episode.2 換金はクソ余裕だった件
セイデンの質屋は路地の突き当たりにひっそりと立っていて、小汚い木の扉に見慣れない文字の看板がかけられている。
不思議と理解できるのでトオルは感心しつつ、ドアを開けた。
「いらっしゃい。おや、異国の人かい?」
中には4畳ほどの展示スペースとその奥にはカウンターがあり、そこにはオーガ族と思わしき、紫色の肌にいかついツノを生やしたおっさんが立っていた。
「どうも、これを金に変えたくてね」
トオルがカウンターに置いたのは小さなピアス。これは彼が大学生時代に安いアクセサリー屋で1000円で手に入れたものだ。
安いプラスチックのダイヤ風ピアスで、特に気に入っているわけでも思い入れがあるわけでもない。
「おぉ、珍しい品物だね。これはどこで?」
「あ〜、俺の国だよ。かなり遠くさ」
主人はぎらりと強い視線でピアスを見つめると、カウンターの下にあった引き出しから虫眼鏡のようなものを取り出してまじまじと見つめる。
一方でトオルは「安物だとバレたら殺されるのでは?」なんてありもしない妄想のせいで少し内股になっていた。
「かなり加工しやすい金属、銀色だか銀でない。その上、この宝石はとても軽いのに美しい。ただ、少し壊れやすそうで使用済みと見られる汚れがある」
「あははは〜、すみません。金に困ってまして」
「そうかい、異国から来たんじゃ。仕方がないな、この街に来る異国出身はみんなそうだよ。店の中を見てごらん、さまざまな品があるだろう? みなここに来て金を作るのさ」
トオルが店内の棚に目をやるとそこには本当にさまざまな品物が並んでいた。
不思議な色の羽や不気味に光る大きな鱗でできたバッグ、ぎょろぎょろ動く目玉がついた手帳……。
「これ、記録に残しても?」
トオルがカメラを構えると店主は不思議そうに首を傾げたが「お好きに」と肩をすくめた。
「あざっす」
トオルは小声で実況をしながら不思議な品物を一つ一つうつしてく。
「気をつけろ」
と急に言われて後ろに一歩引いた時、先ほどまでトオルの手があった場所に大きな食虫植物が大きな口をバクッと閉じた。
「わあ⁈」
「そいつは、北東のドワーフからの珍品でな。地下に生息している食肉植物だ。にいちゃんの細い腕なんか噛み砕いちまうぞ」
「おぉ、助けてくれてあんがとよ」
「よし。気に入った。これは5000ゴールドで買い取ろう。ちなみに、この街は今日が初めてか?」
「えぇ、まぁ」
「この町で5000ゴールドといえば、格安の宿なら一泊500ゴールドで泊まることができるから、10泊分と考えてくれ。どうかな?」
トオルは1000円のアクセサリーが格安宿屋10泊分に変わったと考えればかなりの良取引なのではと即決した。
もし、これがよくない取引だとしてもたかが1000円のアクセサリーであったし何よりもこのバズるの確定動画のためなら痛くも痒くもなかったのだ。
「じゃあそれで」
「そうかい、コインと紙幣どっちにするかい?」
「あ〜ちょっと露店で買い物したいんでいい感じに両替できます?」
「あいよ、楽しんでいきな」
「あざっす」
セイデンの質屋を出るとトオルは思わずガッツポーズをした。というのも、こんなにも簡単に現地の金銭が手に入ったのだ。
小さな麻袋に入ったコインと紙幣はずっしりと重く、じゃらじゃらと音を立てている。
「みなさん、無事オーガ族の店て換金ができたのでこの後は食べ歩きをしていきたいと思います!」
カメラに向かって宣言をして、彼は路地裏を出ると表の通りへと戻った。そのまま、さっきの串焼き肉の店まで真っ直ぐ戻っていく。
「おばさん、一本ちょうだい」
「あら、本当に戻ってきてくれたのねぇ。異国のお兄さんにはいい部位をあげようかねぇ。はい、熱いから気をつけな! コグー肉の焼き串だよ」
トオルは次の店に狙いを定めながらも、思い切って未知の肉に噛み付いた。
「異世界の方が金稼ぐの余裕な件! 最高〜!」
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