第15話 一緒に作ろ
「はい、チーズ」
想太が言うと、浅香公平は、小さな三毛猫の羊毛フェルトのマスコットを手に、にっこり笑った。
前に、想太と約束していた、三毛猫が完成したのだ。小さな三角の耳と、今にも、にゃあん、と声をあげそうな可愛い口元のネコは少し上を向いて、なんだか自分に甘えてくるようで、めちゃくちゃ可愛い。
想太にそのコを手渡されたとき、公平は大喜びした。そして、さっそく、このコと写真を撮ってくれ、と自分のスマホを差し出したのだ。
シャッターを押した想太に、公平が声をかける。
「お。どや? カッコよく写ってるか?」
「まあ。それなりに」
想太が笑いながら答える。
「それなり、ってなんや。それなりって」
想太の手元のスマホを公平がのぞきこむ。
「いや。やから、それなりにカッコよく写ってます、って。……三毛猫が」
スマホの画面には、公平の手のひらに載った小さなネコがアップで写っている。公平の笑顔は、完全にフレームの外だ。
「ちょ、おまえ、肝心のオレはどこやねん。せっかくええ顔したのに。ネコと手ぇしか写ってへんやん」
公平がぼやく。
「あれ。写真撮って、っていうから、このコ、メインかなあって……」
へらっと笑って、想太が答える。目がイタズラっぽくキラキラしている。公平をいじる気満々だ。
「そんなもん、オレ写さんでどうするねん。はよ、ちゃんと撮って」
「はいはい」
あらためて、スマホを構える想太に、琉生は手を伸ばす。
「僕が撮るよ。ネコの作者も一緒に、2人と一匹で写ったら?」
「おお。そやそや。想太、おまえ、ここ立って。ネコ指さして」
公平が、自分の隣りを指す。
琉生は、2人をバランスよく画面に収めて、写真を撮る。
公平は、おちゃらけた押しの強い、関西弁の話しぶりとは違って、実際は、きりっとしたイケメンだ。りりしい眉と、二重の切れ長の目が印象的だ。若干、口は大きめか。いつも口角が上がっている気がする。センター分けにして、サイドに流した長めの前髪は、ゆるめのウェーブがかかっているが、染めてはいない。
想太は、薄茶の大きな瞳がキラキラして、今にも何かイタズラをしそうな笑顔だ。前髪は眉にかかるくらいにふんわりと下ろしている。伸びてくると、彼の髪は、すこしふわふわしたウェーブがかかった感じになる。口元は、思いっきり笑っているので、白い綺麗な歯並びが見える。
公平が小さなネコを乗せた手のひらをほっぺたの近くにおいて、それを、公平と想太で両側から指さしている。ネコも可愛いけど、それ以上に、2人の笑顔が可愛い。なんともいえない愛嬌があって、まるで兄弟みたいに見える。いくつかポーズを指示して、琉生は2人を撮った。さすがに、日頃から撮られなれているから、彼らは、カンがいい。何枚か撮ったが、どれも写りは悪くない。
「はい。OKです」
写し終えて、琉生が公平にスマホを手渡すと、
「お。これこれ。さすが琉生やな。バッチリや。おまえ、センスいいよな。誰かと大違いや」
「え。なんすか?」
想太も一緒に、写真をのぞきこむ。
「あ。ほんまや。なんでやろ。琉生が撮ってくれたら、オレ、いつもめっちゃいい顔で写れるねん」
公平と想太が嬉しそうな声で話しているのを聞きつけて、他の研修生たちもそばにやってきた。そして、想太作の小さなネコと2人の写真を見て、声を上げる。
「あ。なんかめっちゃこの写真、写りいいな」
「え。何これ、ネコ? すっげぇ可愛い」
「誰が作ったの?」
「想太? マジで?」
「へ~。いいなあ。……なんか、僕もほしい」
「オレも」
次々に声が上がって、ついに、想太は、他の研修生たちの分も、マスコットを作ることになってしまった。みんな、それぞれ、欲しいものを口々にオーダーする。パンダ、ネコ、クマ、ライオン、キリン……
とくに、目の前に、可愛らしいネコの見本があるので、同じようにネコがいい、という声も多い。けれど、名前に龍の字がつく先輩が、「おれ、龍がいい」と言ったときは、さすがに、想太は、う~ん、と唸っていたが。
「……大変なことになったね」
琉生が言うと、
「浅香先輩がからむと、なんかいつもこうなる気ぃする……ほんま、難儀やわぁ」
想太はちょっと苦笑いしている。それでも、
「まあ、作るの嫌いちゃうから、ええけど……数、多い」
「手伝おうか」
「ほんま? やった~。一緒に作ろ」
「いつがいい? 今週末は、ライブあるから、来週末ぐらい?」
「うん。そやな。それに、材料も買いに行かんとあかんし。材料だけは、先に買っときたいな。そしたら、いつでも時間できたときに始められるし。琉生、レッスンの後、行ける?」
「うん。大丈夫」
想太が、小学生の頃から通っている、手芸用品の店があるらしい。琉生も想太も、最寄り駅は同じなので、2人で帰りに寄ることになった。
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