第26話 その後



トラブルが落ち着いた後、俺たちは自分の家に帰るべく、レステンクール領まで向かっていた。ただその道中、俺はまた別の意味で困っていた。それは———












「お兄様の魅力はですね!なんと言ってもその慈悲深き優しさにあります!

ソフィアがどんなに我儘で出来が悪くてもお兄様はそんなソフィアのことを蔑ろにせず、むしろ包みこんでくれます!今回だってそうなんですよ!ソフィアの醜いこの想いも全部全部受け止めてくれて、尊重してくださります!!それにですよ!?そんなソフィアのことを大事って言ってくださったんです!!あぁ....今思い出しても頭が蕩けそうです....そう思いませんかユニーレさん!!」


「分かるわ....あの時アクセルが大事って言ってくれた時、胸辺りがグッとくるものがあったわ。これが萌えってやつかしらね。でもねソフィアちゃん?アクセルの魅力はそれだけじゃないわ。もちろん優しさもそうよ?というか私もその優しさで死にそうになったわ....でも聞いて!アクセルはね戦いそのものを楽しんでるの!その時の子供らしくないあの笑み!あれも魅力と言ってもいいわ。見守るのもいいけど、対峙してるときのゾクゾク感!!たまらないわ〜それに自分が負けそうになっても最後まで敵を殺さんとばかりに向ける鋭い目!優しさとは裏腹に敵には全く容赦のない様子!どれをとっても一級品と言ってもいいわ!」


「そうなんですか!?でもソフィアも一度見たことがあります....普段のお兄様とは違うあの顔、戦略を思いついたときの笑み、それに他人には隠しきれない闘争心.....ッ!分かります!!分かりますよユニーレさん!!」


「本当!?やっぱりソフィアちゃんは分かってくれると思ったのよね〜」



――――この俺、アクセルについての語り合いである。


「.....これ、なんていう拷問だと思うローレンス?」


「い、いやぁ...我に言われても困るのだ」


おい、目を逸らすな。それに見てたからな?お前あいつらの言ってることに共感覚えただろ?ほんとは混ざりたいな〜とか考えてただろ?でも勢いありすぎて無理とか考えてただろ?


ぜんっっっぶ顔に出てたからな!?くそっ俺にはこの拷問を止めるすべを持っていない......やっぱりなにかに取り憑かれてるんじゃないのか俺?

誰が自分の良さをマシンガントークで聞きたいんだよ?

ちなみにいま知ったんだが、ソフィアはアクセル関連になると一人称がソフィアに、それ以外のことだと私と一人称に変えることが多い。


「くっ...普段のお兄様は滅多にそのような姿を見せてくれません....凄く見てみたいし羨ましい.....それにおそらくお兄様は我がレステンクール家の次期領主にならずにここを出ていくはずです。もしまた置いてかれたら...考えたくありません...ユニーレさん!お兄様の良さが分かる同士としてお願いがあります!」


なんかソフィアに分析されてない?それにほとんど合ってるんだからそこも恐ろしいんだけど?


そう、ソフィアの言った通り、俺はある程度成長したらここを出ていくつもりだ。

一応俺の目的の中には悲劇に遭うヒロインも救うのもある

家族のことが終わったらそっちに集中するつもりだ


だがまさかと思うけど....ソフィア、きみ俺に付いてこないよね?ここで幸せに暮らしてほしいんだけど?


そんなことを必死に頭の中で考えてる時も二人に会話は続く。


「あら、なにかしら?ソフィアちゃんの頼みなら一通り聞くわよ?アクセルについて語り合った仲だもの」


な、なんか良いこと言ってるはずなのに、それ以上に複雑な気持ちなのはなぜだ?


「アクセル....もう諦めい....そんな表情したって今のふたりは止められないのだ」


ローレンスが気の毒そうに俺の表情を見てそんなことを言ってくる。

いやお前もあの二人の仲間だからな?なに俺に寄り添おうとしてんだこら。


「...ユニーレさんは遥か昔あの混沌の魔女と呼ばれたお人。その強みは強力な多種多様な魔法を操ると言われております。その教えを私に伝授してほしいのです!!」


「つまり...魔法のことについて教えてほしいということかしら?」


「はい!」


....え?俺の妹あれ以上に強くなるの?な、なんか原作よりも凶悪になりそうな気がしてきたぞ...うちの妹。


「そんなことでいいのかしら?私から提案しようとも考えたのだけど...本人の意思が強いなら問題ないわね」


「じゃあ...!」


「えぇ、勿論いいわよ。ソフィアちゃん...いえソフィアに魔法の全てを叩き込むわ」


「わぁ!ありがとうございますユニーレさん!!」


と、いうことでいつの間にか師匠と弟子というあの険悪な関係からこんな良さそうな関係になった。二人ともなにか通じたものがあるのだろう。性格もに似てると思うしな...決して俺のことについてではないと思う。


「あぁそれと、あなたも参加しなさいアクセル」


「ん?俺もか?」

いつの間にか俺も指名されててびっくりした。


「あなた、魔法について大まかは分かってると思うけど、何故か一つ一つの細かい所が大雑把すぎるのよ。そのせいで本来の100分の1しか力が発揮できてないわよ?」


「うぅ…」


実際俺もそれは感じてた。魔法の特訓をしてた時、一つ一つの魔法の威力が思ったより出ないのだ。違いでいうと魔素と虚無力というエネルギー源だが、それだけだ。


他にも大事なことが多々ある。魔法の構築、術式などなど……色々だ。俺はそれについて全く分からなかったから、全部かっ飛ばした。

ただイメージ力だけはあるからそれでなんとか魔法を使ってた。


魔法というそもそもの概念自体俺はまだ理解しきれない部分が多い…だからここでユニーレに教えを乞うのは俺にとって強くなることにも繋がる。


「ほら、しっかりしなさい?貴方は私の主人でもあるのよ?魔法ぐらい私の予想を簡単に超えていきなさい」


俺を揶揄うように、そしてどこか期待をこめているようにユニーレは言う。


「俺はお前らとは違う方法で魔法を扱ってるんだが?」


「うふふっそんなの分かるわよ?でも根本的なところは同じでしょ?」


「…まぁな」


こいつは全部分かってて言ってるのか?…はぁまあ元々魔法に関してはこいつらに聞くつもりだったからちょうどいいか。


「分かったよ。俺もしっかりと参加する。

ただもしかしたら参加出来ない時があるかもだからその時は許してくれ」


「あら?貴方の場合は付きっきりで教えるつもりよ?休みなんて期待しないことね?」


おいおい…こちとら騎士団の特訓もあるんだぞ?…まぁそれだけ強くなるならいいか


「お兄様!」

俺がため息をつくとソフィアは花のような可憐な表情で…


「これからもお願いしますね!」


…そんなことを言ってくるんだから、頑張らないわけにはいかないよな。


「あぁこちらこそよろしくお願いねソフィア」



そして、俺たちはレステンクール領に向かったのだった。








その後俺たちは帰ったんだが、とにかく対応が大変だった。


住民や兵士、騎士の対応だ。

なんかソフィアはどこに行ってただの、行方不明のアクセル様が帰ってきただの、それだけで大騒ぎ。


もう祭になってるんじゃないかと思わせるほどだ。


中には見覚えのない2人を見て、アクセル様が女を誑かしてきたぞーと言っている住民もいた。その時のソフィアの顔はおそらく絶対に忘れないだろう。死んでもあんな顔で睨まれたくない……


そんでその騒ぎで、兵士や騎士が寄ってくる。んでここの騎士といえばジーク団長だ。


今まで行方不明だった俺を見て彼女はどう思ったのだろうか?答えは明白、素直に怒られたし心配された。


「事情があるのは分かりますが、お願いですから…私には報告してきてください」


と彼女らしからぬ弱々しい声で俺に言ってきた。いや確かに俺はあの騎士団の中なら強い部類だろう。ただそれだけでここまで彼女に懐かれるのだろうか?


多分こんな弱々しい姿をしたジーク団長を見たのは父上も含めて俺が初めてじゃないかな?


接点と言ってもあまりない気がするし、そもそもアクセルになる前の記憶は曖昧だ。

だからジーク団長とアクセルの関係は少し謎なのである。


まぁそんなことはさておき、この人にもバレたんだから当然家族の皆さんにもバレるわけで、ここからが一番大変だった。


特に姉上だ

俺が見つかったと報告を受けた時、姉上は王都ラスティアに居たにも関わらず、一晩でここに帰ってきたのだ。

王都からレステンクール領まで馬車でも数日かかるのにだ。


そこから俺を見つけた瞬間、俺のことを抱きしめながら「アグゼルぅぅゔゔ!!!」

と号泣していた。この人本当に姉なんだよね?何故か威厳も何もなくて大丈夫なのかと本気で心配したほどだ。


まぁ大事にしてくれたのは分かったから、俺の心は申し訳なさと嬉しさでいっぱいだった


兄上も普段よりも早く王都から帰ってきて俺のことを抱きしめてくれた。

よく帰ってきてくれたねと言われた時は帰ってきたんだなとという安心感が出た。


父上と母上はローレンスやユニーレの姿を見て、少し罪悪感を抱いてたような暗い顔をしてたが自分たちの使命を果たしたかのような笑顔にもなっていた。


何度も何度も謝ったり、罪を償いますとか言ってたらしいが、魔女組は懲りたのかもうやらなくてもいいと逆にお願いしたほどだと言うこと。



父上や母上と魔女の関係は分からない。そもそもここの人たちは原作ではほとんど出てこないマイナーな人達だからな。

知らないことの方が多い。


ただ俺たちの祖先はローレンスの姉だ。

ローレンスの家族は彼女の才能に嫉妬に駆られて、冷遇したと言われている。

もしかしたら、後に自分のやっていたことに後悔したのかもしれない。

だから罪滅ぼしをかねて、禁句の魔導書を持っていた……なんてことも考えられる。



でも知りたいわけでもない。正直どうでもいいのだ。


だからここはあまり深堀はしないでおこうと俺は思っている



んで話を戻す、姉上のことだ。この人俺と離れたくなかったのか、しばらく俺に抱きついていたのだ。


「あ、姉上…そろそろ離していただけると」


「いやよ」


…どんなに言ってもこの反応だ。

これが長引いてくるともちろん例のあの娘が暴走しそうになりそうで……


「…お兄様?お姉様と抱きつくのがそんなに嬉しいんでしょうか?」


「い、いや僕じゃなくて姉上を説得して欲しいんだけど…」


「あらそうでしたね?では「お話」はお姉様の事が済んだらでしましょうか?」


「あ、はい」

俺と「お話」するのは確定なんですね…


「さてお姉様?そろそろお兄様から離れてください、お兄様に迷惑でしょう?」


「…いやよ」


「……」


ゴゴゴゴゴゴゴ…


な、なんだ!?ソフィアから今まで感じたことのない殺気が……!!


「…どんなに言われてもしばらく離れるつもりはないわよ」


こ、この人も何言ってるんだ…というか俺の意思は?


「…なら、力づくでも離れていただきますよ」


ソフィアからありえない魔法の数々が…


「…やれるものならやってみなさい」


姉からは凄まじい気配を纏ってる剣を…


「「!!」」


こうして姉妹対決が始まった。



……これが俺の日常ならやっぱり何かに取り憑かれてるんじゃないだろうか?


禁句の魔導書で過ごして2年が経ったらしいから、アクセルの運命が変わるあの悲劇が起こるのは3年後だ。


その分頑張らなきゃいけないけど…ひとまずは休んでもいいかな?



そんなことを考えながらも俺はしばらくはこの何気ない日常を過ごすのだった。




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