episode.14 ベーコンチーズとバゲットパン


「エルフの村名物のバゲットパンはいかがかな〜、焼きたてふわふわ名産のエルフヌーバターたっぷりの代物だよ! 今なら焼きたて」


 呼び込みの若いエルフに誘われて、トオルはバゲットパンの露店の前で足を止めた。簡易的なパン釜があり美味しそうな匂いが漂っている。

 焼きたてのパンの大きさは様々で食べ歩きできそうな20センチほどの長さのものを買おうかとトオルが悩んでいる時だった。


「人間のお兄さん! パンなんかよりこっちを食べていきな!」


「おい、姉さん! 人の客を奪うなよ! ベーコンバカ!」


 パン屋のエルフが声を荒げる。しかし、隣の露店の若い女性エルフは驚きもせず続ける。


「お兄さん、こっちはエルフ豚のベーコンをこれまた名産のエルフヌーのチーズに巻いて串焼きにしたベーコンチーズ串だよ! しょっぱくてカリッと香ばしクリーミー! あつあつのチーズがよく伸びる! さぁ、買った買った!」


 ベーコンチーズ串は非常に誘惑的な香りを漂わせている。カマンベールチーズのような丸いチーズにベーコンを巻きつけ炭火で炙っているのだ。ベーコンに覆われたチーズは、噛み付けばきっとトロッと溶け出すだろう。


 トオルはあまりの誘惑にどちらも買うことを決心する。


「ご姉弟なんですか?」


「そうだよ〜。うちは代々大きな牧場をやっててね。売上がいい方が後継になれるって話でさ。さ、男同士こっちを応援しておくれよ」


「ちょっと、お兄さん。こっちを買ってくれたらベーコン串もサービスちゃうよ! パンだけ食うなんて喉がパッサパサになっちゃうよ!」


 そんな喧嘩にトオルが巻き込まれていると、人間が物珍しいのかいつのまにかギャラリーができていた。


「そうだ……パン屋のお兄さん。その中くらいのバケットパンにこう切れ目を入れて半分にしてくれないか。あぁ、そうそう横じゃなくて縦に。そんですぐ食べられるように簡単な紙に包んでくれるかい?」


「こうかい? こんな長細くするなんて奇妙なこった。さ、200ゴールドだよ」


 トオルはパンを受け取ると「負けた」と不貞腐れているベーコンチーズ串のお姉さんに


「ベーコンチーズ串を串から外してこのパンに挟んではくれませんかね?」


「いいけど……こうかい?」


 お姉さんはトオルからパンを受け取ると、ベーコンチーズを串から外しながらパンに挟んだ。


「できれば2つくらいお願いします」


「あいよ、ベーコンチーズ串2つで500ゴールドね」


 トオルのおかしな行動にギャラリーのエルフたちは足を止めて注目をしている。一方で、トオルの配信はさらに大盛り上がりを見せていた。


<まさか……Truくん。サンドイッチを製作中?>

<サンドイッチわろたw>

<これは美味い>

<エルフヌーとかエルフ豚とか結構設定が凝ってらっしゃる>

<くっそうまそう>

<美形喧嘩系姉弟最高>

<はよ食ってくれ……俺は飯テロが喰らいたい>

<ヌコかわいい、ヌコもベーコンくいたそう>

<塩分あるからヌコにはやるなよ>


「完成! ベーコンチーズサンド!」


 トオルは受け取ったベーコンチーズサンドを手にそそくさと路地の端っこに向かおうとしたが……


「それ美味いんか? お兄ちゃん食ってみてくれよ」


 ギャラリーに急かされてトオルはその場でサンドイッチに噛み付いた。口に入った瞬間、外がカリッとし中がふわふわのバター香るバゲットパンにこんがりカリカリのベーコン、噛み付けば熱々致死量のとろけたチーズが流れ出してくる。


「あふっ、うまっ!」


 口の中を火傷しながら、それでもトオルは次の一口を止められない。パンの甘さ、ベーコンとチーズの塩っけ、異なる3つの食感。悪魔的カロリーは悪魔的な依存性。トオルは配信も忘れて一口、また一口とかぶりつく。


 そんなトオルを見ていたギャラリーたちはゴクリと喉を鳴らし、


「俺も! パンを切ってベーコンチーズ串を串から外して挟んでくれ!」


「私も! 3つ包んでちょうだい!」


「チーズ抜きでベーコンだけ挟んで! そうだ、持ち帰って野菜も一緒に挟んでみようかしら!」


 露店にわっとエルフたちが群がり、トオルは押されつつなんとか人だかりから抜け出した。


「おっとっと。 みなさん、うますぎて夢中になっちゃいましたが名産品でつくったサンドイッチ最高でした! よし、次は締めに何か探そうかな〜」


同時接続閲覧者数 120,0001人

総投げ銭額 354,200円








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る