波瀾

木兎

流水

太古の世より、此の大河は世に賛えらる。


その淵源は遥かなる天外のにじ世界にあり、岩間の奥底より湧く清らなる水は、雲間潜りて岩肌を伝いて流れ落つ。


万万の岩越え、衆多の瀬渉りて、遂に此の雄渾ゆうこんなる流れ。


川面の映す月光、淵の滋る藻は碧の如くに。


川には絶えず変化有り、時に狂い、烈し、壮絶のらんを描き、また小なる詩の響を奏でんとす。


されど人々は畏れずして川の辺に集ひ、その気高き偉大と憫れ深き仁徳とに心酔す。


今宵の川の祭も斯く営まる。


川下の里里より参集せし人々、祭壇の周りに臥する。


老いた神祝は古きより伝はる祝詞をそらんじ、巫女たちは神憑る舞を披く。


やがて川の精現れ、波瀾の躍りを舞はんとする。


その聖なる儀の前に、人々は久しき記憶を喚び起こし、畏懼の念を新たにする。


滔々たる奔流は時に龍の激怒のごとく狂い、大地を揺らす。


しかれども瞬く間に鶴の羽衣のごとく軽く静まる。


かく大自然の神々しき姿に、人々は虔しき心を懐かざるを得ない。


かくして祭火を焚き、舞い手たちは可憐なる躍りを至上の舞台に描く。


その踏みはめでたき水の精の肌に映え、永劫の輝きを宿らん。


川の精今宵こそ極彩の花を咲かすべく、太古の昔の常なる営みの祝典となる。


水の賛歌は天に舞い、天の川さえ響き渡る旭日の祝祷。

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波瀾 木兎 @mimizuku0327

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