第2話 ブレイブ家のグロア








 その男は路地を曲がり続け十分後、電車に乗り中心部へ。そしてそこからまた別な鉄道を使い、最終駅で降りる。駅を出て少し歩いていくと、黒い車がありそれに乗った。


 運転手は、少し眼鏡をしないと視界が悪く黒服を来て頭は薄いが、白髪の男性であった。

 

「すまない村田さん、急に出かけるなどしてしまって」


「いえ、かまいませんよ。それより、もう少し親しみを込めて村田と呼んでほしいものですな」


「あ、あはは。努力します」


 その男は少し苦笑いをした。

 彼は人見知りな方で元来から知っている者であっても中々親しくなれない傾向がある。


「もう考古魔法学の先生もいらっしゃいますよ」


 そう言って村田はホッホッホ、と微笑む。


 それを見て彼は再び苦笑い。


「申し訳ない。今日でなければ手に入らない物がありましたので」


「む? そんな物があったのですか?」


「はい、CMを見たら今日までだったので、つい行ってしまいました」


 そう言ってついさっき手に入れた品物を取り出した。信号が止まっていたからそのままもう一つを、村田に渡した。


「おお、これは確かに今日まででしたな」


 村田は切り取り線をなぞり、袋を破って開けた。


 それは、シックスイレブンというコンビニで売っている限定の『出汁が効いてる!! サクフワ竜田揚げ!!』であった。


「私も味わったことがありますが、これは絶品でしたね」


「へぇ、村田さんがそう言うなら美味いんですね」


 ホッホッホ と、嬉しそうに笑う。


 しかし、しばらくすると気づいた。


 後ろに乗っている彼が、口をきゅっと結び、袋をチラチラと見ていることに。 


 餌を与えられたが、待てと指示されて我慢している飼い犬のようだと、村田は思った。

 

 それだけでなく、彼の顔を見ると、ありもしないのに、周りに鉄格子のようなものまで見え始め、少し不憫に思った。


「大丈夫ですよ」


「え?」

 

「私の方でなんとか誤魔化します。車の中でも制限されるのは、些か大の大人でもキツイので」


 瞬間、彼の顔が輝いた。


「村田、ありがとう!!」


 あっ


 つい、村田と呼び捨てにしてしまったから彼は自分を恥じた。それにも関わらずホッホッホ、村田は朗らかに笑う。


 彼は袋を無造作に破り、竜田揚げを取り出し、思い切りかぶりついた。


 旨みがぎっしり沁みた肉汁がジュワジュワと口の中で弾け、濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がる。


 香ばしい匂いが鼻をくすぐり、程よいスパイスとなり刺激を与えてくれる。


「美味い」


 口の周りにチキンの油がついている姿は、父親には見せられないものであった。


「ふむ、あと十五分くらいかかりますね。仕方がありません。魔法学の先生には少し遅れることを伝えておきます」


「え、でまそれじゃあ」


 村田にばかり、負担をかけさせるわけにはいかないから、彼は止めようとしたが、もう村田はスマホで連絡していた。


「食事はゆっくりするものですからね」


「でもこれは、間食」


「間食も場合によっては、食事です」


 ニッコリと微笑む村田の顔を見て、彼は微笑んだ。昔から村田の笑顔は彼を安心させてくれる。


「ありがとう、村田さん」


「いえいえ、これくらい例に及びません。グロア様」


「それでも、その言葉は心強い」

 

 車内のミラーに映った顔は、全てマガマガと同じブサイクな顔だった。


 名前は、ブレイブ・グロア


 容姿以外は全てSランクの男の見本、と言っても差し支えない容姿なのは、間違いなかった。


 容姿だけはGランクであった。


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