第1話 witch and doll and human㊴
「――行ってしまいましたね」
ゆっくりと右手を下ろしながら、ポツリとリリィが呟いた。
「そうだな」
ジムは短くそう答えると、いつの間にか咥えていた煙草に火を点ける。
「大丈夫でしょうか?」
「何がだ?」
「何がって……あの三人のことに決まってますよ」
「あいつらなら大丈夫だろ」
「なんでそんなこと分かるんですか? だって三人ともまだ子どもですよ? まあ、一人機械人形ですけど……」
ムッとして言うリリィに、ジムは思わずぷっと吹き出してしまう。
「な、なんで笑うんですか! 上司と言えど――」
「いや何。そんなに心配なら引き止めた方がよかったんじゃないかと思っただけさ。ただ、俺は別に何の根拠もなく言ったんじゃないよ」
「え?」
「カンってやつだ」
その一言に、リリィが露骨にげんなりとした表情を浮かべる。
「それ、何の根拠にもなってないですからね?」
「それはまだ鍛錬が足りてない証拠だ。さっ、俺たちもそろそろ署に戻るぞ。やることは山ほどあるんだからな」
そう言って背を向けて歩き出す上司に、リリィは重いため息を吐き出す。でも、確かに彼の言う通りだ。自分たちがやらなければならないことは山のようにある。
ムアヘッドのこれまでの悪行を暴くことに始まり、爆破テロの処理と、他にも様々な事柄を同時に対応しなければならない。警察機構はきっと大きく荒れることだろう。そうなると自分もここで呑気にはしていられない。
「……忙しくなるわね」
口ではそんなことをぼやいてみるも、少しも嫌な気がしないどころか、どこか清々しい気持ちにさえなっているのは、きっと彼らのおかげだろう。
どうか、あの三人の旅路に幸が多からんことを。
そんなことを願いながらもう一度走り去ってしまった汽車の姿を探すけれど、もうすっかり見えなくなってしまっていた。
「おーい、ホップルウェル巡査! 早く行くぞー」
「えぇ。すぐに!」
走り出したリリィの顔には、希望に満ちた明るい笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます