勇者になりたそうな奴がいるから、勇者を任せる所存

アキ AYAKA

第1話

 〇


「お前に勇者を決める権利を与えよう」

 

「それなら――」

「俺が指名するのは――」

「私は――」

「必要ありません」

 

 〇

 

 他クラスとの合同授業が始まった時、床が奇妙な形に光りはじめた。

 光は次第に強くなっていき、俺は咄嗟に目を覆った。

 

 ザワつきと手の陰から光が漏れていないことを確認して周囲を見ると、そこにはテンプレがあった。

 

 魔法陣のようなものが光る床に、同じ教室にいた同級生たち30人。俺達を囲むように時代が違う服装をしている周囲の人々。


「来たぞ!」


 周囲が騒ぐと豪奢な服の男性がこちらに近づいてきて、何が起こったのか話し始めた。

 勇者召喚というテンプレを行ったと言い、その理由もテンプレ通りで魔王の脅威が迫っているかららしい。

 詳しい話は翌日にして、今は急いで勇者を探したいと言った。


「ステータス」


 小声で言ってみるが、能力の確認ができたりはしないようだ。

 俺の考えるテンプレでは、名前と年齢、レベル、ステータスとスキルが表示されるはずなのだが、テンプレと違うようだ。

 実際にテンプレとは違う様で鑑定もないのだろう、勇者の探し方は独特だった。

 勇者になるには、初代勇者が神より与えられた剣を台座から引き抜く必要があるという。

 勇者の資格が無い者は、どれだけ頑張っても台座から抜けないらしい。

 今からそれを試しに行くのだが、気付けば列をなしてみんなが向かっていた。

 遅れて付いて行くと大きな広間に出る。

 広間は高所と低所に分かれており、高所には人の背丈を超える玉座がある。低所では大量の騎士たちが整列していた。

 わざわざ整列させる意味が分からず、威圧目的なのではと考えてしまう。

 玉座に座る者はおらず、30人で列をなして玉座の方に向かっていく。

 先頭を歩く豪奢な服の男性が、こちらを振り返った。


「玉座後ろにある台座に剣が刺さっています。今から1人ずつ抜けるか試してください」


 この並びで向かうのかと思いきや、尻込みしているのか誰も向かわない。

 最後尾から向かおうかと考えていると、1人進み出て行った。

 別のクラスのイケメンが玉座の後ろへ向かう。

 自信に満ちた顔つきのイケメンは玉座の後ろで剣を抜こうとしているようだが、玉座に隠れて全く見えない。

 しばらくして玉座の後ろから、首を傾げて出てきたイケメンの顔は不満げだ。


「あきら、ニヤニヤしてどうしたんだ?」

「イケメンの不満顔を見てるとな、自然と笑みが」

「性格わりぃな」


 召喚された中で唯一の友人、渡辺が話しかけてきた。

 俺よりも身長が高く、彫りの深い日本人離れしたルックスの男だ。

 コイツもイケメンではある。


「それに俺が勇者だったら、面白そうだろ?」

「それは安直な考えだと思うけどな。勇者になったら、ここにいる29人のまとめ役をしたりするだろうし」

「そうかもな」

「そういう奴がカリスマ性ない場合、悲惨だろうな」

「俺のワクワクが一瞬で消え去ったんだけど」


 無意識にしていたニヤニヤ顔が無くなったのだろう、渡辺はとても満足そうだ。

 イケメンが試して以降、誰も向かわないのを見た豪奢な服の男性は指名して試させていく。

 気付くと名前を記録をする人が、豪奢な服の男性の隣に控えていた。


「あきらは誰が勇者だと思う?」

「あのイケメンじゃなければ、生徒会長だと思うけどな」

「確かに、嶋野より可能性高いかもな」

「だろ?」


 話し合っていると、渡辺は指名された。

 残った俺はすることも無く、周囲の話を聞いていたが、これからの事を心配している人が多いようだ。

 周囲の騎士が現代では見慣れない武装をしていて、威圧的なのも不安を助長しているだろう。

 渡辺が終わり、次は俺が指名された。


「お名前を」

「坂堂晃(ばんどうあきら)です」

「玉座の後ろにある剣を抜けるか試してください」


 広間の高所に玉座があるため、10段くらいの階段を上がっていく。

 玉座後ろに行くと、玉座とほぼ隙間なく剣が突き立っていた。

 階段より上には豪奢な服を着た男性も、記録する人も上がってこない。

 誰にも見られない場所で、装飾の少ない剣の柄に触れた。

 重さも分からないため両手で握る。

 そのまま少し力を入れて引き抜こうとしてみると、動いたような気がした。


「ん?」


 少しずつ手を上げていくと、お腹くらいにあった両手がどんどん上がっていく。少しずつ腕が剣の重さを感じ始めた。

 まずい。

 渡辺の言葉が頭で何度も繰り返される。

 カリスマ性だとか、まとめ役とかそういう面倒な話が。


「無理そうであれば、次の人に変わってください」


 豪奢な服の男性の声が聞こえ、急ぎつつ丁寧に剣を戻す。

 剣が抜けたことを言うべきだと思うけど、勇者などという面倒で異常な責任を感じる役割はやりたくない。

 あと、周囲が期待した人じゃないというギャップに耐えられない。


「あきら、時間かけてたけど、どれだけ勇者になりたかったんだよ」

「想像以上に抜けなかったから、ムキになってた」


 渡辺から話しかけられたのだが、上手く笑えていないような気がしてならない。

 以降、誰一人として抜けなかったらしい。

 一度抜けてしまったから、後の人が抜くかと思ったが違うようで安心した。

 顔だけは平静を保っていたと思うが、バレるのではと焦っていて他の人がどうだったのか、覚えていない。

 気が付いたのは豪奢な服の男性、渡辺が言うには宰相が話し始めてからだった。


「勇者はいなかったようです」


 話を始めた宰相も納得できないような答えなのだろう。

 しばらく間をおいて、話を続けた。


「しかし、この召喚陣は大陸に伝わる唯一の神が授けたものなのですから、いないわけがありません」

「であれば、どういう事になるのでしょうか?」

 嶋野が誰よりも早く、宰相に問いかけた。

「現状はいないのでしょう。恐らくですが、勇者としての資質はある、まだ勇者ではない者が召喚されたのだと思います」

「全員にその資質があるという事でしょうか?」

「それは不明です。昔に召喚された勇者は多くの仲間を伴っていたと文献にはありましたから、勇者以外の者もいると思われます」


 宰相の言葉にイケメンは頷き、随分と安堵しているようだった。

 召喚した国も俺と一緒で、結果には満足していないだろうな。

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