第2死 バカとアホ
「まーいったなぁ。」
扉を閉じるが鍵がかからない。
スーッと開いて行ってしまう。
このままでは燐の私物が危ない。
「紐で内側に引っ張……、
あ、取っ手がない!」
「……マサ、どうだ?」
「お嬢、まだ逃げてやせんね。」
「逃げると思うか?」
「逃げるんじゃないすかね。」
「見ものだな。」
「どうしようかなぁ。」
うろうろ部屋を見まわしている。
「そうだ! これだ!」
ペットボトルの箱を持って外に出る連。
「お嬢! 部屋の外に出やした!」
「待て、様子が変だ。」
「あん?
ペットボトルの箱を外から扉に立てかけて……、
中に戻って……、閉めた。
なにやってんですかい、コイツ。」
「逃げる気がないらしいな。」
「わかりやせんよ。
見られてるって察してるのかもしれやせんぜ。」
「確かに。
ありうるな。
こやつは割と迫害されてきたようだからな。
部屋はどうなってる?」
「映しやす。
……ん?」
「どうした、トラップでも仕掛けていたか?」
「……掃除機かけてやすが。」
「どさくさに紛れて何か撒いてたりしないか?」
「……なんかコナを水に溶かしてやすね。」
「毒か。」
「ボトルに入れてやす。」
「ふむ、毒殺を狙うか。
セオリーだな。」
「むっ!?」
「どうした。」
「フローリングに吹いて雑巾で拭いてやす。」
「待て、自分も死なないかそんなことして。」
「あれ、取ってきた位置からして
台所なんで重曹なんじゃないすかね……?」
「重曹? 強そうな名前の毒だな。」
「掃除や料理に使うんでやすが……。」
「そうなのか?」
「へぇ。
……あ、今度は別のコナ溶かしてやすね。」
「今度こそ毒か。」
「ボトルに入れて……。」
「手順は一緒だな。」
「トイレに行きやした。」
「絶対に使う場所だな。
確実に殺す気か。
トイレにはカメラはないからな。」
「ここは監禁部屋ですぜ。
ありやすよ。」
「出るか?」
「出やした!」
「……で、何をしてるんだ?」
「ペーパー畳んだところにさっきの溶液吹いてやすね。」
「何をしている?」
「……便器の裏のフチにはっつけてやす。
よく触れるな……。」
「ん? んん?
水を流したら毒ガスでも出る仕組みなのか?」
「あ、トイレから出やしたね。」
「ここは注意しておこう。
何かを仕掛けた。」
「ですね。」
30分後。
「あ、トイレに行きやすよ!」
「何をする?」
「便器裏に手ぇ伸ばして素手で擦ってやすが。
うげぇ。」
「大それた行動で油断させる手口かもしれん。
目を離すな。」
「へぇ。」
「……流したな。
毒ガスではないのか。」
「手洗って、ブラシで擦って。
洗剤ペーパーにとって全体拭いてる……。
お嬢、さっき使ってたコナ調べやした。」
「どうだった?」
「クエン酸です。」
「酸か。
あれか?
何かを溶かす薬品を作っていたと?」
「スマホで調べやした。
尿石はアルカリ性なのでクエン酸で中和する掃除がありやす。
ペーパーを貼り付けたのは効果増進のためです。」
「何だと?」
「お嬢!
コイツ、掃除してるようにしか見えねぇっすよ!」
「見られていると気付いているのかもな。
注意しろ。」
「なんか俺、違うような気がしてきたっすよ……。」
しばらくして。
「お昼っすね。
室内調査のために戻りやすか?」
「そうだな。」
「あ、お嬢!」
「どうした。」
「……昼飯作ってやす。
一人にはちょっと多いような気がするっす。」
「私が戻ると踏んでいる可能性があるな。」
「お嬢、何かあったらイヤホン入れます。」
「頼む。」
「戻った。」
「燐、おかえりなさい!
扉閉め忘れてましたよ。」
「あ、あぁ。」
「お昼食べる?
焼きそばしかなかったから朝と同じだけど……。」
「……。」
「燐?」
「連、一つ聞く。」
「はい。」
「何をしていた?」
「掃除です。」
「道具は何を使った?」
「重曹とクエン酸です。
まずかったですかね?」
「いや……。」
イヤホンから声がする。
「お嬢、全部あってやす。
普通に掃除です。」
「クッ……。」
頭を抱える燐。
「あれれ、何かいけなかったかな……?」
「お前なぁ!」
「は、はいぃっ!」
「監禁されてるんだぞ!
のんきに掃除してる場合か!?
逃げようとか思わなかったのか!?」
「燐の部屋だから綺麗にしておこうかと思って。」
「あぁもう!
ここはただの監禁部屋だ、バカ!
私に部屋何てない!」
イヤホンから突っ込みが入る。
「お嬢! バラしてどうするんすか!
アホですか!」
「そうなんだ。
でも昨日はよく眠れたでしょ?」
「あ、あぁ。」
「それならいいよ。
だって僕は燐からしたら外部の人間。
怪しいよね。」
「……すまん。」
「いいっていいって。」
イヤホンから声がする。
「お嬢、何のはな……あっ。」
「画面と通信を閉じろ。」
「お頭!? お嬢、すいません!」
「む。」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。」
「ごはん冷めちゃうよ、食べて食べて。」
「あぁ、いただこう。」
別の部屋で。
「お頭、どうして止めたんです?
あいつを信用するんですかい?」
「燐が信じたのなら俺も信じるだけだ。
時に、燐の体調に関しては知っているだろう。」
「そうっすね。
寝れてねぇとかで死ぬとか……、あれマジなんすか?」
「普通なら信じないだろうな。
あいつはもう何年もまともに寝てねぇ。
一時間も続けて寝てねぇな。
そんなのが年で続いてみろ。
お前ならどう思う?」
「……病気じゃなきゃ生き物じゃねぇって思いやす。」
「そうだ。
そんな人間離れした体調で今までやってきたんだよ、あいつはな。」
「……。」
「そんな燐が昨夜、久しくまともに睡眠をとったらしい。」
「え? なんかあったんすか?」
「メッセンジャーで俺には話してくれたがな。
あの連という少年、何かを変えてくれるような気がするナァ。
普通じゃねぇよ、あの男はな。
だから盗み見はやめとけ。
燐だって、年頃のオンナなんだからな。」
「え? お嬢、あいつに惚れてんですかい?」
「バッカ言ってんじゃねぇよ。」
スパーンと頭をはたく。
「痛ってぇ!」
「ま、俺としちゃどっちでもいいんだよ。
俺らの目的はなんだ?
抗争の勝利か?
違うだろ?
燐の小さな幸せを願ってるだけのただのボンクラだ。
その幸せを願う奴は盗み見すんのか? え?」
「すいやせんでした!」
その場を後にするマサ。
「フン。」
ジリリリリリ!
けたたましく警報機が鳴った。
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