≒の勝者が行く墓参りの物語

@dango4423

第1話ようこそ異世界、さよなら故郷

「アインさん、貴方だけでも生きてください。」

「アイン隊長こちらです、早く!」

絶え間なく響く銃声と爆発、そして人が死に至る声。長い間共に戦った仲間達の命が簡単に散っていく。ただそれを聞いていることしか許されない。

自分達が現在攻め込まれているのはとある研究施設。

攻めてきてるのは分かりきっている。

物理的事象を言葉と己に流れる血だけで起こす『魔法』を使う、術者。

戦争に負け、科学の言いなりとなった者達だ。

何故此処が狙われたのかなど言うまでもない。此処に『科学を勝利に導いた人間がいる』それだけだ。

アイン・シュバルツ、戦争を終わらせ、科学を勝利に導き、そして数多の同胞と親友二人を失った『ただの人間』、それが俺だ。

「アイン、転送装置の準備は出来てる。お前とサポートロボットが入ればすぐに飛ばせる。俺たちも準備があるからな。」

既に扉が開かれたポッドには犬のロボットと幾らかの道具が既に入っている。

急ぎで入るが、大きさ自体はそれほどだ。良くて後一人入れるかどうか。

「待ってくれ、お前たちはどうなる、逃げる手段なんて無いはずだ。」

「何言ってるんだアイン、お前が飛んだら此処を吹き飛ばす。恐らく残存する全兵力で来てる筈だ。はそういう集まりだ。」

声が出ない。お前たちすら失えば俺はどうなる。戦争に勝った意味は?平和を勝ち取った価値は?何も意味が無いじゃないか。

「例え俺たちが死んだとして意味も価値も残る。アイン、お前が存在していれば残る。」

やめろ、やめてくれ。言わないでくれ。

「俺たちもそうだ、ジュナとグロウもその筈だ。だからお前に託す。」

「俺たちを忘れずに生きてくれ。そしていつかまた会い墓参りに来てくれ。」

既に閉まった扉を叩いた所で何も出来ない。透明なガラスの向こうで一人、また一人と倒れていくのが見える。

「カウントダウンも始まった。さよならだアイン。」

数字が減っていく。

「あぁ、やめてくれ。」

機械を起動した仲間を手に何かを持ち、部屋の扉を進んでいく。

想像はつく、起爆のスイッチだ。

「行かないでくれ。」

『カウント0、それでは良い旅を。』

機械のアナウンスが響く。視界が白に染まり始める。

最後に目にしたこの世界故郷は、炎に包まれる、その一瞬だった。


「アイン、起きろアイン。」

俺を呼ぶ声が聞こえる。

「アイン、地図と周りの地形、並びに環境が違う。照合したいから起きろ。」

重い瞼を開く、それと同時に鳥のさえずり、木々が揺れる音もする。

「ここは、どこだ。」

どうやら森の中のようだ。

「アイン、恐らくここは地球じゃない。付近の生物はどのデータとも一致しないし、大気成分はほぼ同じだが、少しだけ違う成分も混じっている。」

隣には犬の見た目をしたロボット。

こいつは自立型対術者用単独兵器、名前を「タイプ・ウルフ」と呼ぶ。

しかし皆ウルフウルフ読んでいたので、このロボットは自分の名前が「ウルフ」だと認識しており、正式名称を忘れている。。

「ウルフ、俺たちはポッドで安全地帯に飛んだ筈では。」

「最悪な可能性を引いたと推測する。」

「お前のさっきの発言から考えるに、ここは地球じゃない何処かの世界。」

「つまり異世界と思われる、アイン。」

嘘だろ。声も出ない。

あいつらに託された命、なのにまた会いに行くことすら叶わなくなった。

「今は動こう。手持ちのデータでは何も出来ない。」

進もう、今はそれしか出来ないのだから。

「近隣にドローンを飛ばしているが、高機動型はバッテリーを補給出来ないから使っていない。現状はエネルギーを補填可能な機体で回している。」

「ありがとうウルフ。ひとまず公道へ出よう。人間、もしくはそれに類似する生物を見つけないと話は始まらない。」

まずはここからどうするかだ。

手元にあるのは、

置換型収納装置。

これは腕輪の形をしたものだ。道具、兵器を小型のキューブに置換し、収納。

その後、望んだタイミングで取り出せる。しかし取り出すのに時間がかかる為、実際の戦争では殆ど使われなかった

超大型を除いた術者用の搭乗兵器・自立兵器・小型兵器・銃火器(収納済み)。

術者単体を倒す為に作られたそれらは、この世界ではどれほどの優位性を保持できるかにかかっている。

装着型パワードスーツ。

肌着同然に着ることが可能なこれは、出力に合わせて身体を補助してくれる。

環境に合わせて温度調整も行われ、対術者戦闘で大きく貢献した。

これを作り上げれたことで、戦争でも少なからず戦えた優れものだ。

スーツそのものに自己学習型のAIが搭載されていたが、成長スピードよりも魔法の改造の速度が勝り、常に後手に回っていた。

常時起動型の防御機構二種。

拒絶装甲・否定装甲の二種。

拒絶装甲は物理面の攻撃に対して機能する遮断型の兵装。

否定装甲は魔法、魔力面の攻撃に対して機能する遮断型の兵装。

この二種は同時展開が出来ないことから、『魔力を纏った物理攻撃』に無意味であり、戦争では殆ど意味を果たさなかった。

そして、タイプ・ウルフ。

こいつは自立型の補助・強襲・探索・救助などのオールラウンドに動けるように作られた犬型のロボットだ。しっかり迷彩機能も搭載されている。通話も可能な所も、痒い所に手が届く設計になっている。

最後に水と携帯食料。

戦争の激化に伴い、『ディストピア飯』とも呼ばれていたキューブ状の栄養食だが、しっかりと味がついており、妙に人気があったことを覚えている。

作った当人は、「これで助かる命があるなら安いもんだろ」とよく言っていた。

これらがあるので、安全はまず確保出来る。

この世界の文明レベルにもよるが、生きていくうえでまず生活は保障される。

送り出したあいつらもお節介のレベルが違いすぎる。

「アイン、林道を確認した。これを伝って行けば、公道に出られる可能性が高い。」

「助かるウルフ。周囲50Mの熱源感知は絶やさず頼む。」

言われなくてもと鼻を鳴らすコイツを横目に、横切る木々に目を向ける。

確かに見たことがない品種ばかりだ、ウルフが「異世界」などと言うのも頷ける。

あいつらが死んだ場所とは違う、それを自覚させられる。

道中は環境調査を行いながらの進行となり、だいぶ手間をとったが、森を出ることが出来た。ここで取れたデータは、もしも元の世界に帰れた時用にバックアップも取ってある。

「ここからは道なりに歩こう。下手に機械で移動して、変な噂が立ったら危険だ。」

「了解したアイン。ステルスを起動する。」

天気は快晴で、風も心地よい。この世界で生きていたら良い日になると思うほどに。

また人は存在するようで、時折横を馬車が通り過ぎていく。

「大気の成分も元の世界と変わらないし、本当に平行世界か何かなんだろうな。」

しかし馬車が長距離の移動手段だとすると、この世界の文明レベルは自分達とは大きく異なる。手の内を晒すのは極力避けた方が良さそうだ。

「■■■■■■■■。」

問題は人が集まる場所にたどり着けるかどうかだ。そこで情報収集できるかの問題もまだ残っている。やることは山積みだ。

「■■■■■。」

「アイン、横に馬車が止まっている。ついでに話しかけられている。」

「え、うそ。」

ウルフの声で横を向く。言葉通りに馬車と、ひょっこりと顔が出ている。

「予測、乗せてくれると思われる。これに乗じて言語情報も取得したい。」

「分かった。あぁ通じるか分からないが乗ります!」

身振り手振りでなんとか伝わったのか、顔を覗かせていた男性も笑顔になる。

乗せて貰った馬車の持ち主は商人のようで、見たこともない食材が多く置かれていた。

ウルフの力も借り、周りの物を質問することで、その解答から言語を当てはめていき、一時間ほどでウルフと自己学習AIの元、翻訳が完了した。

「兄ちゃんよくその年齢まで生きてこれたね。しかも急に流暢に話し始めるから、本当に頭も良いみたいだ。」

生きてこれたとはどういうことだ。この世界は想像以上に物騒なのか。

「あんたディスマナリアだろ。ここらじゃ排他的な人が多い。兄ちゃんが育った場所は相当平和か、差別の無い場所だったんだな。」

「ディスマナリアとはなんだ。教えてくれ。」

「まじか!そんな事も知らないなんて、もしかして本当良い場所で育ったのか?」

ディスマナリア、無魔力者ディスマナリア

魔力を持つ者を、魔力者マナリア

魔力持たない者を無魔力者ディスマナリアと呼ばれている。

この世界では、魔法が生活基盤の根底に存在し、私生活で魔法が使えないのは、生きていく事そのものが出来ない劣等種扱いだと言う。

「かくいう俺も殆ど無魔力者ディスマナリア同然だ。使える魔法も運搬系統しか使えない。まぁこうして生きてはいるがね。」

魔力を持つ人間は魔力をある程度、知覚・認識出来るらしく、直ぐに判別出来ることから差別は広がった。なので今もその排他的思考の人が多くの割合を占めている。

「魔法が使えないだけで捕まった話もあれば、自分の子供それだったから捨てた話もある。」

酷い話だと笑っているが、いつ自分もそうなるかと不安の顔も見える。

「だから兄ちゃんがその年齢まで生きてる事に驚いたんだ。」

「そうだったのか。まぁ俺の周りにいた奴は皆、揃いも揃って良い奴ばかりだったからな。」

そうして話に花を咲かせ、その裏でウルフに更なる言語解析をさせ、道を進む。

「この馬車の目的地は魔法都市システィナ。兄ちゃんには居心地は良くない場所だけど大丈夫か。お金もあるのか。」

「それに関しては・・・お金だけ無いな。無一文だ。」

「それなら関所のお金はだしてやろう。これも何かの縁だ、その代わり贔屓してくださいよ。」

仕方がない。金が無いのは事実であり、乗るしかないか。

「分かった。あんたの所で優先的に買い物をするよ。」

互いに握手を交わす。初めて話せた人間があんたで良かった。

魔法都市システィナは大きい都市で、関所もそれに漏れずちゃんとしている。

町に近づくほど、すれ違う人間も増えるが、皆一応に俺を見るな否や顔を背ける。

たしかにこれは酷いものだ。

ウルフとAIは商人の話を元に魔力感知システムを現在進行で作成しており、出来るにはそれ相応の時間が掛かるとのことだ。

「じゃあな兄ちゃん、またどこかで会おう。」

大きい門の前で別れを済ませる。関所を通る費用を譲り受け、感謝を伝える。

「ああ!!忘れてた!!!俺の名前はガラードだ。覚えてくれよ!!!」

「またなガラード。恩は必ず返す。」

最後まで良い人だった。


「全く足りないなんてあるのか?商人からはこれだけあれば通れると言われたが。」

「足りない。貴様無魔力者ディスマナリアの分際で調子に乗るな。」

関所を通る為の税を払うため、憲兵らしき人を訪ねたが、この有様だ。

全ての言動が上から目線であり、金の価値を知らない俺でも嘘と分かる金額をふっかけられ、挙句何故か囲われている。

「ここは魔法都市だ。お前のような矮小なゴミが入れる場所じゃない。」

本当に最悪だ。こうなるのなら、隠れて入れば良かった。

後の祭りだと思いながらも抜ける手段を考えなくてはいけない。

「だがこの程度の金でもお前が行ける場所ならある。だよなお前ら!」

その言葉で回りは理解したのか、一斉に笑い出す。

どう考えても危険な場所だ。しかし正規の手段で入れないのなら仕方がない。

「いいだろう。連れて行ってくれ。」

「いいぜ。魔法も使えない国のゴミ。」

まぁなるようになるだろ。


「さぁ皆さん!本日の初試合を飾るのはこの方々!

片方は現在四連勝中の期待のスーパールーキー『ファイアーバレット』!!!」

「もう片方はなんと無魔力者ディスマナリア

突如として憲兵が連れてきた謎の挑戦者の強さはいかほどに!!!」

まさか魔法都市にこんなコロシアムがあるとは。

目隠しされてつれて来られた途端、勝てなければ関所は通れないと言われ、しかも五体満足で帰れる筈がないと笑われる始末。

しかもこの勝負自体、他にも複数あるようで、観客も賑わっている。

観客も何か握りしめているので、賭けも存在しているようだ。

「他人の命で遊ぶとか、いつの時代の話だよ。」

(AI、ウルフはどうしている。)

(現在、ステルス迷彩を用いた周辺探索、並びに警戒中との事です。)

ウルフらしい、あいつに搭載されてるAIはもう完成している。心配は不要か。

「ではいよいよ一戦目!開始です!!!」

「おれが相手で悪かったな。俺は生憎どんな相手でも容赦はしない!」

「ファイアーバレット!」

突き出された右腕の前方が紅く染まる。

それは大きい球体の炎であり、瞬きの瞬間にはもう、目の前まで届いていた。

爆音と煙、アインの立っていた場所が見えなくなるほどの威力。

「流石の『ファイアーバレット』!今までの連勝と同じ、一瞬でケリを着けていく!」

観客の歓声が響くのを待つ。ただ待つ、数秒経った、十数秒経った。

なのに声が一切聞こえない。

「おい、俺を称賛する声はどうした。いつものように...」

観客を見る、皆一点を見つめている。自分が放った魔法の場所を。

「AI、冗談だよな。あれが奴の本気なのか。」

(はい、出力の最大値と予測。常時展開の防御機構ならば完全防御可能です。)

「駄目だ。これを大衆に晒されるのは危険だ。次からは予測を元に回避の推奨を優先しろ。」

傍から見れば一人で何も無い場所と会話してる変人だが、問題はそこじゃない。

「どうやって俺の魔法を防いだ。防御魔法も対処用の魔法も使えない筈。」

こいつは無魔力者ディスマナリアだ。起こりうるはずがない。

「なぁAI、質問なのだがあいつの強さはどれぐらいなんだ。」

(観測している術者のデータと比較するのが失礼な程に弱いです。

アイン様のスーツの出力2%もあれば対処可能です。)

「了解した。補助頼む。」

構える。仲間達から貰った大切な白衣の端が焦げている、それは許せない。

「術者なら、潰すだけだ。」

パワードスーツの補助と鍛え上げた身体、行動の予測の全てを持ち寄り肉薄にする。

恐らくこのコロシアムでの戦いは基本的に魔法の打ち合い、つまり接近戦は考慮されていない。

顔が当たるその距離まで寄せ、溝内に叩き込む。

術者が魔法を使うとき、詠唱の工程が必須だ。中には無詠唱で魔法を使える奴らもいたが、それは例外であり、戦争終盤で出てきた奴らだ。

こんなコロシアムでそんな上位に位置する奴は現れない。

故に届く。アナウンサーの言葉から察するに、こいつは初撃必殺型。

初見殺しが通らなかった時点で、こいつの終わりだ。

溝内、喉仏、顎、アキレス腱、足指、心臓部。

手足全てを用いた術者を無力化する為の総合格闘術。

『術者用戦式』。そんな名前だった筈だ。

時間にして20秒ほど打ち込み、崩れる対象を見て、手を止める。

「普通の術者なら再生魔法程度使える筈だし、大丈夫だろ。」


「しょ、勝負あり!無魔力者ディスマナリアが勝利を手にしてしまった。

こんな事、今まであったでしょうか!オッズも総崩れだ!!!」

いつまでも立ち上がらない相手を見る。この実況で勝利したのは理解出来る。

だが何故相手は起き上がらない?既にある程度の治療は済んでる時間だが。

「どいてください!担架通ります。」

在中と思われる看護師が相手を担架に移す。そのままでいそいそと運ばれていった。

「嘘だろ。再生魔法は基本魔法の筈では?」

(アイン様、先ほど述べましたが、あの術者は今まで一番弱いです。使えなくて当然です。)

それでもだ。で驚かれるこの世界の魔法はどうなってる。

退場の合図がなされ、出てきた道に戻る。

その先で憲兵が鬼のように赤に染まった顔で待っていた。

「イカサマだ!賄賂でも送っただろ。お前があいつに勝てるわけない。」

子供が考える幼稚な罵倒を尻目に、改めて向き合う。

「これで良いだろう。もう自由にしていいか?」

「なんならここで戦ってもいい。」そう伝える。

彼らも連れてきた責任がある。それは果たされるべきだ。

「分かった。もういい!勝手にしろ。」

「どうせここではお前は何も出来ない。」

「直ぐに後悔する。」

手を出してはこないようだ。ならばもう此処には用は無い。

出ていく最中に受付に呼び止められた。

なにやら掛け金の幾らかは勝者側に回るらしく、思いもしない資金を手に出来た。

「後は情報収集と行きますか。」

要約町に入れたのだ。今日出来る事は今日したい。

大体午後ぐらいの時間だ。少し町を巡って宿を取ろう。

コロシアムを後にする。ウルフから既に合流ポイントは届いている。

「少しゆっくり行くか。あいつらの土産話も欲しいしな。」


「待ってください!お話が。」

この世界で初めて手を握られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る