第30話 ユニーレとの修行



ローレンスからアドバイスを受けた数日後


俺は今、ユニーレと戦闘をしている。

もちろんあの本の世界でなく、現実世界でた。


普通なら戦闘の余波でここら一体が塵となるのだが流石にそんなことにするわけにはいかず、ローレンスからのアドバイスを意識した空間結界を二重に展開した。

その時のユニーレは少し驚いた顔をして、次の瞬間には流石は私の認めた人ね。とぼそっと呟いてた。


ユニーレの授業及び修行は多彩多様だ。

魔法の知識に関することの話だったり、魔法だけが出来る技術の再現だったり、そして今みたいに戦闘をしたり色々やらされてる。


俺だけじゃなくてソフィアもいるのだが、ユニーレ自身厳しいということもあってとても大変だ。



そして今日は何故か俺だけユニーレと戦わされて、ソフィアはそれの観戦だ。もちろんただ見るのでなく、見ながら魔法を無意識で当たり前のように発動させる修行もしてる。


これは魔法を同時に複数発動できる「並列処理」という技術らしいが、前世の言葉で言うとマルチタスクと少し近い。


俺がソフィアと再会した時は5つ以上発動させてたが、どうやらまだ意識しないとそれが出来ないらしくユニーレにそれを指摘されており、それが今のソフィアの課題らしい。


んで今の俺は……



「どうしたのアクセル?そんなへぼへぼな魔法じゃあ私を傷つけられないわよ?」


…絶賛多種多様な魔法に押されている最中です。


「くっ!そんなこと言ったってお前、これは無茶苦茶じゃないか!?」


今回の戦闘は少し条件が縛られてる。

攻撃は全部魔法ということだ。普通なら剣を出してやるんだが、それじゃあ魔法の成長率がガクッと下がるということでこのような縛りをされてる。


また避けるのも禁止だから魔法は全部相殺しないといけない。どうやら俺の場合、そのセンスや才能からかこのような修行法がいいらしい。

先ほど言った並列処理による技術の拡張や

基礎の基礎を徹底的に叩き込む。

荒修行だか、一番の近道であるということ。


……ってそんなこと悠長に考えてる暇がない!


「おいユニーレ!せめてもう少し魔法の種類を減らしてくれ!?一気に10種類以上捌くのはめちゃくちゃきついぞ!?」


「あら?でも貴方、私と戦闘した時は全然余裕だったじゃない?」


「こんな縛りがなかったらな!しかも虚無のバリアも禁止ってどういうことだ!?俺はまだ死にたくないぞ!!」


「そんなのあっても駄目よ、やるなら徹底的によ」


「くそっ話が通じねぇな!うちの師匠は!」


ユニーレの魔法は基礎の7つだけでなく、アクセルが自分の力を反転させて使用できた5つの魔法を使っている。


何故使えるのかはどうやら7つの基礎魔法性質を混ぜて使えるようにしたとのこと。


…これについてはまた説明しよう。今はそんなことより!


「あらあら駄目じゃない、しっかりと集中しないと?前よりかは随分マシになったけどまだまだね。構築は甘いし、術式の展開も遅いわよ?もっと早くやってみなさい」


そんな無茶苦茶を言ってるが、そんなの耳にいれる余裕がない。俺もなんとか相殺は出来てるが、まだユニーレに傷一つ与えられてない。

空からは凍てつくような鋭い氷、じわじわと地面を溶かしながら迫ってくる霧、目では見えないが歪みを生じながら進む空の力。


地面からはドデカイ木の根のような物や多種多様の植物が襲ってくる自然の数々。

俺を今にも埋めつくさんと進行している溶岩。


そんな特殊な魔法の処理もしないといけない。しかもローレンスから教えてもらったこともまだ意識しないと出来ない。

そうなると流石に無傷になるわけもなく…


「ぐっ!」

少し脚に負傷を負ってしまう。だが、そんなことを知らないと言わんばかりに勢いは強くなる



「アハハハ!もっと頑張りなさいアクセル!今は私だけを見つめて?考えて?あの時みたいに踊りましょう!そしてまた私に魅せて!私の予想を超えてくるその変化を!!」


くそっあいつやけに楽しそうにしてやがる!?あれじゃあただ俺がいじめられてるだけじゃないか!


「……やってやる…いくぞユニーレ!こっちも容赦しないからな!!」


そうして、俺も彼女の影響でヒートアップしたのかあの時みたいに殺す勢いでユニーレと戦いあった。


「お、お兄様…あれだけの魔法を…凄い…それにいつもと違うその勇姿……素敵です♡」


「お主も大概よのぉ…」


空間結界の外には観戦していた妹ともう1人のユニーレがいた気がするがそんなことはいつの間にか頭の中からは消えていた。





「はぁ…はぁ…」

なんとか猛攻が止みきり、それが休憩ということだと分かっていたので今は地面に倒れ込んでいた。


「お疲れ様、アクセル。よく耐え切ったわね」

声が聞こえた方を向けるとそこには少し汗をかきながら顔を綻ばさせてる狂人及びユニーレの姿があった。


「お前…途中から殺す勢いだっただろ?」

俺は呆れたふうに言うが、そんなの気にしてないと言わんばかりにユニーレは。


「当たり前でしょ?貴方が相手なら容赦なんてしなくていいわ。というか手加減した方が失礼じゃない」


「言わんとしてることは分かるが…少しは限度というのを覚えろよ」


「うふふっ…だって楽しいじゃない?」

すると俺から目線を外して今も燦々と煌めいてる太陽が出ている晴天の空を見上げながら呟いた。


「私は今、生きているって実感してるのよ」


「生きてるって実感ねぇ」


「えぇ、貴方と出会う前までは正直この世界を混沌に埋め尽くすことだけしか考えてなかったわ。なぜ混沌に埋め尽くさないといけなかったのか、そもそも混沌とはなんなのか…そんなことを知らずにね」


「…」


「…だから生きてる実感はしなかったわ。どうでも良かったもの……でも貴方と出逢ってそれが変わったわ」


すると、再び俺の方を向いてかつての混沌の魔女だった者は語り続ける。


「私に初めての感情を教えてくれたのも…私に未知の力「毒」というものを教えてくれたのも……そして貴方を見る度にこの胸のドキドキを教えてくれたのも……全部貴方よ?アクセル」


「だから今、私は楽しいの。遥か昔にはなかった「私」を貴方は私自身に見つけさせてくれた」




「そんな『初めて』を沢山くれた人と一緒にいて楽しくないわけないじゃない?」


「……」

……そうか、こいつはすべてを失ったんじゃなくて最初から何もなかったんだな。


なにもない自分が何故生きているのか、どうしたいのか……もしかしたらこいつはこいつなりに無意識に悩んで、考えたのかもしれない。


ある意味ローレンスとは真逆だ。あいつは最初から幸せな物があったはずなのに、こいつには最初からその「なにか」はなかった。


ほとんど似たもの同士なはずの彼女らはよく見てみると全然違うのだ。


何が言いたいって結局同じ人間なんて存在しないということだ。たとえどんなに似てたとしても、双子だとしても、一心同体だとしても絶対に同じじゃない。「個人」という自分自身を持ってるんだ。


それを俺はユニーレやローレンスと関わる度に実感している。


だから俺はユニーレという人物を見ることにした。ローレンスの片割れとしてではなく、ユニーレ自身を…誰にも認知されなかった「ラスボス」を俺は見守ることにした。



「ねぇアクセル?」


「ん?」


「貴方は私とこうして話したり、戦ったり、一緒にいるのは…その……楽しいかしら?」


——そんな当たり前なことをユニーレは少し不安そうにしながら聞いてくる。


「何言ってるんだお前?」

疑問を持たずに俺は当たり前のように答える。


「楽しいに決まってるだろ?最初こそ予想外が多かったが、今はユニーレがいないとつまらないくらいだ」


「……そう?」


「そうだ。らしくないぞ?もっと自信持てよ」


まだ不安にしている顔をしながら聞いてくるが、当たり前な答えなので適当に一蹴して俺は地面から起き上がる。


「お前が楽しかったら俺はそれでいい。言っただろう?自分がしたいことはおもいっきりしろって、ユニーレ自身が楽しかったらとりあえずはいいんじゃないか?」


「…そう、ね。じゃあそう考えることにするわ」


ユニーレがそういうと、俺の隣に座ってきた。まだ俺は10歳という事もあって身長差は歴然だ…別に悔しくはないがな?


「…貴方といると自分の変化に驚きが隠せないわ」


「それぐらいがちょうどいいんだよ普通は」


「そういうものなの?」


「そういうもんだ」

他愛のない会話、ただ自然と嫌な空気にはならない。そんな会話も彼女は楽しんでるんだから。


「ねぇアクセル?」


「ん?」


「やっぱり貴方と出会えて良かったわ……私は貴方のことが」


そういうとユニーレの顔がだんだんと近づいてくる。何故か俺はその場から動くことができずにいた。


そしていまにも口と口が重なり合う瞬間——



パリンッッッ!!!




——静寂は突如として消えていった。


あぁまずい…そういえばソフィアが居たことを忘れていた。

きっといまにも物凄い殺気を出してるんだろうなと思って振り向いてみるとそこには……








「……お主、抜け駆けとはいい度胸をしてるではないか?」


……そこには普段の可愛らしい少女とは思えない、物凄い圧と殺気を出しているもう1人の片割れ、ローレンスの姿があった。


「…なによ?邪魔しないでくれるかしら?」


「邪魔だと?ふんっアクセルと接吻しようとしてた奴がよく言うのだ」


な、なんだ?普段ここまで怒ることがないローレンスが物凄く怒っていらっしゃる……下手に刺激をしない方がいいと思うほどに。


「貴方は奥の手過ぎるのよ。それだといつかアクセルから見放されるわよ、陰キャさん?」


「見放される?ははっお主は何も分かってないのぉユニーレ。アクセルはそんな事で我を見捨てん。それよりそんなに魅惑してアクセルに都合のいい女と思われないといいな、ビッチよ?」


「「……」」


ま、まずい!?

俺は本能で危機を感じ二人の周りを即座に空間結界で先ほどよりも遥かに固く何重にも展開した。


次の瞬間


ゴオオオオオオオ!!!!


そんな聞いたこともない轟音とともに2人はぶつかった。


「…貴方とは一度本気でやり合ってみたかったのよ」


「ほぅ奇遇だな。我もそう思っていた所だ」


「…覚悟はいいかしら?」


「…それはこっちのセリフよ?」

今までにない魔法と異能の数々、2人は少し冷静ではないのかタガが外れたようにありえない威力でここら一体を塵とかしてる。


俺の空間結界も少しずつヒビが割れてきてる。あ、あの2人が激突したら世界終わるぞ!?


「……お、お兄様…」

ソフィアも流石にこの状況なのか、2人の戦いを見て呆気に取られている。


「悪いソフィア…話なら後で聞く。だから今は少し手伝ってくれ……」


「は、はいっ!……お兄様との共同作業……頑張らねばですよ、ソフィア……!」


なにかボソボソと言ってたがそんなの聞いてる暇はなく、こうして2人が戦い終わった頃には俺もソフィアも疲れ果てていたのだった。



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