episode.11 トオル、猫を飼う。
「あらまぁ、このこはメインクーンの雑種かしらねえ」
「そうだね。生後1年未満ってところか。健康状態は問題なし、少し肥満気質はあるから食事には気を付けてあげること。毛玉ができてしまってるからうちのトリマーにシャンプーをお願いしようか」
「お前……まだ子供だったんか。もっと大きくなるっすか?」
獣医のお兄さんは猫の頭を撫でながら
「メインクーンは個体差があるけれど大きくなるかもね」
と笑って見せた。トオルはそのネコが異世界産であることを伏せつつ愛想笑いで誤魔化す。
「すみません、俺お金が」
「いいのよぉ。トオルくんにはいつもおばあちゃん。お世話になっているからねぇ」
そう言ってネコを抱き上げた老婦人は、トオルのアパートの大家をしている
「母さん、彼がいつも買い物を手伝ってくれてる入居者さん?」
獣医のお兄さんがトオルに「いつも母がお世話になっております」を頭を下げる。
「じゃあ、猫ちゃんのシャンプーをするから1時間くらいしたら迎えにきてくださいね」
「ありがとうございます」
「さ、トオルくん。猫ちゃんを飼うために色々買いに行かないと」
トオルはネコがシャンプーされている間、太田さんとペットショップに行き、一旦お金を借りてネコの餌やトイレなどを買ってもらったのだった。
***
あのアパートで唯一のフリーターであるトオルは時たま、この太田さんのために買い物代行をしたり簡単な設備の修理などを手伝っていた。アパートの一角で猫と一緒に暮らしている太田さんをトオルが頼ったのは言うまでもない。
「また何かわからないことや困ったことがあったら聞いてね」
「すみません。いつもありがとうございます」
「いいのいいの。トオルくんにはいつもお世話になっているからね。さ、ネコちゃんも拾ってきて環境が変わってストレスを感じているだろうから今日はお家でのんびりさせてあげなさいな」
「はい、じゃあ失礼します」
太田さんにお礼をいったトオルは部屋へと戻る。薄汚れていたネコは真っ白でふわふわな塊になり、大人しくケースの中で眠っている様だった。
「お前、幸せもんだなぁ。ネコよ」
「ナーゴ」
「ただいま〜っと。よかったな、うちのアパートの大家さんが猫好きでよ」
「ナーナー」
「けど、お前結構美猫だな? 写真撮らせろ」
トオルの言葉がわかっているかのようにネコはケースから出るとテーブルの上にお座りをしてすまし顔をした。まるでどこかの貴族みたいに高貴な顔立ちとふわふわの白い毛、三角耳からはちょんちょんと産毛が生えていて結構な大きさだがまだ子猫であった。
「はい、チーズっと」
美しいネコを速攻でZにアップするとトオルは布団の上にダイブする。エルフの村での大騒動、その後の異世界ネコ連れ帰り騒動。バタバタとしてほとんど眠れていなかったのだ。
「ナ”ー」
ずしっと胸に前足が乗る、4本の足がトオルの体の上に乗っかって器用にのしかかると香箱座りでじっとトオルの顔をネコが見つめる。目が合うとネコはゆっくり瞬きをするとスヤスヤとそのまま眠ってしまうのだった。
「あったけ……いい重さだなぁ」
トオルが猫の背中を撫でると、ネコは四肢をびよーんと気持ちよさそうに伸ばす。手触りが滑らかで暖かくて、ネコの呼吸がトオルを深い眠りへと誘った。
***数時間後***
「こんばんは〜」
「結衣ちゃん、いらっしゃい」
「わぁ、猫ちゃん! 本当に異世界から?」
「そうだぜぇ、ふあぁ」
あくびをしたトオルをみて結衣はクスッと笑うとスーパーの袋をキッチンの作業台にそっと置き、ネコに挨拶をするように拳を差し出した。そのままネコが匂いを嗅ぎ、結衣の手に擦り寄ると彼女は猫の額をゆっくりと撫で「かわいぃぃ」と悶絶する。
「でも、嫉妬しちゃうなぁ。あんな可愛いエルフさんと写真撮っちゃうなんてさ。Zのトレンド凄いことになってたよ」
「ま?」
「トオルくん、見てないの? またネットニュースになってたよ。話題のWowTuberが新作予告か! って」
トオルはバタバタしていて確認できていなかったスマホを見ると、結衣のいう通りZの閲覧は1000万インプ超え、美しすぎるエルフ母娘で話題は持ちきりだった。
「すげぇ、有名な芸能事務所からも紹介してくれってDM来とるわ」
「妬けちゃうな〜。異世界にはやっぱり可愛い人が多いの?」
「うーん、確かにナターシャとリータは美形だったけど……アニメやゲームのファンタジーみたいに全員が全員美形ってわけではなかったよ。ネコをいじめるクソガキは悪い顔してたし、太ってるエルフやガリガリのエルフもいたし」
「そうだ。次の動画はいつ? 私、すごっく楽しみで……」
「それがですな……聞いてくださいよ。結衣ちゃん」
「じゃあ、ハンバーグを食べながら聞かせてね」
ほとんど使っていないキッチンから良い匂いがして、トオルはごくりと喉を鳴らした。エプロン姿の美女が作るハンバーグうまいに決まっているのだ。久々に稼働した炊飯器、テーブルに並べられた皿は不揃いで、箸は割り箸だった。
「さ、たくさん食べてね!」
「ありがとう、結衣ちゃん! いただきます!」
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