第22話 「我」と「私」そして帰還



それはローレンスが目を醒ます数時間前—



俺はユニ―レに少し気になったことがあったので聞いてみることにした。


「そういえば、ユニーレお前、ローレンスに身体を明け渡したらお前どうするんだ?

あいつの中に居続けるのか?」


ローレンスとユニーレは経緯はどうであれ一心同体の存在だ。

そうなると今後契に反することがあるのではないかと思うのだ



ちなみに契の内容は

・俺の許可がない限り周りの人物や俺に危害を加えない

・俺には隠し事はしない。

・俺の頼み事は基本的に引き受ける(ただし、引き受けきれない事情があるなら俺に報告をし許可が出たらしなくて良い。またその時は契の内容は破ってもよしとする。)

・俺から離れない


とりあえず思いついた限り出した。どうやら契に関しては追加することができるから

まあ少し困ったら増やせばいいだろう。

ちなみにだが、最後のやつはユニーレが勝手に付け加えた。

どうやら相当離れたくないらしい....ほんとになんちゅう時限爆弾に懐かれたんだ。


で、どれが契に反するかというと、先程言った俺から離れないことだ。

今のローレンスを見れば、自惚れでなければ当分離れることはないだろう。

だがこの先もしも、どこか住みたい場所、やりたいことが見つかれば、俺はローレンスの選択を尊重するつもりだ。


だが、ユニーレが入ってる場合、契のせいで彼女に罰が執行されることになる

また彼女が不幸な運命を辿ってしまうのは俺が自分自身が許せなくなる。


だからユニ―レに聞いてみたのだが.....


「....なにだらしない顔しているんだお前?」


俺が名前で呼んだ瞬間、ユニーレは一瞬顔を赤らめたと思ったらだらしない顔をしながら自分の名前を連呼していた。


...ほんとにこいつ、世間が恐れてた混沌の魔女なのか?

「おい、ユニーレ?ユニーレ〜?」


『ッ!...な、何かしら?』

なに済まし顔してるんだお前....


「はぁ...聞いてたのか?お前はその後どうするんだってきいてるんだ」


『あぁそのこと?それなら大丈夫よ』

こいつ...こんな反応ってことはさては聞いていなかったな


「...ん?大丈夫ってことは何か方法があるのか?」


なんか普通に反応していたから聞き流そうとしていたのだが、結構重要なこと言った気がするぞ?


「大丈夫なのか?まさか身体を分離できますとか言わないよな?」


まさかと思って聞いてみたが


『鋭いじゃない、そのとおりよ』


「....嘘だろ?」


そんな芸当ができるのか?流石かつて魔女と呼ばれていた女ということか?


『元々私達は別々の存在だったの。正確に言うと私がローレンスの中に誕生したって表現したほうがいいかしら』


「…なに?」


そんな話聞いた事がないぞ?確かに魔女の話は作者から言及されたことなどほとんどない。


でもその情報ならなにかしら伏線だったり、その情報に関わる組織について言及されるはずだ....なのに混沌の魔女に関しての情報だけは謎のままだ。


まるでその話題には触れてはいけないとでもいってるかのように.....


『アクセル?』


「ん?あぁ悪い。それでどうやって分離するんだ?」


『?まぁ言いけど、それで分離する方法ね?』

そしてユニーレは説明し始めた。


『私の力で人間という生物の依代になるものを創るの。本来ならこんなのやろうとしたら私でも身体が持つか分からないけれど、この世界で創るなら私の思い通りに何もかも創れるからなんとかなりそうだわ。それに依代にいろいろおまけでもつけて前よりも強くなりそうだからある意味都合はいいのよ』



「………あれよりも強くなるのか?」


絶句した。てかドン引きだ。あんなに強くかったのに……あれよりさらに強くなるだと?


「お前って、ほんとにめちゃくちゃだよな」


『お褒めにあずかり光栄よ。それが私よ?…私からすれば貴方の方がめちゃくちゃな気がするけど』


「…はぁ〜やめだやめ。話は後だ。さっさとやるぞ」


結局どちらもめちゃくちゃということだ。

それはそうだ。アクセルだってよく考えれば化け物だ。おそらく原作よりも強いと自負できるほどにな。


そんな化け物達がお互いめちゃくちゃ言ってるんだ。こんなの話に拉致があかない。


『了解したわ、我が主人』


「……ほんとにやめてくれ。契りをやったとはいえあくまで対等だ。そんな趣味はない」


『うふふっ』


ゾッとしたことを言ってきたので、さっさと始まるように俺は促す。

ご主人様とかそんなのほんとに柄じゃない。昔は確かに金持ちではあったが、メイドとかそんなのいなかったしな。


そしてなんだかんだ言いながら、ユニーレはとっくに依代を完成させていた。


『とりあえずは依代は完成よ』


「もう完成したのか?……にしてもこれが依代か、見た目は今のお前ほとんど変わらないが生気が感じられないな」


『当たり前よ、私の依代の為に作ったんだから生きていたら困るわ』


そういうもんなのか…でも凄いなまるで本物の人間かのようd……


「……」


『あら?急に黙って目を逸らしてどうしたのかしら?なにかいけないものでも見た?』


こいつ……分かってて創りやがったな

ユニーレが創った依代は今と見た目が変わらない女性の姿だ。


そんでよく見ると服を着てないのが分かる。

だから女性の見えてはいけないところも見えるってわけで………


「……」


『アクセルは恥ずかしがると黙るのね?うふふ、貴方のそんな所を見るのも悪くないわね。色々目覚めそうよ』



「そんなことはいいからさっさと服を着させろ」


『もう、冷たいわね。ふふっ…』


俺の反応に満足したのか、ユニーレは依代に服を着させた。

こういうのはどうすればいいか分からんからほんとに困る。なんか戦ってるよりも疲れてる気がするのは気のせいかな?……気のせいだよな?


『じゃあ始めるわよ』


ふざけ合いが終わって、急に真面目になるとユニーレは依代と自分の胸に手を置いて何かをしている。


よく見ると何かを送ってるように見える。

魔素とは違う別のエネルギーを送っ出るように見える。



(おそらくだが……ローレンスの中にある異能の力を送ってる……いや、そもそも異能はそいつの魂に結びついてるからそれを剥がそうとすると廃人になるはずだ……となると異能のコピーか?…こいつなら出来そうだな)


仮説は立ててみたが、どちらにしても普通ではないことをやってるのは確かなのでやっぱり混沌の魔女はチートなのである。



……人のこと言えないって?気にしちゃダメだ


と、そんなこんなでどうやら終わったらしくユニーレが最後の締めくくりと言わんばかりの魔法を唱え出す。





魂の移動ゼーレ・ソディファシィ


次の瞬間、ユニーレと依代が光り輝き始めた。


余りの眩しさで俺は目を開けていられず、腕で視界を遮りながら、ユニーレの方を見続けた。


しばらく経って視界がよく見えるようになり

腕をどけて終わったであろう彼女らの方を見てみるとそこには——




——

目を開けて見ると、そこには眠っているように目を閉じたローレンスと、下を向きながらローレンスの方を見つめる絶世の美女の姿があった。


おそらくその美女はユニーレのことだろう。


だが、この時の俺はあまり冷静ではなかったかもしれない

ローレンスの姿を見た瞬間、俺は彼女の方に駆け寄った。



「ローレンス!」

彼女の華奢な身体を抱き寄せてた。彼女の体温が俺の腕に感じているが、反応がない。


ユニーレは何も言わずただ彼女を見守っていだろう。


俺は彼女の目を覚ますまで何度でも呼び続けた。じゃなきゃ彼女はまた諦めそうな気がしたからだ。



そして呼び続けてしばらく経って——









「....遅いのだ...待ちくたびれぞ?」







——ついにローレンスの目が開いた。

弱々しい彼女の声を聞き、俺は安堵と申し訳なさを感じながら、彼女に答えた。


「......悪いな、少し時間かかったわ」


すると彼女は繊細な身体をしながら、心から笑ったような声で俺の方を向いて言った。



「ただいま....アクセル」



「……あぁ、おかえりローレンス」










しばらくの間、ローレンスの治療をしながら、俺はユニーレに声をかけた。


「それで、お前はどうなんだ?身体の調子」


ユニーレは自分の身体を確かめるために少し魔法を試し撃ちをしたり、異能の力で物を創ったりしていたが


「…やっぱりね」


何故か予想していたようなそれと腑に落ちないような顔をしていた。


「なんだ?何かあったのか?」


「…確かに身体自体は完璧よ。魔力回路だって改造して流しやすいようにして効率はいいわ。ただ…」


「ただ?」


「…どんなに試し撃ちしても、やっぱり異能の力の方が強力なの。どうやら私の本来の力は魔法じゃなくて、この異能の力の方らしいわ」


なるほど、どうやらローレンスが離れたことで彼女にも得意不得意が発覚したらしい。


「てことは元々魔法が得意だったのは…」


「……この子のおかげってことね」


なんかとんでもない化け物が生まれようとしてたと少しドン引きしてたが、どうやらそうでもないらしい。


ローレンスには魔法の力が、ユニーレには異能の力がそれぞれ得意分野だったのだ。

なんかいい具合に差別化されてるな

本人は悔しがってるが、これ以上強くなるのはやめてくれ。俺が困る。


「…でもなんか異能の力の方、さっきより強力になってないか?」


「あら?気づいた?そうなのよ、この身体にしてから創る速度、重さの調整、同時並行、それぞれ一段上がってるわ」


……ただ弱くなった訳ではなく、得意分野の方が強力になったらしい。


と俺たちがそんな話をしていると——


「……お主」


ローレンスがユニーレの方を見て話しかけていた。まるで知り合いのような、見たことあるような、そんな気配を醸し出しながら。


「……」


ユニーレはただ何も言わず無言でローレンスに向き合ってる


「「……」」


…なんか気まずい空気だな。前にもあった姉上とソフィアとは違う嫌な空気を感じる。


「…お主が、我の中に奴なのか?」


「…えぇ」


ローレンスは確かめるように聞き、ユニーレに関してはさっき俺と戦ってたような何を考えてるのか分からない表情で答えてた。



「そうか…お主とは一度話してみたかったのだ」


「…そう」


そこからローレンスとユニーレの会話が始まり出す。俺はただ無言でそれを見守る。ここから先はあいつらのことだ。無関係の俺がとやかく言うのは違う。


「…お主はあの時、辛かったのか?」


「…分からないわ、あの時の私はただこの世界をめちゃくちゃにすることだけしか考えてなかったから」


「そうか……我は辛かったし弱かった。裏切られ、奪われ、お主みたいに何も感じなかったら楽だっただろうな」


「……」


「…だからあの時の我は何もかも恨んだ。この世界も、人も、家族も……もしかしたらお主だって……世界を混沌に覆い尽くそうとした」


「……そうね。そのために私は生まれたもの」


「…でも我はお主に感謝してるんだ」


「?」


「今こうやってここにいるのも、今こうして耐えることが出来たのも…アクセルに出会えたことも全部お主がいたからなんだ」


「…私はアクセルを破壊しようとしたのよ?」


「それは許さぬ、許すつもりなんかない。

それでアクセルが死んだら一生お主を恨む……でも…それでも、お主も救われただろ?」


「……そうね、彼と出会えて自分でも分からない自分が居て……楽しいのかしらね多分」


「そうであろう?……だから言わせてくれ」















「辛いときも苦しい時も、我と一緒にいてくれてありがとう。お主がいたから我はここまで生きることが出来たのだ」




「…そう、貴方がそれでいいならなにも言わないわ。ただ私も感謝してるわ。彼に出会えたもの」


「お?お主もアクセルの魅力に気づいたのか?」


「馬鹿にしないでもらえるかしら?私は彼に全てを渡したのよ?魅力なんてとっくに知ってるわ」


「なっ!?す、全てじゃと!?おいアクセルどういう事だ!我がいながら我の中にいたやつと変なことしたというのか!!」



「ちょっと待て?さっきの空気どうした?というか俺を巻き込むな、こいつが勝手に懐いただけだ。」


「あら心外ねアクセル。私たちあんなことをしたのに…」


「お前もだ!なに誤解招くような発言してんだこら…って待て待て待てローレンス!」


「お主…我というものがいながら…!死刑じゃ!!死刑に処してやる!!!」


「だから待てって!ってお前も魔法の威力上がってねぇか!?おわっちょ、ちょっと待て!!まじでやめろ!俺身体ほんとに辛いんだってー!」




……こうしていつの間にかかなり混沌カオスな状態になった後、俺たちは無事禁句の魔導書の中から脱出したのだった。




……はぁ、なんかこの先が不安な気がするのは俺の気のせいであって欲しい。






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