第44話 運命


ソフィアと姉さんとの家族デートを楽しんだ後、ひとまずカロナイラ家の屋敷に戻ることにした。会議のことを姉さんにも話したのだが、どうやら二人も出るらしい。

だから姉さんと別れるとき彼女の様子はそこまで寂しくはないように見えた。

.....まぁ何故か俺を連れて行こうとしたのだが、そこはなんとかした。


さて、屋敷に戻る前に少しだけ、彼らと会おうかな?

そう思った俺はソフィアと一旦別れ、ある場所に向かった。





「...ん?アクセル様?」

俺の様子に気づいた二人はその洗練とも言える訓練を取りやめ、こちらの方を向いてきた。


「やぁ二人とも。こんな暇な時にも訓練かい?精が出るね」


そこにいたのは、レイスとモルク。

ウィンドブルムに所属する直属の騎士。

そう俺が向かったのはジークたちの所だ。今日ぐらい休んでもいいんじゃないかと思ったのが、セミカ・イべルアートと出会って心のざわめきが抑えきれなくなったので、少しでも身体を動かそうとしたわけだ。


「いやいや、本当なら俺もこんなことしたくねぇんですよ....でもこいつには捕まるわ、団長も俺のノルマだけ厳しくするわ、こっちも大変なんですよ!?」


おそらく今日も今日とてナンパをしようとした男、モルクが大きな声で喚き始める。

その様子をみたもう一人の男、レイスは呆れた様子でため息をついた。


「お前、あれだけ団長から言われたのにまだ懲りてないのか?」


「うるせぇ!お前みたいな戦い好きとは違ってこちとら休日でも遊びたいんだよ!」

何気に初めて見るレイスとモルクとの会話を見て、心の中で少し感心する


(この二人がこんな風に会話をするのは原作含めても初めてだな。これも歴史を変えた影響か?レイスもここでは着いていく予定はなかったし....この三年間でよっぽどジークから信頼を置かれたみたいだな)


そう思っているとレイスが俺に話しかけてくる。


「アクセル様はどうしてここに?」


「ん?いやなんか急に身体を動かしたくてね。ここで少し木刀でも振ろうかなって」

そう答えると、レイスはその美顔とも呼べる顔を歪めながら提案してくる。

こいつ、なんとなく思っていたが、顔面偏差値高いな?くそったれ


「...それなら久しぶりに俺と戦いませんか?あれからどれぐらい自分の実力が上がったのか試したいです」


すると、レイスは近くに置いてある木刀をこちらに渡してくる。

その木刀を俺は....受け取ることにした。


「うんいいよ。僕もレイスとも戦いたかった所だし。その話はこちらとしてもありがたいな」


その様子をみたモルクは俺たちの方をげんなりとした様子で見ている。


「...二人とも、またやる気なんですか?いくらなんでも戦闘狂すぎるでしょう....」


大きすぎると言ってもいいため息を吐くがそんなの気にせず、彼と距離を取り向き合う。


「そういえば、前戦ったときはなまくらとはいえ真剣でしたね」


「えぇ、今考えてみてもおかしいですね。誰も止めなかったわけですし」

昔の出来事を語りながら、俺もレイスも構え始める。



「...じゃあ、いきますよ」

「うん、いつでもいいよ?」


そして、俺たちは両者、模擬戦ともいっていいのかと思えるほどのスピードで近づき、お互いの木刀を打ち合う。


戦ったときに思ったのが、やはりレイスの強さが格段に上がっていたということだ。

俺も三年間で腕を上げたつもりだが、それについていけることに内心驚いていた。

確かに俺がいたからということもあるだろう。ただ彼は原作という運命を乗り越えてここまで強く逞しく成長したんだなと思った。

きっと並々ならぬ努力をしたのだろう。流石、ジークに認められた騎士。

....というかこれと打ち合いできるモルクってやはり凄いのでは?

あいつはあいつで問題児なのだが、目をつけられることはあるなと実感させてくれる。



そのモルクはいつの間にかどこかに消えたことをこの時の俺は気づかずにいた。





模擬戦が終わった後、ひとまず解散をした。

レイスはあのナンパ師がいないと気づいたということで、「また探してきます」

と街の中を探しに周っていった。どうやら日常茶飯事らしい。


そんなモルクに呆れながらも、俺はジークを探していた。

特に用があるわけではないのだが、一度静かにはなしたかったと個人的に思ったのだ。

と、探してる内に目を閉じながら立っているジークの姿があったので、近づくことにする。


「ジーク、今良いかな?」

そう呼びかけると、俺の存在に気づいたのか、彼女は閉じていた目を開け、俺の方を少し意外そうに見てきた。


「アクセル様?今日はなにもありませんが.....なにかご用が?」


「いや、特にないよ。ただこうして君と話したかったってのがあるかな」


「私にですか?構いませんが...特に面白いことなど話せませんよ?」

眉をひそめてジークは言うが、元々おしゃべりではないのは分かってるので、その心配は必要ないと言わんばかりに答える。


「大丈夫、こうしてジークと一緒にいる時間も好きだから」


「....変わった人ですね」

苦笑気味に答えながらも表情を見る限りどうやら嫌ではないらしい。

それに安心しつつ、ジークの隣に立つ。

今は二人ということで、上司部下の関係もこのときには入れ替わる。

それにジークから「もし二人きりの時はいつも通りにしてくれると助かります」

と言ってきたのでこれで話すことにしている。




「隣、いいかな?」


そう言うと、合意ともとれる頷きが見られたので俺は隣に止まり、ジークのように目を閉じる。


「私の真似事、ですか?」


「ジークのやってることだからね、無駄ではないとは思ってね」


「特に意味などありませんよ。私がこうしていると落ち着けるだけで」


「それならそれでも構わないよ。いやぁ今日も疲れた疲れた」


「....ほんと、掴めないお方です」

そう言い、ジークも目を閉じる。中身のない会話を繰り返すが、不思議と気まずくはなくむしろこの空気が落ち着く。話すのもいいがこうして黙っているのもいい。


「そういえば今日、姉さんにあったよ」


「...マリアに、ですか?」

マリアという単語だけでもムカつくのか、言葉を発する声が少し棘があるように思える。その様子に苦笑してしまう。


「そんなに姉さんのことが嫌いなの?」


「い、いえ嫌いというわけではなく....ただ彼女を見てると不思議と負けたくないという気持ちが湧いてくるのです。なんというか、対抗心のような...ムカつくような」


「なるほど、喧嘩するほど仲が良いとはこういうことを言うのかな?」


「その言葉の意味はわかりませんが、なぜだが納得いきません」


目を閉じながら、というなんともシュールな光景を他の人が見たら微妙な表情をするだろう。ただ、それでもお互い違和感がなく会話が続いてるということもあり、それも俺たちの関係を示しているのだろう。


「...こうしていると、不思議と落ち着きます」

すると、ジークが突然語りだした。


「今までは故郷に戻るということもあり、気まずさや少し嫌な気持ちがありましたが...あなたと話していると、なぜだかそんな憂鬱な気持ちも忘れていきます」


「ジークもやっぱり、思うことがあるんだね」


「それはそうですよ。一人の男性に心を打たれ、貴族の立場でありながら捨てていってしまった。しかもその末路が辺境での騎士団長....あの人達からしたら、非常識とも思われても無理はありません」


目を開けてジークの方を見ると、彼女も目を開けてるが、その表情から少し悲しそうな、申し訳無さそうな、様々な思いが混ざり合って複雑な思いをしているのが伝わった。


ジークは周りから見たら変わった人物かもしれない。

他とは違う五感を持ち、考えを持ち、想いを持つ...もしかしたら、彼女はずっと一人だったのかもな。気にしてないように見えるが、今の表情や言葉からしても無意識とはいえ、気にしているのだろう。


....まぁそんなこと俺からしたら些細なことだけど。


「...ジークがどう思ってるかは分からないけど、僕はあそこで君と出会えて良かったと思ってるよ」

声色をいつもと変えず、いや少し明るくしてそう言うと彼女がこちらを見て、またもや苦笑気味にしている。


「私に、ですか?」


「うん、こうして出会えたのも運命と思えるほどにね」


「......ほんとに、あなたという人は」

ふふっとそんな笑い声が聞こえた。再び隣を見ると彼女はいつものような厳しく、真面目な表情とは違う控えながらもとてもいい笑顔を浮かべている。

まぁ、これで少しでも楽になってもらいたいなと思いながら彼女との時間を楽しむことにした。



「ジーク」

そろそろ戻ろうという所で俺は彼女に声を掛ける。

彼女は頭に?を思い浮かべながら俺の方を見た。


これから言う言葉がもしかしたら呪いかもしれない。そう考えると罪悪感が芽生えるが、これも仕方のないことだと割り切ることにして、その言葉を発した。




「っ!」

いつもと違う気配に驚いたのだろうか、それとも言ってることに驚いてるのか、あるいはどちらともだろうか、息を飲み込む音が聞こえた。


動揺しているような様子を一瞬出したが、すぐに平常を取り戻し、彼女は俺に跪いて騎士とも言える誓いを俺に伝えた。


「....全ては、我が主のために」

君の主はマエルだけどね、ということは言わない。

それは彼女の誓いを冒涜するのと同じな気がしたからだ。

その誓いを俺は素直に受け取ることにして、今度こそ屋敷に戻ったのだった。



そして数日後、俺たちは今、王都に向かう時よりも豪華な馬車に乗っている。

向かう先は....男爵会議の会場だ。


「...みんな、今日は少し引き締めてね。いつも通りなら大丈夫だと思うけど...」

父が俺含める家族に顔を険しめて、語る。


.......いよいよ、か。

奴らとの.....本格的な戦争が....!


運命の日が巡り合う。

今日、ついに悲劇を狂わせる1日が始まろうとしている。



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