森の魔女

橋倉 輝

第1章 「親子」

第1話

ここは魔法が溢れる世界。

ある1人のお嬢様は今日も部屋にこもり1人静かに本を読んでいた。

内容は魔法についての歴史や、研究についてだ。


コツコツと足音が聞こえてきた瞬間、素早く本を閉じ1人では広すぎるベットに入り頭まで隠れた。


ノックが2回なると人が入って来る気配がした。


「お嬢様ー?もうお昼過ぎてますよー。まだ寝てらっしゃるんですか?セダムお嬢様ー?」


セダムと呼ばれた少女は気配が近くまで来た時、勢いよく布団を剥がした。


「きゃっ!お嬢様!?」


驚いたメイドは手に持っていた手紙を床に落としてしまう。


「ヘラ、今日は遅かったね!」


「今日は奥様の準備に時間がかかってしまい。」


「そう。」


セダムはにこにこしながら落ちた手紙を拾い、封を切ると中身を取りだし読み始めた。


「…」


「なんと書いてありました?」


「…リッシュベル伯爵のご子息とお茶をしろと、父様からの命令。」


「リッシュベル伯爵のご子息って…確か今年で30じゃありませんでした!?それに、確か既に4回ほど結婚なさってますよね、そのうち3人は不可解な死を…」


貴族の未婚の男と女が2人きりでお茶をするのは、お見合いのような意味がある。

特に女は政治結婚に使われやすいため、年の差もかなりある場合がある。


「父様はよっぽど早く私をこの家から追い出したいようね。」


「そんな…いくらなんでもお嬢様はまだ8歳なのに…」


セダムは手紙を丸めると炎を魔法で出して燃やした。


「手紙でこんな大事な話をなさるとは、よっぽど会いたくないようね、父様は。」


「公爵様はきっとこの時期お仕事がお忙しいのですよ。」


「そうよね。」


セダムは悲しそうに窓の外に見えるテラスを見た。


そこには楽しそうにお茶を飲んでいる父親と、義母の姿があった。



セダムは帝国一の魔法騎士、グレシェント公爵家の長女だった。


父親はリハルト・グレシェント。

王室専属の騎士で現皇帝の幼なじみでもあり、皇帝のいとこのアメリアの結婚相手だった。故に、皇帝との絆は何よりも固く、戦争が起これば3人は息のあった連携で敵を倒してきた。


セダムが産まれるまでは。


セダムを産んでからアメリアは日に日に体調を崩し始め、とうとう不治の病にかかってしまった。


リハルトは終わらない戦争の前線に立ち、家に帰ればアメリアの病を治す方法を探すため自室に籠ってしまうようになった。


そんな中でもアメリアは少しでも思い出を多く残そうと、セダムとよく庭で遊んでいた。


セダムが3歳の頃、アメリアと遊んでいたセダムは母の元へ駆け寄った時、1人の女が背中を押すのを見た。


池に咲く花を見ていたアメリアはそのまま池に落ちてしまい、すぐに救出されたが既に息は止まっていた。


アメリアが池に落ちたことを聞いたリハルトは、すぐに駆けつけてきた。

そんな父の胸に飛び込もうとセダムが泣きながら両手を広げ駆け寄った時、リハルトの罵声が響いた。


「この、クソガキめ!!!お前のせいで!!お前のせいで!!」


「とう、さま、、?」


リハルトの手をつかもうとした時、その手は勢いよく払われ、セダムは倒れた。


母を泣きながら抱きしめるリハルトの目は、まるで悪魔を見るかのような目をしていた。


セダムは怖くなりその場で泣いた。


そんなセダムをリハルトはただただ嫌悪感で溢れた目を向けているだけだった。




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