第2話 美少女に転生しました!
いつもと違うベットの中で目を覚ました。
当然、知らない場所だ。見覚えのない天井だった。
たしか、僕は山で鉄格子に埋もれていたはずだ。
しかし、そこから先の記憶がない。
頭を振ってみても思い出せそうになかった。
ひとまず周囲へ意識を向けてみると、近くから寝息が聞こえてきた。隣を見ると、白髪ロングの美少女がむにゃむにゃと寝言を言いつつ眠っていた。
僕は、そんな無防備な美少女の寝顔を見つつ、ゆっくりと体を起こした。
「…………」
これはいったいどういう状況だ?
山で倒れていたところを助けられて、今は山小屋の中ってことなのかな?
それにしたって、白髪ロングは現実離れしすぎている。脱色という感じでもない。
顔立ちからしても、とてもじゃないが日本人には見えない。
ただ、隣で寝てるってことは何かあったのか?
そこで、自分の体に意識を向けると、何かがおかしいことに気づいた。
胸部がやたらと重いのだ。
おそるおそる自分の体を見下ろしてみると、そこには谷間ができるほどの巨乳があった。そして、肩に触れる僕の髪は、隣で眠る美少女同様の白髪になっていた。
ストレスか? ストレスでおかしな夢でも見てるのか!?
「あー、起きたー? よかったー、目をさまさないかと思ったよ」
僕の動揺を受けて目を覚ましてしまったのか、白髪の美少女は、んーっと伸びをするようにしながら、間延びした声でそういった。
眠そうな顔でふわぁとあくびをしながら僕を見る、そんなかわいらしい様子に、思わず見とれてしまいそうになる。
「どうかしたの?」
不思議そうに首をかしげながら体を起こした白髪の美少女。かけられたシーツがずれることで、何も着ていないこと素肌があらわになる。
ただ、はだけた美少女の肢体以上に、僕の意識は彼女の頭部に集中していた。
隠していない猫成分。寝ているときには見られなかった部位。
それはどこからどう見ても猫耳だった。
「どうしたの、それ」
僕の声の調子がおかしいことをスルーしつつ、僕は白髪美少女の頭部を指さして聞いていた。
すると彼女は、僕の指につられるように上を見上げ、耳をひょこひょこさせたかと思うと、ペロっと舌を出してはにかんだ。
「あ、やっちゃったにゃ」
バレてしまったことを取り繕おうともせず、白髪の美少女は照れたように頭をかいた。
「人間のふりをして接触するつもりだったんだが、にゃかにゃかうまくいかにゃいにゃ」
そんなことをごく自然と言ってのける。
「つまり、きみは人間じゃなくて、僕を騙そうとしてたってこと?」
僕の言葉に彼女は首を横に振った。
「そうじゃにゃい。人間じゃにゃいってバレたら、何かと面倒だから、人間だってことにして、まずは関わった方がいいんじゃにゃいかと考えたんだにゃ」
「それを騙そうとしたって言うんじゃ……」
僕の疑う視点をかわすようにしながら、白髪美少女はこほんと小さく咳払いした。
「アタシはニャオミ。いやー、ちょうど転生させるのによさそうな人間を探してて、そこでちょうどいいところで助けてくれた人間が、ちょうど死にそうだったから、こうしてシゲタカを転生させたのにゃ」
「転生……?」
「そ。まぁ、アタシはお前らが言うところの神様にゃ。それぐらい余裕でできるにゃ」
そんなお前だけに都合のいいことがあってたまるか、と言いたいところだが、現実に起きている以上、これはきっとリアルの話なのだろう。
しれっと名前もばれているし、神様ということを疑っても意味はなさそうだ。
しかし、助けた、という事は、あの死にそうだった薄汚れた灰色の猫が、目の前の神様ということだろうか。
「つまり、ここは竜宮城で、きみはカメってこと?」
「いや違うにゃ。にゃんでそうにゃる。ここは異世界で、アタシは猫の神だにゃ!」
にゃんでやねん! と僕の胸が叩かれた。新たにできた肉塊がぶるんと揺れる。
ふむ。これは要するに、異世界転生というやつか。
あまりにも非現実的だが、鉄格子の連打を顔面に何度もくらって生きていたり、人間の頭部にくっついた動く猫耳を見たりすれば、にわかには信じがたいことでも飲み込まざるを得なさそうだ。
「でも、どうして僕は女の子になってるの? それもおそらく、きみとそっくりな、白髪ロングの巨乳美少女に」
「あの鉄格子の雨あられを、全部顔面で受けるほど、自分の顔が嫌いみたいだったから、アタシの見た目に似せておいてやったんにゃ。人間、好きだろ? こういうの」
自信満々に、その肢体を見せびらかしてくる猫神のニャオミ。
ひょこひょこと動く猫耳が可愛らしい。
そんなニャオミの猫耳に、僕の頭上の耳も連動するかのように、ひょこひょこと動くのが感じられた。
生えている! 女の子になったのに、生えている!
「元に戻してくれよ! 僕は言うほど、前の自分の顔が嫌いじゃない」
「ニャルシスト?」
「そうじゃない! ニャルシストだと何か違うし。それに」
「まぁ落ち着けって」
抗議しようとする僕を制止するように、ニャオミは手を突き出してきて言った。
「オタクのお前にゃわかりやすいだろうが、にゃにも、アタシの気まぐれでお前を転生させたんじゃにゃい。理由があって転生させたんにゃ」
「オタク言うな」
「つーわけで、世界を救って、お前の願いを叶えたほうがいいんじゃにゃいか? どうせこのまま戻っても、顔面に鉄格子がぶち刺さったまま死ぬだけにゃ」
僕のツッコミには取り合わず、ニャオミはそこまで言い切った。
「うーん……」
さすがに、顔面に鉄格子がぶっ刺さるような悲惨なことになっていた記憶は無いのだが、とはいえ、あれで無事とはいかないだろう。
そう考えると悪い話とも思えない。
「どうにゃ? 一考の余地はあるんじゃにゃいか?」
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