第18話 顔変わりすぎだろ
その日、グロアは過去最大に緊張していた。
(何のつもりなんだろう、彼は。この状況は普通に考えたら元に戻る、ということだけど、何か、何かがおかしい)
そう、それは一週間前。
「すみません、貴方が……グロアさんでしょうか」
「は、はい」
声をかけられた方を見てグロアはびっくりした。そこには元の家で剣術の講師である金髪の男性がいた。
「うわ、ほんとに前のボンボン坊ちゃんにそっくりだ」
(ボンボン坊ちゃん?)
何の話か一瞬、理解することができなかったが、どうやら家にいた時のグロアのことを言っているのだと思い、軽くショックを受けた。
(そんな風に思ってたんだ)
しかし次にその講師は妙なことを言った。
「今のあいつと全然違えな。なんか身体とか顔とか、たしか吸引しただかなんか言ってたもんな」
(身体? 顔? 吸引? なんだろう、何の話をしているんだ?)
その後にその講師はそそくさと帰っていった。紙には一週間後に二人で話があるとの内容と場所が指定されていた。
その場所の名前を見て、思わずグロアは目を細めてしまう。
『スレイブスピリッツ』
名前に奴隷を表す単語があるのもだが、その場所は焼肉屋だが、闇の世界の住人が時々はびこっている店であった。
そんな店に呼ぶなんて不吉ない予感がした。
そしてその予感は当たる。
「おまたせ」
颯爽と吹く風のような清らかな声が、グロアの耳の中に入る。
違う、即座にこれは自分とは違うとわかった。声、そして向かいの椅子に座る直前に見えた痩せた長躯、そして顔はイケメンという単語が真っ先に浮かぶほど整っていた。
「や、久しぶりだね。えっと……ごめん!! 名前忘れたわ!! ハハ!!」
少しも反省していないのが丸分かりの屈託のない笑顔。
「えっと……今日はどうしたの、マガマガく」
「マガマガ? 誰それ!! 知らないんだが!?」
(え……?)
何が起きたか一瞬分からなかった。
もしかして自分の認知が、歪んでいることさえ思った。目の前のこの男は誰なんだろう。
「マガマガはお前だよな?」
いきなり目の前の男は嘘をついた。いや、嘘ではない。完全に自分のことをマガマガじゃないと思い込んでいるのだ。
「いや〜ほんっとキツイよ毎日毎日特訓特訓と馬鹿の一つ覚えの親父。こっちが少し顔整えたら下等人間の真似をするなとかなんだかうるさかったからさぁ。こっちも思わず後ろ向いた時の隙ついてボッコボコにしちまったよあのバカ親父ホントクソだよな」
「何、言ってるの?」
「ん? だから、お前にも消えてもらうぞ、マガマガ」
瞬間、グロアの下が爆発。爆風があたりに吹き荒れ、客は全員叫びながら逃げていく。
それを見て男はニヤニヤする。
「やっぱ世の中、金っしょ」
「それはどうでしょうか」
その声にイケメンは顔を豹変させる。余裕顔が一瞬にしてクシャクシャになった。
爆風が晴れると、そこにはバンとロンがいた。その後ろにグロアがいる。
「お前ら……」
イケメンは白目を剥くように睨み散らす。
「俺らのこと知ってるってこったぁ、お前マガマガだろ?」
イケメンは並んだまま何も答えない。
するとロンがブハッと吹き出した。
「てか、貴方……顔変わりすぎじゃありません? 前はもっとブサイク」
「ドラコシャウト!!」
いきなりの魔法、辺りの壁、だけでなく店自体が吹っ飛ぶ。幸い、客や店員は全員外にいたから誰も巻き込まれなかった。
そして、バンがうつ伏せで倒れ、ロンが膝をついてハアハア肩で呼吸をする。
「バン!! ロン!! 大丈夫ですか!?」
「ちょっと……何ですか? これ」
苦しい表情をしてロンは見上げる。
視線の向こうに、得意顔のイケメン金髪のマガマガがいた。
「今の俺に取っちゃあよぉ、お前らは全員ただの雑魚のクソモブなんだよぉぉ!!!」
そこでマガマガは、右手を前に出す。
「ドラコノイズ!!」
爆破したような衝撃音が辺りに響いた。
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