第25話 お出かけ


 話し終えた後、早速作業に取り掛かる二人。ドモンの教えを元に、色々なアイデアが加わった新たな図面をヒイロが引き直した。


「これでどうかな?」


「どれどれ、おお、いいんじゃないか?」


「やったぁ。じゃ、早速作業に取り掛かるね」


「わしも額縁フレーム制作に取り掛かるかのう」


 ヒイロは、火の魔石をひたすら砕き粉にする所からはじめ、ドモンは金の延べ棒を数本、炉へと入れ熱し始める。


「なら、私は少し寝るわね。ガロード、二人をよろしく」


「うっす、おやすみレイン姐」


 夢中に作業を始めた二人をガロードに頼んで、レインは用意されている寝室へと向かい、数時間の睡眠を取り終わると、魔法袋の中身を確認した。


「ふぁ~ う~ん、もう朝ね。えっと、食材はあるけど料理する時間はないから、情報収集を兼ねて街に出来合い料理の買い出しに行こうかしら。丁度いちも開催されてるでしょうし」


 今後の予定と二人の栄養バランスを考え、レインは一人街の朝市へと買い出しに出かけようとすると、後ろからよく知るエルフに呼び止められる。


「レイン、どちらへ?」


「あら、おはようセツナ。ブルーダさんの早朝訓練の帰りかしら?」


「はい、今終わったところです」


「お疲れ様。それで、えっと、貴方は案内してくれた騎士様かしら?」


 レインはセツナと挨拶を交わした後、隣に立つ騎士へと声をかけた。


「はい、申し遅れました。大長老の護衛騎士団団長のクロスロードと申します」


「丁寧なご挨拶ありがとう御座います」


「私にそのような対応は無用です。気軽にクロスと呼び捨てでお願いします。皆様は賓客なのてすから」


「なるほど、わかったわ。よろしくねクロスさん」


「よろしくお願いします。それでレイン様はどちらへ?」


「朝市に買い出しに行こうかなと」


「いいですね、私も同行してもよろしいですか?」


「別に構わないわよ」


「なら、お二人のため馬車をご用意してまいります」


「クロスさん、ありがとう。でもその格好は目立つわね…… 」


「そうですね。クロス、私服に着替えてきなさい。それと馬車は普通の地味な物を」


「はい、かしこまりましたセツナ様」


 クロスは返事をすると、足早に御殿の入口へと向かった。二人だけとなり、レインがセツナにこっそりと耳打ちをする。


「セツナ、彼の対応はいったいどういう事?」


「ああ、大長老を鍛えていたら何故か彼に懐かれましてね。一緒に訓練させることにしました。誰かと一緒のほうが訓練も捗りますしね。言うなればガロードやヒイロの弟弟子でしょうか」


「ああ、そういうことね。ならブリーダさんも」


「あっ、そうなりますね」


「もう、関係性が目茶苦茶ね…… 」


「そうですけど、仲間の一言でいいのでは?」


「ふ~ん、そういうとこはアバウトなのね」


「……………… 」


 セツナが認めた者は種族性別問わず、等しく仲間なのだ。しかし、その仲間と認められる者達は極僅か。彼の評価基準が高く、かなり狭き門をくぐり抜けた者達しか認めない。

 その表現の乏しさをからかうレイン。すると珍しく苦虫を噛み潰したような顔をするセツナだった。

 そして御殿の中央通路を進み入口へと出ると、


「お待たせしましたぁ~どうぞこの馬車にお乗りくださ~い」


 そこには、立派で巨大な一角馬ユニコーンが繋がれたボロボロな馬車が横付けされ、御者台からはクロスが元気よくこちらに向かって手を振り声をかけてくる。そして私服なのだろうかと、思わず疑ってしまうクロスの服装。よく言えば前衛芸術、悪く言えば悪趣味な派手な色使いな道化師のような服装だった。


「変ね…… 」


「そうですね…… 」


「でも、褒めてほしそうよ」


「いや、それは流石に…… 」


「感謝するけど、流石に馬と馬車との釣り合いが…… 」


「ええ、それにクロスの私服の趣味もどうかと…… 」


 クロスに聞かれないようにコソコソと話しながら馬車へと近づく二人。よく見ると繋がれている一角馬ユニコーンはとても不機嫌そうに見える。


「お二人共、出発致しますよ」


「「え、ええ…… 今行くわ(行きます)」」


(後で我慢のご褒美に黒糖でもあげようかしら)


(後で我慢のお礼に【浄化】を【回復】をかけてあげましょう)


 一角馬ユニコーンへの感謝とフォローを考えながら荷台へと乗車する二人だった。



 街の朝市近くへと送ってもらうが、流石にそのままま進めば邪魔になると説得し、クロスには少し離れた場所で番をしながら待っていてもらうことにした。


「なんで褒めなかったのよ!」


「注意は出来ても、流石に私でも褒められませんよ」


「セツナでも無理だと?」


「はい、私でも出来ないことがあると久々に痛感しました…… 」


「まぁ、この件は忘れましょう」


「そうでもね、でも帰りもあの馬車ですよ」


「それは諦めてるわ…… 」


「そうですね。流石に善意ですから断りづらいですし、御殿とも距離がありますし…… 」


「話は変わるけど、あの二人は釈放されそう?」


「ええ、明日の昼頃には」


「なら、夜にでも接触してきそうね」


「ええ、恐らく。私も一緒に行きましょうか?」


「いいわよ、セツナまで来たら街に被害が出るかもしれないから。私がこっそりと対応するわよ、リハビリも兼ねて」


「油断大敵ですよ。まだ何処の手の者かもわかりませんから。二人より接触してくる方の素性さえわかれば無理して捉えなくても結構ですからね」


「はいはい、あっ、なら念の為ガロードを連れて行くわ。セツナは訓練もあるから二人の護衛で交代して」


「そうですか…… せっかく色々と試せると思ったのですけど…… 」


「刺客を実験に使おうとしないでよ。捉えるんでしょ?」


 なんとも物騒な話をしながら朝市で色々な料理を買い込んでいく二人だった。

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