第15話

「あー! 千晴がいるー」


 振り向いた先で、女子生徒がこちらに指をさしていた。同じクラスの星川あゆみだった。背後に女子を二人引き連れている。


 陰キャ御用達の屋上にはそぐわないキラキラした女子たちだ。

 髪を少し明るくしていたり、ちょっと制服を着崩していたりと、いわゆるちょいイケてるグループだ。


「あれっ、星川さん? いつの間に?」

「いたよ? ずっと」


 これだけ目立つ集団ならすぐに気づくはずだが、千晴たちが屋上にやってきたとき彼女たちの姿はなかった。


「えっ、どこに?」

「あのテントの中。みんなで屋上キャンプ動画撮ってた☆」

 

 あゆみは仲間を振り返って「いえーい☆」と謎の盛り上がりをする。

 

「パリピすぎる」

「『学校の屋上でキャンプしちゃいました☆』で投稿したらこれ絶対バズるでしょ」

「炎上するのでは?」


 思ったよりヤバイ子なのかもしれない。

 今度から基本敬語にして少し距離を取ろうかと思っていると、あゆみは千晴の近くにしゃがんだ。

 

「え、てか、そっちこそなにしてんの? わざわざシートまで敷いて」


 ついさっきまで強気なエロ釣りムーブに入っていたひかりは、いつの間にかレジャーシートの隅っこを見つめて小さくなっている。一言も発しない。

 星川あゆみはその姿を見てなにか察したのか、


「ははーん、無理やり転校生にコナかけて……ついに化けの皮剥がれたね千晴。そんなやつだと思わなかった……」

「いやいや誤解だから。そういうんじゃなくて……」

「じゃあなんで二人で屋上にいるの? なにしてたの? 黒崎さんも、なんか千晴とだけ仲いい感じ? なんで?」


 早口で質問される。口調こそ明るいがなにか怖い。

 黙ってうつむいていたひかりが焦りだした。 


「ち、違うわよ! こ、こんな男、べっ、べつになんとも思ってないんだからね!」

「……なんで急にツンデレ?」


 あゆみが首を傾げると、後ろにいた女子二人が近づいてきた。ひかりを囲みだす。

 

「えー誰? 転校生?」「ヤバ、髪つやつや」「ガチかわいくね?」「えっ、ヤバ」

「あ、あわあわ……」


 対するひかりはアワアワ言うだけだ。

 実はアワアワを口に出して言う人はあんまりいない。


「で? 回答は?」


 あゆみはしつこく聞いてくる。 

 しょっちゅう二人でこそこそやっていたら怪しまれるのは当然だ。

 こうなるとひかりのこっそり付き合ってる設定を通すのはどう考えても厳しい。


「いや、実はひかりとは昔から知り合いで……元幼馴染でさ」


 もういいでしょ、という意味を込めてひかりを見る。

 ひかりを介護するにしても、そういう名目があったほうがやりやすい。そもそもそこに関しては事実なのだから変に隠すのもおかしい。


 千晴のアイコンタクトに対し、ひかりはぼそっと低くつぶやく。

 

「……元?」

「あ、元は余計でしたねはい」

 

 ひっかかるのはそこだけらしい。ひかりもこれ以上隠すのは無理と悟ったのだろう。

 あゆみが大きく目を見張る。

  

「へ~? そうなんだ? もともと知り合いで……それで仲良し?」

「まあ、多少は……」

「ふぅ~~ん……」


 半笑いとも薄笑いともなんとも言えない表情で、あゆみは千晴たちの顔を交互に見比べる。やはりちょっと怖い。

 

「で、付き合ってるの?」

「いやいやちがうちがう、そういうんじゃないから! 知り合いってだけで!」

「そうだよね、なんかもう『格』が違うもんね。見た目からして」

「そうそう、僕なんかがね、釣り合うわけないから」

「ですよね~」

「ちょっとは否定してくれないかな」


 それで満足のいく回答を得たらしい。

 あゆみはぱっといつもの笑顔に戻ると、


「んじゃ、お邪魔しました☆」


 と軽く飛び跳ねながら身を翻した。ひかりで盛り上がっていた仲間とともにそのまま屋上を出ていった。


「そしてテント立てっぱなし!」


 せめて後ろ姿にツッコミを入れる。

 彼女たちの姿が見えなくなると、屋上はまた元の静かな場所に戻った。 

 ひかりはというと、ついさっき圧をかけてきた姿は見る影もなくおとなしくなっている。


「絡まれてたけど、大丈夫?」

「ヨウキャ、コワイ」

「でも別に害のある感じじゃなかったでしょ」

「コワイ、ヨウキャ」

「ロボ化しちゃったよ」


 そうこうしているうちにチャイムが鳴った。あちこちにいたボッチ勢がいっせいに屋上を出ていく。みんな時間には厳しいらしく撤収は早い。

 千晴も急いでシートの片付けをする。やっと正気を戻したらしいひかりがぼそりと口にした。

 

「でも、ついにバレちゃったね、私達の関係……」

「ただの昔の知り合いとしか言ってないけどね」

「ハルくんカッコよかったよ。俺がすべての責任を取る! って感じで」

「え……?」


 視点によってずいぶん見え方が違うらしい。

 文句を言われるかと思いきや、ひかりはうれしそうに背後から肩に手を乗せてきた。


「なんだか、これから楽しい学園生活が始まりそうな予感!」

「唐突な次回予告」

「あやうくざまぁされそうになったけど……きっとカレのこと、振り向かせてみせる!」

「危険なスタートラインの少女漫画主人公」


 ふわっと鼻先にフローラル系のいい香りがする。と同時に、肩にずっしりとした重みがのしかかるのを感じた。





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強引なタイトル回収

まだ完結ではありませんがもう完結でもええかこれ。

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