第1話 witch and doll and human㉔

「ここか?」

「んー中から声が聞こえるし、多分ここだと思うんだけど……」

「だよな」


 ライアンとフィーは壁に耳をつけながら部屋の中の様子を伺っていた。そんな二人を、イニは何してるんだこいつらと言いたげに見上げている。


「ねぇ、私にも聞かせてくれない?」

「あっごめんごめん」


 フィーが服の中からイニを取り出すと、そのまま二人がそうしているように壁に耳を当ててやる。


「うーん……中は五人ってとこかしら」

「えっ」

「声の感じからして……男が四人と女が一人……いや、全員男かも? 一人だけ喋らないから分かんないけど」

「ちょっと待ってイニ。なんでそんなに分かるの?」

「? 分かるから二人はこうしてたんじゃないの?」


 きょとんとした顔でイニはフィーとライアンを交互に見比べる。


「いや、俺たちは声がするなぁぐらいしか分からないな……」


 ライアンの言葉に、フィーが同意するように頷いてみせる。そんな二人に、イニが頭痛がするとでも言いたげな表情を浮かべる。


「嘘でしょ?」

「いや、本当だけど……」

「んんんんんんん? 言いたいことは色々あるけど……とりあえず今はいいわ。雰囲気的に接待の場所はここで間違いなさそうだけど、ライアンは突っ込む以外に案はある?」

「ない」

「そうよね。フィーは?」

「あたし? そうだなぁ……出てくるところを待ち伏せするとか?」

「それもいい案ね。じゃあ、フィー。とても今更なことを確認してもいい?」

「確認?」

「えぇ。ここから先はさっきみたいなことが起こらないとは限らないわ。だから、フィーはここで隠れてていいと私は思ってる。アンタはどうしたいの?」

「え? あ、あたしは……」


 自分はどうしたいのだろうか。流れで何となくここまで来てしまったし、実際この後自分がどうなるのかは分からない。

 ボスたちが捕まらなかったとしたら、自分の未来は決まっているのだから、別にこんなところまで来なくたってよかった。それでも、ここにいるのは、きっと二人に申し訳なさがあるからだ。


「一緒に行くよ。もちろんさっきみたいなことがあったら、あたしは足手纏いになると思う。でも、でもね。二人には、財布を盗って迷惑をかけちゃったもの。それに、ここから逃げるってなった時には、この町について知ってる人がいた方がいいでしょ?」

「……そっか」


 イニはそう呟くと、ライアンの目を見る。ライアンは何も言わず、フィーの青い目を見返してこくりと頷いてみせた。


「よし、じゃあフィーは俺の後ろでイニを守りながらついて来てくれ。基本俺が中で暴れて、目当てのもん回収して、後は逃げるぞ」

「そんな上手くいく?」

「中は五人だろ? それくらいなら平気だって」

「うーん、確かにキミなら大丈夫だろうけど……と言うかそもそもキミの欲しがってるものってなんなの? キミのお財布はここにはないと思うよ?」

「あーそう言えば言ってなかったか。もちろん財布について取り返せたらラッキーってとこだけど、本当に欲しいのは白の魔女のラクリマ。まぁ、今探してるのはそのカケラだけどな」

「ラク……何それ?」

「詳しく説明すると長くなるから省くけど、簡単に言えば魔女の命みたいなもんだよ」

「いや、全然説明になってないから。そもそも白の魔女って御伽話の中だけの話でしょ? その命って言われてもあんまりピンと来ないんだけど」

「いやそうは言ってもさあ……」


 ライアンが頭をガリガリと掻くと、助けを求めるようにフィーの腕の中に収まっているイニに目を向ける。


「とりあえず宝物と言うか、小さな兵器みたいなもんよ。カケラだけでも扱える人が使えば、やろうと思えば国一つ簡単に滅んじゃうぐらいのね」

「えっ、えっ、そんなのが二人は欲しいの? 二人はもしかして犯罪者か何かなの……?」

「ちげーよ! 俺が何で欲しいかってーとだなぁ――」


 言いかけて、ライアンは顔をハッと上げる。フィーもつられてそちらへ顔を向けるのと、先程まで耳を当てていたのと反対側の扉が勢いよく開かれるのは同時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る