第45話 因縁の相手


馬車の中で沈黙が俺たちを支配する。

父と母は久しぶりに会う因縁の相手に少し緊張している様子を出しながら、

ソフィアは会ったことのない相手に油断を見せないようにしながら、

そして俺はついに対峙する相手に憎悪やどことない恐れを出しながら、それぞれの思いが巡り合う。


ちなみに今馬車にいるのは、俺、ソフィア、父と母の計四人だ。

姉さんと兄さんは会場で合流する予定だ。

また、ナーシャ達カロナイラ家は他の男爵家を迎えに行くため、今はこの場にいない。ナーシャは一緒に行きたいと言っていたが、なんとか説得して他のところに行ってもらった。


「...大丈夫ですかお兄様?」

すると、ソフィアが突然心配そうに俺に聞いてきた。

どうやら相当ひどい顔をしていたらしい。そのことに心の中で反省しながら、しっかりと妹に答える。


「大丈夫、少し緊張してただけだから」

そう答えると、ソフィアは少し暗い顔を見せながら、俺を包むように抱き寄せてくる。


「ソフィア?」


「...無理だけは、しないでください。大丈夫です、お兄様の背負ってる物もソフィアも一緒に背負いますから....一人では、ありませんから」

ソフィアの声は....震えていた。

正直、どうしてかは分からないが...俺のことを心配していることだけは伝わった。

そのソフィアの優しさを無碍にしないようにしっかりと答える。


「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。悩みとかあったらしっかりと話すから」


「...本当、ですか?」


「うん」


「...それならお兄様の言葉を信じます」

すると少しだけ安心したのか抱きしめる力を緩めている。

声色だけでも明るくなったのが分かるからおそらく気のせいではないだろう。


「まったく...ソフィアはアクセルにベッタリだね。いつからそこまでアクセス好きになってしまったのやら」

その様子をみた父がため息を吐きながら、そんなのことを言ってくる。

隣を見ると母も同様に苦笑気味だ。


「ソフィア?アクセルにベッタリするのはいいけど、自分の将来のこととか考えておきなさいよ?いつまでもアクセルがいるわけじゃないんだからね」

そんな母の言葉にソフィアは頬をぷくっと膨らませ、反論する。


「お言葉ですがお母様、何度も言っておりますが私は誰かと婚姻など結ぶつもりなどありません。えぇ、婚約者探しなど無駄な時間でしかありません....あっ、お兄様と結婚してもいいのなら別ですが♡」


そう言って抱きしめながら俺の方を目をハートにしながら見てくる。


その様子にふたりは再びため息をつく。

「この子は本当に...アクセルからも何か言ってあげて?じゃないとこの子本当にあなたとずっと一緒にいるわよ」


俺はそんな家族の会話を苦笑しながら、受け流す。


さっきまでの固い空気とは思えない、いつも通りの様子に安心する。

きっとこの空気のままではよくないと思ったのだろう。父上と母上が機転を利かせてくれたに違いない。


「アクセル」

すると今度は少し真剣な表情をしてこちらを向いてくる。


「君が何を抱えてるかは分からない。でも私達はいつだってアクセルの味方だ。

それだけは忘れないでくれ」

その問いかけを肯定するように二人も頷く。

俺はというと、少し動揺してしまった。顔に出ていたこと、俺の様子...どうやら俺はいままで相当分かりやすい態度が出ていたらしい。


でも仕方ないだろう。いよいよ奴らと出会うと考えると、どうしようもない感情が湧き出てしまう。無意識なのか、俺の感情なのか....それともなのか分からない。

ただ一つ言えるとしたら....転生した中で今一番緊張をしていることだ。


これだけは....これだけは、失敗してはいけない

そんな考えが浮かんだが、父上達には心配させないために俺はいつも通りを振る舞う。


「ありがとうございます...そう言ってくれて嬉しいです」

その後は特になんの変哲のない会話を繰り返した。

だが馬車の中で見た天気は....いつもよりも薄暗く、不気味に見えたのはきっと気にせいではないだろう。





そして、ついに会議の会場にたどり着いた。

その建物の大きさや雰囲気はこの国にある城と同等と言っても過言ではないだろう。

相変わらず、その圧倒されてしまうオーラにまたもや呆然してしまうが、

前を見ると、見覚えのある姿が二人いるのが見えた。


あっちも気づいたのだろう。二人のうちの一人がこちらに走って来て...そのまま俺へとダイブしてくる。


「ぐへぇ...」

情けない声を出してしまったが、そんなこと気にしている暇はないと言わんばかりに強く抱擁してきた。


「数日ぶりねアクセル、会いたかったわ」

この人...最近、歯止めが効かなくなってないか?

そう思っているともう一人の懐かしい声が俺の耳に入ってきた。


「マリア...少しは貴族らしく落ち着いていたらどうなんだ?周りに見られるよ?」

...あぁこの声、変わらないな

俺はその声を聞いて、涙を流しそうになりながらも三年ぶりの再会を果たす。


「...お久しぶりです。兄上」


「うん、久しぶりだねアクセル。大きくなって僕は嬉しいよ」

前の姉さんと同じことを言ってくる。やっぱこの二人は兄妹なんだなと実感する。


「ソフィアも久しぶ...くくっいや僕はここではお邪魔みたいだね」

そう言って笑いながら俺達から離れる...あっ


「..お姉様?お兄様から早く離れてください。一秒でも素早く」

後ろは振り向けないが....どうやら相当ご立腹らしいのが声を聞いて理解した。


「いやよ、まだアクセル成分が補給しきれてないわよ」


「アクっ!?....そ、そんなこと言ったら私だって満足しきれていません!

私にもお兄様を吸わせてくださいっ!」

いつの間にか俺の引っ張り合いが始まる。

その様子を見た兄上が昔のようにカラカラと笑っている。

そして後ろから見守っている両親はまたまたため息をついている。


あぁ...懐かしいな、この感じ。

なにか込み上げてくる感情をなんとか抑えて....いや今思ったが貴族なのよねあなた達?

一旦、冷静になった俺はなんとか姉妹を止めて合流した二人と共に会場に向かうのだった。



「そういえば、兄上、婚約者が決まったようですね。おめでとうございます」

俺は歩きながら兄上が婚約されたことを心からお祝いしながら言う。

それを聞いた兄上は頬をポリポリと掻きながらありがとうと答えた。


その話を耳に入れたソフィアは興味深そうに兄上に話しかけている。


「アルマンお兄様の婚約者はどんな方なのですか?」


「ソフィアも知りたいのかい?じゃあ特別に教えてあげよう。まずね――」


珍しくソフィアとアルマン兄上の会話を見ながらソフィアは誰と結婚するんだろうなとか少し呑気に考えていた。


「アクセルは結婚とか考えてないの?」

するとその話を聞いたせいなのか、姉さんが聞いてくる。


「...今は考えてないですね」

そもそもだが結婚には興味はないし、そんなことを考えてる暇はない。

まぁ俺には縁のない話だなと思いながら姉さんの問いに答える。


「そうなんだ、じゃあお姉ちゃんと一緒だね?」

その回答が嬉しかったのか声が弾んでる。そして再び俺に抱きついてくる。


「ちょっ、ね、姉さん...」


「な〜に?お姉ちゃんはアクセルがそんなふうに答えてくれて嬉しいのよ」

ふふっとクールらしくない姉が顔をニヤけさせながら答えている。


「ほらみんな、そんな騒いでるのはいいけどそろそろ着くから気を引き締めてよ?」

すると、さっきまで騒いでたのが嘘のように静かになった。

流石は貴族だ、この切り替えの速さは他の人物では出来ないことだ。


暫く歩いてると、大人二人分の大きい扉があるのが見えた。

どうやら父上が言った通り本当に着いたらしい。


「さっみんな、いつも通りいつも通り」

みんなを安心させるように声を出しながら父上はその大きい扉を開く。

そこで俺の目に映ったのは、今まで見たことのないような貴族の数々。

きっと男爵家なのだろう、様々なコート、ドレスを着た者が色々な貴族と交流を深めている。

内容も、関係を深めたいもの、取引をするもの、自分の娘や息子を紹介させるもの....貴族らしい会話が繰り広げている。


それはレステンクールも例外ではなく....

ここに入った瞬間、たくさんの貴族がこちらにやってきた。


「これはマエル殿!お久しぶりですございます!今日も一段と優雅さと品格が溢れていますね!」


「マエル殿!この前の件は考えてくれましたかな?これほどの好待遇、中々見られるものではありませんよ?」


「マエル殿、娘様方の婚約者をお探しですかな?もしよろしければ家の子と一度お見合いするのはどうでしょうか?自慢の息子なのできっとご満足してくれると....」


すごい人気だ。それもそのはず。

父、マエルはその類まれなる洞察力と知識を活用して辺境だった領地を大幅に発展したという中々見ない良貴族だ。また、マリア、アルマン、ソフィアという美形揃いかつ他ではみない才能の塊の持ち主の父だ。


そんな父と関係を深めたい貴族は少なくはないだろう。

この状況がそれを物語っている。

また父だけではなく母、兄上も人混みの中心にいる。


二人は婚約していることもあり、まだマシな所だ。問題なのは――


「マリア様!どうか私と共に生きましょう!!私であれば貴方を幸せにできます!!」


「あぁ、僕の愛しきソフィア....今日も僕に会いに来てくれたんだね?僕も会えて嬉しいよ」


「おいマリア!今日こそお前の心を落としてやる!少し俺と付き合え!!」


「わぁソフィアお姉ちゃんだ!ねえねえ抱きしめていい?いいよね?」


――この、二人の寄ってくる男の多さよ。

それもそのはずだ、この姉妹、世界でも物凄い美人さんと美少女さんだ。

俺も今見ているが、やっぱこの二人の美貌と張れるとしたら俺の知っている中では

家族を含めても少数だ。そんな人達を放っておくほど、彼らは甘くない。

まぁマリアはいつも通りのクールな表情で、ソフィアは作り笑いをしながらうまく躱しているがな。慣れているんだろうか?


その様子をジト目で見ていると、俺に近づいてくる人物が目に見えた。


「あ、あの...よかったら少しお話を―」


「「っ!」」


「ひぃっ...し、失礼しました〜!」

俺の場合は...何故か避けられてる気がする。

さっきみたいに話しかられてもすぐに何処かに行ってしまうのだ....なんか悲しくなってくる。これでも容姿に関しては良い気がするんだけどな〜そんなにカッコ悪いのかな....


心の中で少し傷ついてると、さっき話した姉妹が俺に近づいてきて腕の方に抱き寄せてくる...ん?



「ごめんなさい皆様...私、心に決めた人がいますので」


「ごめんなさい、私、この人に身も心も捧げるって決めたの」


さっきまで騒いでた貴族達が嘘みたいに静寂に包まれている。

...どういうこと?

なんで俺の腕に抱き寄せてくるんですか二人共?それになんかみるみる内に俺を見る視線がどんどん痛くなっているような....



「う、嘘だ....嘘だ!そんなことあるはずがない!?僕のマリアが....そいつに誑かせれたんだね?そうなんだね?」

その視線が憎悪と似たものになるのは時間の問題だった。


「きゃっ!つ、ついに言ってしまいました...!皆様の前でお兄様との将来を誓う....

えへへっ昔からの夢だったんです」


ソフィアは幸せそうに顔をニヤけさせて俺の腕をスリスリと擦りつけている。


「つい勢いでこんなことをしてしてしまったけど...いいわね。これなら誰とも結婚せずにアクセルと一緒にいられる...ふふふ、最高じゃない」


マリア姉さんも俺の腕をさらに寄せて肩に頭を乗せてくる。

あの...苦しいのですが...

その光景を目の当たりにした二人を言い寄っていた貴族たちの目がついに殺意に変わる。


「くっ......何故だソフィア、僕たちは愛を誓い合ったのではないのか!?」

ある貴族は目の前の出来事に嘆き始め


「て、てめぇ...!よくも俺のマリアを!

許さねぇ!」

ある貴族は奪われたのかと思ったのか、多くの貴族たちのように殺意を放ち


「そ、そんな......ソフィアお姉ちゃんが、こんなダサい男に.....」

ある貴族は俺の悪口を言いながら放心状態に.....おいっ誰だ今の言ったやつ?


その言葉が聞こえたのか二人は「はっ?」

とさっきまで幸せそうな雰囲気から殺意増し増しの雰囲気に変わる。


.....これ、ほんとに貴族なのか?もっとこう、静かで落ち着いた感じだと思ったのだが......



と、考えてるうちにソフィアとマリア姉さんが今にもさっき俺を罵倒した貴族に殺さんとばかりの魔法を放とうとした時……て、やばくない!?


「ふ、二人とも!おち「全く、これが男爵家の貴族達なのか?」……………」


先ほどまでうるさかった空間が扉が開かれたことで一気に静寂に包まれる。そこには今回の男爵会議の責任者、カロナイラ家の面々ともう二組の貴族たちが威風堂々とこちらへ歩いている。



一組はセミカ率いるイべルアート家…セミカの親を見ていると、とても優しそうな人達だ。



…そしてもう一組は…………


「その様子だと貴族の風格も持ててないな。やれやれ、こんな連中と話すだけでも頭が痛くなる」


……………………


「返事もないのか?ふっ、不様極まりないな」


…………………………………



「…なんとか言ったらどうなのだ?なぁ、我が誇り高きイメドリア国の男爵どもよ?」




……………………………………………………………………………………………………………あぁ、この姿、この言葉遣い、この人を見下す態度……この忌々しい気配……ほんとうに不愉快だ。

……こいつが………こいつらが



……、アクセル達を悲劇の運命へと追い込んだ、元凶………!!


「お、お兄様?」


ソフィアが俺の雰囲気の変わりように圧倒されているようだが、そんなのに答える余裕がない。不思議と姉さんの雰囲気も少し険しくなった気がする。



「……待たせな、皆の者」

そしてカロナイラ家当主、バレロナ・カロナイラが初めて会った時とは違う、この国の貴族の代表としての風格を出しながら、宣言する。



「——これより、男爵会議を始めたいと思う」



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