02:行方知れずの例のアレ


「疾風こっわーい! 茜ちゃんもそう思わない?」


 那由は同意を求めて茜の顔を見上げたが、不思議そうにこてんと首を傾げた。


「茜ちゃん? 顔、赤くない?」

「そ、そんなことないよっ!?」


 否定するが赤いのは事実だ。こんな至近距離では誤魔化しようもなく、那由の反対側から今度は疾風も顔を覗き込んでくる。


「茜、どうした?」


 眉を顰めてはいるが、その表情は心配しているからだと今はわかる。ただ覗き込む距離があまりに近くて、それがなおさら頬を赤く染める熱を集める理由になった。あまりに恋する乙女を体現している自分の状況がこそばゆい。

 あ、とかう、とかまともに返答もできない茜に、同じく恋する乙女である那由がわかった!という顔で耳打ちをしてきた。


「茜ちゃん、疾風に呼び捨てにされるのまだ慣れてないんでしょ?」

「っ!」

「おい那由!」

「疾風にはないしょぉ」


 口喧嘩をする二人の間に挟まれて、真っ赤な顔を両手で覆って黙る。早く引けと思えば思うほど、意識すればするほどなかなか熱は引いてくれない。


「茜」

「……へ……?」

「お前、本当に大丈夫か?」


 優しい声で気遣いながら、顔を覆っていた手の片方を剥がしそっと頬に触れてくるのだからたまったものではない。触れられた部分にピリピリと微弱な電気が走って、背筋が震える。茜は心の中で白旗を揚げた。

 茹で上がって目を回しかけている茜の様子をじっと見つめていた那由は、わざとらしく「あ!」と手を叩いた。


「疾風、喉乾いた!」

「自分で取ってこい」

「人様の家の冷蔵庫勝手に漁るほど遠慮ない人間じゃありませーん」

「今さらなにを」

「いいからっ! 茜ちゃんもお茶のお代わり欲しいよね!?」


 喉は乾いていないが、疾風が離れてくれるなら今はなんでもよかった。

 こくこくと頷くと、嫌な顔をしながらも疾風は立ち上がる。同時に手も離れていき、茜は無意識に浅くなっていた呼吸を深く再開する。


「余分なこと言うなよ!」

「はいはぁい!」


 しっかりと釘をさす疾風を、那由がにっこり笑顔で送り出した。


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