episode.13 再・エルフの村へ



「さて、俺はワープ空間を小さく作り出して小瓶に閉じ込め安全な電波のみを飛ばすワープ空間を生成することに成功したわけだ。んで、やることと言ったら」


 ケンシンが上品におすわりをした後に首を傾げた。


「食べ歩き配信っしょ!」


 先日アップした「エルフ母娘とこんがりパン」という動画は100万再生、収益は来月楽しみだ。

 

「なんせ、生配信は投げ銭があるからな!」


 この男、ゲスである。


「投げ銭を稼いで、結衣ちゃんに恩返しするんだっ! あと、お家賃をですね〜。っってごちゃごちゃ言わずに行きますか」


「ナ”ー」


「お前もいくかい? ケンシンよ」


「ナー、ナーゴ」


 ケンシンはぴょんとリュックの中に入ると、トオルはずっしりと重さを感じる。そのまま安全のためにチャックを閉めて押し入れを開けワープ空間を展開する。


「さて、俺はこの前行ったエルフの村に行きたい!」


 そう呟いてからトオルはワープ空間に飛びこんだ。


***


「いててっ」


 ゴロンと転がった先は見覚えのあるログハウス。

 そして、目の前にはドアップの幼女。ピンク色の髪と瞳、キラキラのお目目がぱっと見開くとにっこりと笑顔になる。


「ままー! お兄ちゃんきたよ!」


「ナー」


「猫ちゃんもきた!」


「あらあら、トオルさん。お久しぶりですね。いらっしゃい。あれから少し時間が経ちましたがお怪我の具合はどうですか?」


 ナターシャは前よりも少し健康的な肌艶で綺麗になっている。トオルはそんな緩徐に見惚れつつ「怪我は大丈夫」と返事を返す。


「お陰様で、この村もかつての活気を取り戻したんですよ。よければ見に行ってくださいね」


「えぇ、それを記録しに来たんです」


「まぁ、それじゃあ初めて会った時の質問に答えましょうか」


「え?」


「質屋さんの場所」


「お願いします!」



 エルフの質屋でトオルの安物ルビー風ピアスは6000ゴールドに換金できた。ちなみに、ナターシャの宿が1泊500ゴールドなのでかなり良い取引になった。


「さて、皆さん。今日はエルフの村の食べ歩き配信をしていきたいと思います!」


 配信を立ち上げたトオルは、スマホを自撮り棒にくっつけて手に持ち自分の顔を写しつつ配信画面も確認する。


 同時接続閲覧者数 3000人


 SNSで予告はしていたものの、開始数分で四桁に達した事実にトオルはかなり驚いた。WowTubeの登録者数は現在50万人。トオルがどこかのネット記事で読んだところ、登録者数全員が見に来てくれるわけではなく「同時接続閲覧者」いわゆる「同接」が多い方がパワーが強いインフルエンサーと言われているそうだ。


<すげ、スタジオ?>

<ってかまじでこのクオリティ生配信えぐい>

<Truくん、動いて>


「はい、動きます〜。今日はエルフの村の市場で食べ歩きをしていきます! ここはフルーツと野菜が有名で、結構ヘルシーな感じの食べ物になりそうです! できるだけ異世界っぽいのをご紹介するのでお楽しみに〜」


<おい、美人エルフマッマ見せろ>

<ロリエルフは?>

<すげ〜、海外ですか?>


「宿へは後で帰ります。いったんは食べ歩きを見てね〜」


 トオルが市場へ向かう間も同接は増え続ける。以前、トオルが来た時よりも明らかにエルフたちが多く、活気に満ち溢れている。子供たちが楽しそうに走り、買い物帰りの母親エルフは紙袋を抱えていたり、ちょっと強引な呼び込みや出店のおっさんと喧嘩してるおばちゃんがいたり……。

 トオルは自分がこの景色を守ったのだと思うとなんだか自慢したい気分になった。


同時接続閲覧者数 9000人

同時接続閲覧者数 10000人


「人間のお兄ちゃん! よってらっしゃい見てらっしゃい! とれたて禁断の果実ガリンゴだよ!」


 青髪エルフの渋いおっちゃんの屋台、木箱にはたくさんのリンゴらしきものが売られている。


「ガリンゴ? これ今食べられますか?」


「おうよ、1カップ300ゴールドだよ」


「買った! お願いします。ちなみに初めて見るんですが禁断って……?」


「おや、禁断の果実は初めてかい? まぁ、体に悪いもんじゃないがこれを一度食べたもんはすぐにここに戻ってくることになるさね。その理由は……ガリンゴは食べ頃になるとこの皮を覆うように糖分を纏うんさね」


「糖分? 」


「見てみな、テラテラ光ってるだろ? それは全部甘い蜜なんだよ」


「うわ、天然のリンゴ飴ってことか」


「リンゴ飴?」


「いいや、こっちの話っす。はい、300ゴールド」


「おうよ、どうぞ。ところでにいちゃん。その黒いのは何だい?」


「これは記録を取ってて、美味しい食材を紹介してるんす」


「へぇ、禁断の果実ガリンゴよろしくな!」


「あざっす。ではちょっと食べられるところに移動して……っと」


 少し人通りが落ち着いている場所に移動し、トオルは顔の横にガリンゴの入ったカップを映すように持ち上げた。


<おぉ、すげ〜出来>

<ってかエルフのおっさんの解像度えぐすぎる>

<いいね〜、投げ銭しちゃう! 1万円>


「お、投げ銭ありがとうございます! いただきます!」


 トオルはカットされたガリンゴを口に放り込んだ。噛むと溢れ出す果汁は日本産のふじりんごを彷彿とさせる爽やかな甘味。皮の部分はまるで飴のような甘くてカリカリの糖衣に包まれていて食感が大変面白い。


「うんまっ……完全にリンゴ飴です。けど、あっちの世界のリンゴ飴よりもはるかに……果汁がえぐいっ」


 ほんの一口食べただけで溢れる果汁が尋常ではない。トオルが一つ楊枝にさして持ち上げると果汁が滴るほどだ。


<うまそ〜!>

<しずる感えぐすぎる>

<ヌコ>

<ヌコ>

<ヌコ 1000円>

<ヌコ助かる 2000円>

<ヌコ>


「ヌコ?」


 トオルがコメントの盛り上がりをみてモニターを確認するとリュックからできたケンシンが半身を乗り出してトオルの肩に前足を乗せてドヤ顔をしていた。


「ナー」


「この子はSNSでも紹介した飼い猫のケンシンです。一緒に異世界旅中でございます! 可愛いだろ」


「ナ”ー!」


<ヌコ様は正義>

<かわええ 美猫や>

<これは助かる>

<助かりました>

<いいね、はよエルフマッマ>


「さ、そうそう。エルフの村はパンが有名らしくてちょっと探していこうと思います」


 ネココメントが続く中、トオルはガリンゴを食べ終わると再び市場の方へと向かう。漂うフルーティーな香りの中に圧倒的に感じるバターの香り。きっとどこかにパンの露店があるようだとトオルは確信していた。


同時接続閲覧者数 10,0230人


「10万人⁈ これってWowTuberの中でも大台に載ったんじゃ? まじか、みなさんありがとうございます!」



 トオルはバクバク波打つ心臓の高鳴りを感じながら、次の店へと向かうのだった。

 






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