四天王最弱に転生した俺、代わり見つけてこないと辞められませんと言われたので人材探してたら最強の軍団が出来上がってた

藤谷ある

第1話 最弱転生

 目が覚めたら転生してた。

 俺が大好きなゲーム〝アルテアファンタジー〟の世界に!


 ――と、そこまでは良かったんだけど、転生した先が問題だった。

 魔王軍の四天王の中で最弱と謳われた〝隷呪のジルグ〟に転生してしまったのだ。


 ゲームでは真っ先に勇者に倒されて、


「ジルグがやられたようだな……」

「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」

「人間ごときに負けるとは魔族の面汚しよ……」


 とお決まりの台詞を仲間内から吐かれてしまう役回りだ。

 まさに噛ませ犬ってやつ。


 ジルグの性格は卑怯で卑劣、そして魔王軍の中でも最も狡猾で知謀に長けた人物だが、その実、身体能力は人間並に貧弱で、攻撃魔法すら使えない。

 もっぱら、低級の魔物を使役し、唯一の得意分野である付与魔法でそいつらを強化して戦わせるというのが彼の基本戦術だ。


 そんなのだから他の四天王からも自分では戦わない逃げ腰野郎だと陰口を叩かれているし、魔王からの評価も低い。

 実際、ゲームプレイでも魔法封じの呪文を習得してから挑めば簡単に倒せてしまう雑魚である。


「なんてこった……よりもよって、ジルグかよ……」


 俺は四天王それぞれに与えられている居室の真ん中で溜息を吐いた。

 このままでは魔王城に乗り込んできた勇者達に、いの一番で殺されてしまう。

 しかもジルグに手こずったなんていうプレイヤーの話は聞いたことがないので、ほぼ負けが確定しているようなもんだ。


 どうすれば最悪の結果を免れる?

 前世が引きニートだった俺に優位な点があるとすれば、このゲームについて少しばかり詳しいという事と、転生と同時にジルグとしての記憶を得た事くらいだ。


 そのジルグの記憶では、魔王が君臨する地と外界とを隔てる川に人間達が橋を架け始めているという。

 これはゲームでも物語冒頭で建設中であることが描かれていて、終盤、この橋の完成によって人間側に勢いがつき、引いては勇者が魔王城へと攻め入る大きな切っ掛けとなっている。


 その橋が完成するまでの期間は、ゲーム内の時間でおよそ二年。

 既に建設が始まっているということは、それよりも少ないかもしれない。


 あーそれまでになんとかしないとガチでヤバい。

 今からやれる事といったら……鍛えて強くなる?

 いや、いくら鍛えたところでこいつのスペックじゃ魔法を封じられたところでお終いだし何も変わらない。


 付与魔法以外の魔法を習得するっていう手も考えられるが、二年かそこらで勇者を超えられるとも思えないしなあ……。


 なんだ……もう詰んじまってるのか??。


 ――いや、まだ諦めるのは早い。

 生き死にが懸かってるんだぞ? そう簡単に思考をやめて・・・いいわけがない。


 ――ん?

 やめて……?


「そうか!」


 やめればいいのだ。

 四天王を辞める!


 なまじ四天王なんていう目立つ役職に就いているから勇者に狙われるのだ。

 ただの一魔族に成り下がり、大勢の中に紛れれば目に止まることもないだろう。

 そのあとは魔王城を離れて、戦いとは無縁な辺境の地でひっそりと暮らす。


 なんだ、簡単なことじゃないか。

 そうと決まれば早速、魔王に辞める意志を伝えに行かないと。


 俺は軽い足取りで玉座の間へと向かった。

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