A.勇気を振り絞り、巨人に殴り掛かる

(この物語は、前章「不思議な店」の末尾でAを選んだ方の為にあります。Bを選んだ方は「B.大声で助けを求める」の方をお読み下さい)



 ふざけるな。


 貴方は、震える足を無理矢理踏み出し、巨人を殴りつけた。

 感触はあった。

 だが、それは真綿を殴ったように頼りなかった。

 同時に、力が抜ける。

 巨人が貴方から活力を奪ったかのようだった。

 たまらず、貴方は膝をつく。

 巨人の口のない頭から、嘲笑が聞こえてくるようだった。

 そして、巨人が手を振り上げる。


 絶望。消えてしまう、忘れ去られてしまう、そんな思いが貴方の胸をしめつける。


 その時。落した本が開いた。ページが捲れ、その中から無数の黒い小さな影が飛び出してくる。

 蝙蝠の群れだった。次いで明るい、赤い光。光は周囲の不気味な赤黒さを貫いた。その中から、人影が飛び出してくる。


 人影は、少女だった。


 先程見た少女ではない。長い亜麻色の髪の、透き通るような肌の少女だった。白いレオタードのような衣装に、黒いショートブーツを履いている。街中で見たら何の撮影かと驚いてしまうような恰好だが、この不気味な空間の中では、ひどく似合っていた。


「その勇気は褒むべきかな」


 少女が笑った。薔薇のような、艶やかな微笑みだった。


「だが、蛮勇ではあるな」


 少女は飛び出した勢いのまま、巨人にその細く長い脚を叩き込んだ。

 貴方の拳には全く反応しなかった巨人が、よろめいた。

 少女が手を上げる。その先には幾つもの火の玉が巡っていた。


「我が闇に堕ちるがよい」


 少女が宣言し、その手を振る。

 火の玉が膨れ上がり、巨人を飲み込む。


 その光に耐えられず、貴方は目をつぶった──。

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