ゴールデンウィークのメール

水沢妃

ゴールデンウィークのメール

 迷惑メールって、よく来ると思う。

 おそらくどこかのサイトを踏んでしまったとか、広告をクリックしてしまったとか、そういうきっかけがあるからある程度は「あれのせいか」と予想がつくけれど、ゴールデンウィーク中に来たメールはちょっと毛色が違った。


「メールアドレス変えました。」


 こんな文言、よくある。

 その日届いたメールもそのままこんな文面で、けれどもどこの誰かは名乗っていなかった。だから、迷惑メールだなあ、と思って削除した。

 次の日も、同じようなメールが来た。


「返信がないので心配しています。連絡お待ちしています。」


 いや、だからどこの誰よ。

 下手に連絡を返して「迷惑メールでした!」ってなるのも嫌だから、今日も黙って削除。

 その次の日もメールが来た。


「ゴールデンウィーク楽しまれてますか。本当に心配しています。返信お願いします。」


 次の日も。


「間違って送っているかと心配しています。返信お願いします。」


 ここまで、相手はまったく名乗っていない。

 必ず一日一件。ここまで来ると人間の存在を感じてはいたけれども、こちらも迷惑メールの疑いを晴らすこともできず、結局返信はしないまま、黙って削除する日々。


 そして、最後のメールが来た。


「至急お願いします。アドレス変えました。折り返しが無いので宛先を間違えていないか心配です。本日中に連絡がない場合、直接お伺いしてよろしいですか?」


 それは、むしろ助かる。


 もしも本当に知り合いだった場合家に尋ねてくれば「嫌だなあ、名乗ってくれないから返信できなかったんですよ。」と言えるし、来なければ間違いメールだと相手も気がつける。

 

 いちおうドキドキしながらメールの相手が来るのを待ったけれど、その日訪ねてきた人もいないし、メールもその日以来、来ていない。

 送り主は連絡を取りたかった相手に会えたのだろうか。無言を貫いた手前、勝手なことは言えないが、間違いでしたと一言メールをもらえたならすっきりしたかもしれない。相手の行方は様として知れない。

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ゴールデンウィークのメール 水沢妃 @mizuhi

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