第24話 少女との出会いと少女との再会



ナーシャ・カロナイラ

原作、ヴァニティファロスのメインヒロインの1人で王都にある侯爵家の娘の1人。

肩までかかるそのラピスラズリのような深い青色を帯びた髪は深淵の海を彷彿させる。

切れ目でも垂れ目でもない中庸な目は人々に安心感と親近感を湧かせるもので、また彼女がお淑やかさと元気っぽさを持ち合わせていることで市民の彼女の人気は凄まじいことになっている。


そんな彼女だが、二年後にここレステンクール領にくる予定なのだが…


「……どうして彼女が今ここに?まだ早いはずだが」


少し混乱していた。いや少しではないだいぶだ。そもそも歴史の改変は少し予想はしていたが、ここまでとは思わない。

そもそも俺がやったことってローレンスとユニーレを解放したことだ。なにか関係があるはずなんて……


「アクセル?ほんとにどうしたの?」


頭の中で訳の分からないまま疑問を自問自答をしていたらユニーレが心配しながら声をかけてきた。

ローレンスも心配そうな顔をして俺を見ていた。


「あぁ悪い…少し予想外だった事で頭が混乱していた」


「あの子のこと?」


「あぁ…まさか来るとは思わなかったからな」


「そうなのか…それでどうするのだアクセル?」


あまり深追いするのは良くないと考えていたのかローレンスがそんなことを聞いてくる。

正直すごく助かる。


「助ける。ただあまり俺が助けたことにするのは色々めんどくさいことになる。認識阻害インビジョンをかけて戦う」


話しながら俺は自分に認識阻害インビジョンをかける。最近思うのだが、空間魔法様々だな。凄く便利だ。


「二人は援護を頼む。暴れて回って二人が混沌の魔女がバレるのはよくない」


「貴方だってバレたくないんじゃないの?」


「それは俺個人の希望だ。ここで混沌の魔女ってバレたらそっちの方がやばい。だから俺が動く……頼めるか?」


正直ここで2人が暴れたらここは更地一帯になってしまうのもあるけどな…そんなことを考えながら2人に頼んだら呆れたような顔をして


「お主も辛かろうに…任せるのだ。援護は任せておけ」


「それなら早く行った方がいいんじゃないかしら?そうじゃないとあの兵士、死ぬわよ」


ローレンスが答え、ユニーレがさっさと行った方がいいと促している。


「あぁそうだな。それじゃあ行ってくる」


空間魔法に入ってる政宗まさむねを出して俺は戦場に向かう。


神威カムイを出してもいいが、あれは正直チートだ。あれがあったから俺はユニーレに勝てたんだ。俺自身が強くなってるわけじゃない。


だから自分のレベルをあげるためにも元々使い勝手のいい政宗を出すことにした。




そして今にも斬られそうな兵士を庇おうと相手の剣を——



「居合——残夢ざんむ


夢のごとく朧になった刀がありえない方向に曲がり、追尾するがのごとく相手に向かっていき



キンッ!!



——相手の剣を斬る。



「なっ!」


急に自分の武器が斬られるとは思わなかったのだろう。相手の盗賊らしき奴は自分の剣とその斬った俺の方を交互に見ている。


「誰だ!」


声を上げるが、答える気はないので俺は相手の懐に潜りこみ斬撃の雨をお見舞いする。


「二の連— 刹那嵐さみだれ


無数の斬撃の雨が盗賊に襲いかかる。何十もの斬撃をもろに喰らって無事なはずもなく…


「ぐはっ…」


相手はその場で生き絶えた。一瞬で仲間を倒され残りの盗賊達は兵士から俺に標的を変える。


「てめぇ!なにもんだ!!」


おそらくあれがリーダーなのだろう。他の奴とは違う獲物を持っているし、雰囲気が違う。貴族や商人を襲う経験を何十回もしてるのだろう。


まぁそんなことどうでもいいがな。


「…」


「あ、あの…」


すると、後ろから声をかけられた。

振り返ると青い髪の女の子、ナーシャが震えながら、俺の方を見ている。

まぁ不安か…少しでもそれを拭い切れるかは分からんが。


「大丈夫だよ」

ただ一言、それだけ言っておいた。


「ッッ!!」

するとナーシャは頬を染めながら俺の方を見ている。それに俺は気づくはずもなく盗賊達の方に向けた。


「くそっよくも俺の仲間を……!やっちまえテメェら!!殺しても構わん!!」


それが合図なのか、盗賊達は一斉に俺に襲ってくる。まぁ魔導書の中にいた化け物と比べたら、赤子に等しいわな。


そんなことを考えていたら横から二つの魔法が飛んできた。


「な、なんだ!ぐああ!」


「ぁぁあああ!!熱い熱い熱い!!誰か水!水くれー!」


「くそっどこから飛んできた!お前ら落ち着け!!」


その二つの魔法だけで盗賊が阿鼻叫喚だ。

あいつらの援護だな。

俺が魔法で小さく助かる、と二人にお礼をいい俺も盗賊達に近づく。


あんまり長く戦うつもりはないので今も騒いでる馬鹿どもに先ほどよりも鋭い斬撃を浴びせた。



「五の連—鎌鼬ハヤテ

速度を上げて相手全体に斬撃を入れる。

それはかのかまいたちに襲われてるかのように嵐の斬撃が彼らの身体に刻まれる。


「あああああ!!」


「ぎ、ぎゃああああ!た、助けてくれー!」


「く、くそ…」


次々と盗賊達は先ほどよりも高い悲鳴を上げながらやがて、静かになった時には全員が他に伏せていた。


「テメェ……俺の仲間をよくも!」


「それはさっき聞いた。それよりかかってこいよ?あとはお前だけだぞ?」


リーダー盗賊が怒りで震えてるが、俺はそんなのどうでもよく、さっさと終わらせたいから相手に来るように促す。


「くっ舐めるなぁぁぁああああ!!!」


ただ冷静じゃないな。怒りで我を忘れてやがる。ため息をついて俺は相手とは対象的に歩きながら敵の首に狙い撃ちする。


ただ一閃、それだけで終わらせようとしたのだが……


ガキンッッ!!


「…へぇ」


俺の狙いが分かっていたのか相手は俺の一閃を防御していた。


「なんだ?やるじゃないかお前?」


「ぁぁぁぁあああああ!!!」


ただ俺の声は虚しくその逞しい声?にかき消されていた。

俺は何度も相手を斬ろうとしたのだが、相手は的確に防いで俺にカウンターを入れようとしてくる。


(こいつ…見た目の割にちゃんと戦えてるな……)


ただ少し違和感を覚え、試しに俺はそこら辺に転がっている石を投げてみた。すると相手はさっきと同じ勢いで石を剣で砕いていた。


(なるほど……こいつ「異能待ち」か)


おそらくカウンター型なんだろうな。自分に敵意のあるものはなんでも反応して避けたり、斬ったりして自分の身を守る。


使い方さえ良ければもっと強くなるはずだ……だが


(たまに見かけるが、異能に意思を乗っ取られることがある。奴もその1人だろうな。それに…異能だけに頼ってたらいつか穴を突かれる)


少し期待していたが、まぁこの程度かと思った俺は一気に終わらせることにした。


速度を上げ、相手に斬り込む。もちろん相手は反応するが、さっきの動きを見た俺は相手の癖、弱点を的確に分析出来いた。


その弱点、こいつの場合は……


「ふっ!」


「ぐあぁぁ…」


……戦ってる時の脚だな。カウンターに集中しすぎて、脚が動いてない。ガラ空きだ。


バランスを崩したリーダーに俺はさっきと同じ首に狙いを定めて相手を斬る。


ズバッ!



今度は防がれることもなく、リーダー格の盗賊は呆気なく散った。

意外と時間がかかったと思った俺はふぅっと息をついて政宗を空間に入れる。


と、それと…あの兵士も治した方がいいな。

と思ったのだが…俺が見た頃には二人は治っていた



(あいつら…ったく優秀すぎて困るな)


おそらく2人が俺のことを考えてあの兵士達を治してくれたのだろう。


感謝しながらバレるのもめんどいので俺は即時に離れることをした。


「あ、あの!」


少女の声が聞こえたが、俺はそのまま無視してその場から立ち去った。


……いや一言ぐらいかけておくか。


と思った俺は後ろに振り返って声をかけた本人の方を向きながら


「無事で良かった!気をつけて帰れよ!」


と言って、今度こそ立ち去るのだった。






しばらく走っていると、援護してくれてたであろう魔法のスペシャリスト達が俺のことを待っていた。



「悪いな2人とも。色々助かった」


「貴方のためならこれぐらいどうってことないわ」


「あの兵士達は一応回復させておいたが…大丈夫であったか?」


「あぁ、お陰で無駄な時間を使わずに済んだよ。ありがとうローレンス」


「ッ!え、えへへ…」

おそらく2人に回復をかけてくれたであろうローレンスにお礼を言いながら頭を撫でた。


ローレンスはビクッとしていたが、その後嬉しそうな顔をしながら顔をにやけさせていた。


「…私も貴方の為に頑張ったのだけど?」


少し不満そうな顔をしたユニーレが目に入り、俺は苦笑しながら


「分かってるよ、お陰で助かった。ユニーレもありがとうな」


「そう…」


素っ気ない態度だったが、嬉しさが隠し切れないのかふふっと幸せそうに笑っている姿が目に入った。


こいつらほんとに混沌の魔女なのか?

なんかこの姿を見ているとたまに忘れそうになる自分がいる。


と、そんなこんなしていると…懐かしい声が聞こえてきた。









「………お兄様?」



ッッ!!

俺はその声に即時に反応した。声が聞こえた方に目を向けると、そこには成人と言われても違和感がなく、以前よりも成長したように見えた妹の姿があった。


まだ時間が経ってないはずなのに再会で涙を流しそうになりながらも俺は久しぶりに出会った妹に声をかける。



「…ソフィア、少し成長したか?お兄ちゃん嬉しいぞ」


「ッ!お兄様!!!」


俺が声をかけた瞬間、ソフィアはこの時を待っていたかのように俺に駆け寄って抱きしめてきた。


俺もソフィアに抱きしめ返す。


「……うぅ、ひっぐ……ほんとに、ほんとにお兄様です…お兄様……お兄様……!」


「…あぁ、ほんとに僕だよ。約束通りちゃんと帰ってきたよ」


涙を流しているソフィアに俺はいつも通りに背中をポンポンと叩きながら抱きしめていた。


…にしても身長が俺と同じくらいになってるな。子供の成長ってこんなに早いもんなのか?



「…どこに……どこに…行っていたんですか?ソフィアは…‥てっきり捨てられたのかと……ずっと…ずっと…!」


「ごめんな、少し遅くなっちゃったね。でもソフィアに何も言わずに立ち去るなんて僕がするわけないだろ?」


「……はい、はい…ソフィア、ちゃんと待ちましたよ……経っても…お兄様のことを…」



……ん?二年?


「そ、ソフィア二年待っていたってどういうことだい?お兄ちゃん少し頭混乱してるぞ?」


ちょっと待て…ほんとにどういうことだ?


「…だって…だってお兄様…!………あの魔導書に入ってから二年経ったじゃないですか!!……うぅ……でも、良かった…ちゃんと…ちゃんと…帰ってきた…お兄様ぁ」


……忘れていた。そうだ、あの魔導書の中と現実じゃあ…時間の流れが違うんだった!


……あぁなら全部合点がいくぞ。なんでナーシャがここに来るのが早かったのか…なんでソフィアがここまで成長してるのか……


二年経ってるからだったのか……!


…はぁ、なるほど。どうやら俺はいつの間にかタイムスリップ的なことをしてしまったらしいな。


他にも色々考えたいことがあるんだが…今は二年間も俺のことを待ってくれたこの子にちゃんと言わなきゃな。






「遅くなってごめんね。ソフィア」




「…はい…はい!…お兄様!!」




色々なことはあるが…それでも今はソフィアとの再会に集中することにしよう。

こうして、しばらく妹との抱擁を楽しむのだった。






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