第33話 王都帰還
翌朝、ご機嫌な様子で御者をするレインと、その隣に座るドモン。
馬車の中ではセツナが処理を終えたスナッピングビッグタートルの甲羅を色々な角度で眺めニヤけていた。
ヒイロはガロードと一緒に馬車の屋根の上に座り風に当たりながらのんびりとしている。
勿論ガロードは、さり気なく辺りを見渡し、見張りも兼ねているが、特に危険な気配は感じない。なんとも長閑で平和に王都へと向かっていた。
「まさか、レイン
「まぁ、女性に美や健康は
「えっ!目の色が変わるんですか?」
「例えだ、例え。しかし獣人は興奮すると物理的に変わる種族もいるがな」
「へぇ~~~」
ガロードが例えで言ったことに、思わず驚いて聞き返すヒイロ。本当に物理的に変わる種族もいるらしいが、それとは関係なく、基本目が血走り赤みを帯びる女性は多い。
「しかし、甲羅も薬の材料になるとはな。今までは防具の素材として重宝していたのが、この事を知れば価値が上がり使っている冒険者達も売りに出すだろうさ」
「でも、ちゃんと処理しないと効能はでないですよ」
「それでも金に変えて装備を新調する奴らはでてくるだろうさ」
「あ、そういえば血が薬の材料なるって先生が言ってたけど…… 」
「主に精力剤だな。レッドバイパーの生分とオークの睾丸と一緒に生血を製薬すると効果が凄くて高値で売れるらしいぞ。親父の部屋にもあった」
「貴族も大変なんですね」
「俺には関係ないし、必要ないがな。それに元貴族だ」
「師匠は相手がいないですもんね~」
「そうなんだよなぁ~ドモン兄やレイン姐を観ていると俺も、と思うことは多くなったが、何分相手が…… ってヒイロも言うようになったじゃねぇか!」
「いたい、いたい、いたい」
「ヒイロ、お前はどうなんだ?気になる子でも出来たか?」
「いませんよ。お客だってほとんど商人や冒険者だし、僕も出会いがほしいなぁ」
「なんだ、俺と変わらないじゃねぇかよ」
と、なんとも平和な会話をしながら馬車は揺られ進んでいった。
◆
国境で護衛のクロスロード達と別れ数日が過ぎると、見慣れた建物が見えてくる。
「先生、なんか王都がひさしぶりな気がします。やっとわが家に帰ってきたんですね」
「そうですね。でもこれから少し忙しいですよ。ほら、御覧なさい」
御者を教わりながら進んでいたヒイロが話しかけると、正面に見える門外を指さして答えるセツナ。
そこには、兵士と思われる集団が整列して待っている。近づくにつれ徐々にその全貌がわかってきた。
金で装飾された白いフルプレートアーマーを身に纏い統一された装備。しかし持っている武器はそれぞれ違い、剣を二本腰に差す者もいれば大斧を担いでいる者、弓に槍にと様々だ。
そして集団の前にはよく知る顔と、その隣には、より高級そうなローブを纏った女性が立っていた。
(王国や他国、貴族や商人への対外的な威圧にもなるでしょうが、やりすぎですね。恐らくあの方が言い出したのでしょうけど、兄も可哀想に…… )
セツナは一人心の中で兄のティエリアに同情していた。
そして目前まで馬車が近づくにと、ティエリアが一人先に馬車へと歩み寄り、ヒイロへと話しかける。
「おかえり、ヒイロ。是非貴方に会いたいというお方がいらしてまして、あちらの馬車へと乗り換えて貰えるか?」
「えっと…… 」
ティエリアの突然の要望にどうすればいいか分からなくなるヒイロは、こっそりセツナに目配せするも何も答えなてくれない。そしてため息を吐いた後、ヒイロとティエリアをみてこう言った。
「まずは御両親に聞くべきですね」
「そうですね」
(!)
そう先ずは本人の了承だが、勿論保護者二人の同意も必要である。セツナも身内みたいなものではあるが、そこはちゃんと優先順位を間違えることはなかった。
両親と聞いて、顔には出さないが内心驚くティエリア。まさかそこまで話が進んでいるとは思いもしていなかったのだ。教会関係者の養子として迎える予定が変わってしまったが、そこはセツナのほうが先を読み正しい家族の形にしていたのだ。
「ドモン
「おお、ついたかのう。うん?ティエリア殿?」
「意外と速かったわね。あら?ティエリア様?」
幌からのんびりと顔を出して二人に話しかけるドモンとレイン。
そんな裏事情を知らず、目の前の光景に驚く二人。
ガロードは、兵士らしき集団を視認した時から、念の為にと後方の警戒にあたっていた。
「なんか、あっちの馬車に移動して欲しいみたいなんだけど…… 」
「出来ればヒイロ一人でお願いしたい。勿論安全は私が責任を持って保証する」
「ふむ…… まぁいいじゃろ」
「問題ないわよ。いってらっしゃいなヒイロ」
「うん……わかった…… 」
「感謝する」
二人の了承を貰い、御者台から飛び降りティエリアの後についていくヒイロ。すると一人の人物の前でティエリアが跪いた。
それを見て慌てて自分もとヒイロが跪こうとすると、
「よいよい、ヒイロとやら。此度は新たな発明大儀であった。それでのう、妾はお主の話を詳しく聞きたいのじゃ。長旅で疲れている所悪いがしばし付き合ってもらえるかのう?」
「はい……えっと……どちら様ですか?」
「ふむ、妾は女神教の教主を務めるマリアという。覚えておいてくれると嬉しいのう」
「女神教の教主様ですか?」
「うむ、そう固くならんで良い。気軽にマリアと呼んでくれて良いのだぞ。早速馬車の中で話を聞こうかのう」
「わかりました。マリア様…… 」
何故かヒイロの頭の中では、前世で聞いた子牛が連れて行かれる童謡が流れ始めた。
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