戦場の錬金術師

風宮 翠霞

第1話 ある少女

「らん、らん、ら、らん」


小さく、呟くようにその少女は唄い続ける。


誰に聞かせるでもなく、ただただ口を動かすだけを目的としたように、彼女は唄を紡ぎ続ける。


彼女の周りには青白い光を放つ陣が幾つも、形成されては消去されていく。


普通に使う魔術とは違う。


彼女にしか使えない魔術。


いや、これを魔術と呼んでもいいのだろうか。


魔術においての常識を覆すような。


目の前の光景はそれほど衝撃的なものだった。


うずたかく積まれた魔獣の亡骸の山の上に立つ彼女に、周りの兵は誰一人として近づけなかった。


その場にいる誰もが、ただ、黙って少女の様子を目に焼き付けていた。


数々の戦場を潜ってきた歴戦の軍人達が、その光景に見惚れて。


あるいは、ある種のおそれを抱いて。


ただただ立っていた。


雪で白く彩られていた筈の地面が、魔獣の血の色で赤く、赤く染まっている。


赤い、その光景の中で。


少女は、白と琥珀の色をしていた。


その少女は。


赤く染まった軍服と、血に濡れたナイフを片手に、ただ、静かに。


唄と、美しい術式を紡ぎ続ける。


その、戦場とは思えないほどに。


そう、いっそ美しいと言える光景に、兵士は口を震わせてその音を吐き出した。


尊敬と、畏怖の念を込めて。


「戦場の錬金術師アルケミスト……」




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