何度だって。

原田楓香

第1話 センターステージ 


 華やかなライトが降り注ぐ、ライブ会場のセンターステージ。大きなライブ会場は満席で、熱い声援と歓声と熱気が溢れている。応援メッセージの書かれたうちわや、ペンライトが会場中で揺れる。

 客席の眼差しは、ステージの中央にいる2人に注がれている。

 

 ステージの中央で、背中合わせに立った2人が、曲にあわせて、軽々とそれぞれの長い脚を前に蹴り上げる。一瞬驚くほど高く上がった脚は、そろえたように同じ高さだ。蹴り上げたあとバランスを崩すこともなく美しい立ち姿に戻る。 ドーム内にため息のように歓声が広がる。だが、まだまだ感動の瞬間は終わらない。

 背中合わせのまま、2人の声がきれいにハモる。少し高めの透き通る声と、やや低めの甘い声。観客は、今度は声に魅せられ、うっとりとステージ上の2人の顔を見つめる。メインステージ上の大型モニターは、2人の顔のアップだ。


 十分にゆったりと広がる声を聞かせたあと、曲調が一気に変わる。アップテンポで、明るいメロディライン。会場に起きる手拍子。向かい合った2人が、華やかな笑顔で勢いよくハイタッチ。そして、その勢いのまま、お互いの手と手をしっかりと組む。

「きゃあ~!! 」と叫ぶような歓声があちこちではじける。

 2人のがっちり組んだ手と手が、メインステージ上の大型モニターに映し出され、歓声がひときわ大きくなる。 キラキラの笑顔で、ラストのサビの歌詞を歌い上げる2人。2人とも声がよく伸びる。しかも、2人の声の相性がいいのか、そのハーモニーはとても心地よく響く。

 歌いながら、お互いを見つめ合うように、ほほ笑みかわす。

 その様子も大型モニターは逃さない。アップになった2人の笑顔に、客席からは、ため息のような悲鳴のような歓声が上がる。



 大きな拍手と歓声の中、曲を歌い終えた想太そうた琉生るいは、つないでいる手に初めて気づいたみたいな顔をして、そろってイタズラっぽく笑った。

「お。琉生、勝負だ!」

 想太が、よく通る元気な声で笑いながら言う。

「おう。受けて立つ!」

 涼やかだが、甘い低音ボイスで、ゆとりのほほ笑みを浮かべた琉生が応える。


 2人は、そのまま空中で腕相撲をしている真似を始める。想太が大げさに、ぐぐ~っと琉生を倒そうとする。

 なにくそ~っという顔で、琉生が反転攻勢に出て、そのまま踏ん張っている想太をねじ伏せるようにして、勝ちを決める。

「おっしゃあ~。勝った~!」と、両手を突き上げて、琉生が勝ちをアピールする。

「やられた~!」想太が、大げさに悔しがる素振りを見せて、会場がどっと沸く。ライブ会場全体に、大きな拍手と笑いと歓声が湧き起こる。

 次の瞬間、想太がコロッと表情を変えて、琉生と目を見合わせ、のんきな顔でニカッと笑うと、

「行こか?」と言い、琉生の肩に腕を回す。琉生ものんきな笑顔で、応える。

「行こ行こ」

 笑いながら琉生は応え、琉生も想太の肩に手を回す。

 2人はそのまま笑顔を振りまきながら、センターステージからメインステージへの花道を進んでいく。

 花道を進む彼らを観客の眼差しが追う。会場中に大きな拍手が起きて、想太と琉生のデュオでの出演シーンは、観客の大喝采を浴びた。

 

 琉生と想太が、ライブでこの歌を歌ったあとは、いつもこの空中腕相撲をするのがお決まりの演出になっている。ファンの方も、みんな心得ていて、『今日の勝者はどっち?』『昨日は、想太くんだったから、今日は琉生くんかも?』などと、楽しみにしていたりする。

 時々フェイントをかけて、歌のあとすぐに腕相撲するのではなく、そのまま手をつないで2人でセンターステージからメインステージに向かって歩いて行き、途中で気づいて勝負するときもある。

 日によって、ちょっとずつやることが違うので、歌が終わっても、観客の目は2人に釘付けだ。

 いずれにしても、飛び抜けてビジュアルのいい2人が、仲良く手をつないで嬉しそうに歩いているだけで、ファンとしては、眼福! と評判なのだ。

 2人の出演シーンは、今回のEMエンタフェスの目玉の一つとも言われて、すでにデビューしている先輩グループのパフォーマンス以上に、今回話題を呼んでいるのだった。


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