追放された無能魔法使い~嫁たちと共に世界を制覇する~

里村詩音

全てを失った少年

プロローグ パーティー追放




「まったく、今日は中々に疲れましたね』




ここ『シリオス帝国』の冒険者ギルド。

その一角にある酒場は、今日も賑やかだ。

ただし、ぼくら四人を除いてだが。

クエストを終えて戻ってきた『栄光の支配』のリーダー、『ユリナ・アーデンヴァルト』はやれやれと溜め息を吐いていた。




「だよねー。もう、マジで足パンパンだし !やんなっちゃう!」




ギャルのように文句を言うのは、パーティのメンバー、戦士の『ライラ・シェネック』。




「あらあら、それは大変ですわね。でも戦士にしては、些か足腰が弱いのでは?」




毒舌混じりにそう返すのは、パーティメンバーで僧侶の『リュドミラ・ハイッセン』。




「はは······」




そんな彼女たちの会話に力無く笑うのは僕、魔法使いの『アヴィス・クローデット』。

僕ら四人は昔から仲良しで、皆優しかった。

仲の良い幼馴染みだと評判だった。

あの頃は四人いつも一緒に居るのが当たり前で、僕は三人とも大好きだった。

だけど、いつからこう変わってしまったのだろう···?




「おーい、アヴィスー。マッサージしてよね?あぁ、言っとくけど······やらしく触ったりしたらぶっ刺すから。あと、今日もあんたが足を引っ張ったから、今日の酒代もあんた持ちってことで!」


「えぇ!?で、でも僕は······今日、手持ちがあまり······」


「はぁ?なんか文句あるの?」




こう言って高圧的に命令してくるのが、最近のライラの癖になってきている。

ことある毎に暴言や暴力を僕に放ち、それが当たり前かのように振る舞う。

昔は明朗活発で人当たりが良い子だったのに。




「まあまあ、その辺にしなさいな。ライラに逆らうと余計に痛い目に遭いますわよ?ほら、そのはした金で買ってきなさい」




リュドミラは僕ではなくライラを擁護し、僕に向けて脅しという名の援護射撃をしてくる。

リュドミラもまた昔は優しく、上品で感情が豊かな女の子だった。




「えっ···で、でもリュドミラ。僕、このお金を使うと、今日の宿代が······」


「あらあら?私に逆らうつもりですか?底辺で無能なアヴィスのくせに?」




だけど今では女王様が如くの態度で、僕を玩具にしたりパシりに使ったりする。

僕の財布事情なんて、彼女らにとっては知ったことではないのだ。

だから、こんなこともすらすらと言える。

僕は助けを求めるように最後の幼馴染み、ユリナに視線を向けるが、彼女の目線は僕を捉えていなかった。

もはや、そこに僕が居ない扱いのように。




「なにユリナに色目使ってんのぉ?うっわ、キモ!だから男って嫌いなんだよねー。マジで引くわぁ······」


「えぇえぇ、そうですね。吐き気がしますわ。私たちと同じ幼馴染みというだけでも、人生最大の汚点ですわね」




ライラとリュドミラが揃って僕をなじる。

だけど、この子たちが悪い訳じゃない。

この世界、特にこのシリオス帝国では、力が絶対主義の国家。

僕が所属する『栄光の支配』は、冒険者ギルドでは最高ランクのSランク。

彼女たちもそれに見合う実力はあるが、僕は魔法使いと呼ぶにはあまりに欠陥だらけな実力も無い人間だ。

初級魔法しか撃てず、魔力も弱い。

だからギルドでは『劣等魔法使い』、『無能魔法使い』と蔑まれてきた。

そんな僕が今までこうして生きてこれたのも、彼女たちのおかげと言えよう。




「わ、分かったよ······買ってくるよ」




だからこそ、僕はあまり彼女たちには逆らえず、また離れられない。

僕はそれでも彼女たちが大切だったから。

それでも、彼女たちの暴挙は止まらない。




「はぁ~?これっぽっちしか買えなかったの?雑魚過ぎるんだけど!萎えるわぁ~」


「あらあら、本当に使えない人ですわねぇ。子供のお小遣いでも、もう少し買えますわよ?本当に使えないですね」




それは仕方ないじゃないか。

だって、僕の取り分はこれしかないんだ。

宿代、夕飯代しか使えないのに、大量の酒なんて買える訳がない。

それを分かっているはずなのに、彼女たちは僕に冷たい視線を送ってきていた。

幼馴染みパーティのはずなのに、僕はまるで奴隷のような扱いだ。




「ほんっと、あんたって足手まといだし弱いし、カッコ悪いわよねぇ!一回死んで生まれ変わったら少しはまともになるんじゃない?そうねぇ、ゴブリンとか!」


「こらこら、ライラ。私を笑い殺す気ですか?でも、その意見には賛成致しますわ」


「だよねぇ~、きゃははっ!」




どうしてここまで言われなくちゃいけないのだろう?

いや、自問自答しなくても答えは分かり切っているじゃないか。

この国は、力こそが全て。強者が絶対。

弱者は強者によって淘汰されていくもの。

弱者が生き残るには強者に媚を売るか、泥水を啜ってでも地べたに這いつくばっても生きるしか選択肢は無いのだ。

そして、それは彼女も同じだった。




「······そうね、二人の意見も尤もだわ。死んでしまって生まれ変われば、少しはまともに戦えるんじゃないかしら?」


「ッ······」




僕が大好きだった幼馴染み、ユリナも侮蔑に似た眼差しで僕を見下してくる。

ユリナだって小さい頃は僕の後ろに隠れて、ビクビクと怯えている少女だったのに。

一体、いつから彼女たちの性格はねじ曲がってしまったのだろうか。




「そんなあなたは、今日限りで追放します」




そして言い渡される解雇通告。

理由なんて分かっている。

単に僕が弱くて実力不足で、鬱陶しくて邪魔な存在だから。

それが分かっているから、僕はなにも言えずにいた。

その通告を聞いて、二人は僕を見て大笑いをしていた。


―――瞬間、僕の心の何かが薄れていった。


あぁ、そうだ。この子たちは僕に無関心だ。

昔は僕が皆に手を差し伸べてきたのに、今では全員が僕の手を振り払って背中を向けている。

そこに、僕の居場所なんてもう無かった。

三人との絆は、今ここで壊れた。




「―――分かった、僕はこのパーティを抜ける。皆に二度と関わらない。皆との間に交わした約束は、ここで放棄するよ」




そう言った途端、心の中で何かがストンと落ち、何も彼女たちに感じなくなった。

僕の言葉を聞き、三人は何故か青ざめたような顔をしている。




「は······?いや、え······?な、何を言っているんですか······?こ、これはその、う、嘘ですよ?いつもの冗談じゃないですか······」




一番最初に追放だと喋ったユリナ自身が慌てたように撤回しようとするが、僕はそれを聞いてますます気持ちが薄れていった。




「冗談?冗談で、仲間を追放するんだ?」


「な、なに本気にしてんだし。冗談だって言ってんじゃん?ほら、こっち来て一緒にお酒呑むよ!」


「そうですわ、これだから単純な男は嫌になりますわね。今日は私も出しますので、感謝して呑みなさいな」




ライラが僕の腕を掴もうとするも、僕はそれを振り払う。

僕にあった、彼女たちに対する想いは全て消え失せてしまった。

もう、後戻りは出来ない。

僕が皆にとって厄介者だったのは、今まででも分かる通りだ。

それなら、その嘘を甘んじて受け入れよう。




「もう一度言うよ。僕は、このパーティを抜ける。皆には二度と関わらないから安心してくれ。これからは他人として扱ったほうが、君たちにとっても好都合だろ?良かったね、無能のお荷物から解放されてさ」




そこまで言うと、ようやく僕が本気で言っているのだと分かったのか、急にシンとこの場が静かになった。




「えっ······?あ、あの······嘘、ですよね?も、もう、アヴィスったら面白くもない冗談を······。ほ、ほら······わ、私との約束は······?」


「じょ、冗談も通じないわけ?あんた、あたしとの約束、破るつもりなの?ほ、ほら!今なら謝れば許してあげるからさ······!」


「ッ······あ、あなたが私たちのパーティから抜けたところで、だ、誰も嫌われているあなたを雇うところなんてありませんわよ······?」




三人がそれぞれ焦ったように口早に喋る。

今さら何を言っているんだ?

僕をいらないと言ったのは、お前たちだろ?

死んでもいいと思えるほど、お前たちにとって僕は存在価値が無いのだろう?

不満だらけの僕が一緒に居ても、迷惑なだけだ。

僕は席を立ち、ギルドの出口に向かう。




「ちょ、ちょっと待って!アヴィス!」


「ど、何処に行くんだし!?」


「あなたが一人で生きていける訳はないでしょう!?ほら、戻ってらっしゃいな!」




背後で僕を呼び止める声が聞こえるが、僕は後ろを振り向かない。

振り向いたところで、何も変わらない。

一緒に居ても居なくても、何も変わらない。

彼女たちと僕とは、立場も何もかも違う。

幼馴染みで大切だと感じていたのは、僕だけだったんだ。

なら僕も、今までの彼女たちとの思い出を全て消そう。あの約束も無かったことにしよう。




「さようなら、皆。今までありがとう」




それだけ言うと、僕は制止を振り切ってギルドから出た。

彼女たちとの絆も全て消して。




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