁいいわ。救世主様、これに触れてくださる?」


 ミリアが両手に持っていたものは美しいホタテ……その中に輝くパールがあった。パールは虹色の光を放っている。


「えっと……これは? あとちょっと動きにくいんで一旦上がっていいっすか?」


 しかし、ミリアは


「いいから、触れて」


 とトオルの手を掴む。そして、無理やりパールに触れさせたのだ。


「うぉっ?」


 パールに触れた途端、トオルの体がふっと軽くなり足をほとんど動かさなくても体を自在に動かすことができる。その感覚はまるで空中に浮いているかのようだ。


「潜ってみて?」


 と言いながらミリアは思いっきりトオルの肩を掴むと水の中に沈めた。トオルはカナヅチ、突然水の中に入れられるというのはパニックになる要因の一つである。


「ミリア様! 乱暴です!」


 というカイの声が聞こえたが、トオルは海中で目を見開いた。それもそのはず、水を飲み込んだと思いきや、息を吸うことができたのだ。


「これは、我々シーマーメイド族に伝わる秘宝。触れたものは我々人魚の様に水中で自由に動き、自由に息をすることができますわ」


 トオルは足がつかない場所までゆっくりと進んでみる。ふわり、ふわりと身軽に動ける上に、息が吸えないという恐怖が消える。むしろ、水中の方がより強く動けている様な気すらした。


「すげぇ」


「すごいでしょう? きっとこの力が救世主様を守ってくれますよ。うふふ、たまには私たちにも会いにいらしてね?」


 人魚たちが泳いで消えていくと、トオルはひとしきり海の中を楽しんで桟橋へと戻った。桟橋の上ではカイと黒猫のドゥアン、ケンシンが待っていた。


「トオルさん、そろそろ市場の準備ができる頃ですよ。ささ、こちらへ」


 カイの手を借りて桟橋に上がると、トオルは水を払って置いてあったタオルで体を拭った。


「あのミリア様が秘宝に触れさせるなんて……おそらく初めてのことです。まるで本当にあの本の中の出来事の様だ。俺はそんな瞬間をこの目で見ることができて……幸せです」


「また俺がお腹の上で寝てやろうか?」


 と黒猫のドゥアンがニヤリと口角を上げる。トオルは苦笑いをしつつも「ありがとな」と返事をした。


「そうだ、この村の名物ってなんかあるっす?」


「えぇ、人魚たちと協力して獲ったさまざまな魚のサシミ、ウイハサーディンの塩焼き、海底に住まう大ダコの炭焼きに、それから親交のあるネポネから取り寄せた米、しょうゆわさびソースにこちらのスパイスを加えたタレによく絡めたポケ。どれもこれも絶品で……是非」


「おっしゃ……食べ歩き配信しますか!」


「おい、トオル。俺にも魚わけてくれよ!」


 ケンシンがぷんぷんと尻尾を振った。


「わかってるよ、今回の食べ歩きはケンシン。お前にかかってるんだぞ。可愛く食べる姿で大活躍だ!」


***あとがき***


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