第23話 片眼鏡


 翌朝、日の出と共に寝ている大長老のブルーダを起こすメイド長の獣人。


「大長老、おはようございます。ヒイロ様がお呼びです」


 鑑定スキルの情報で、ブルーダに合った物を作れたはずだが、ヒイロは一応調整と確認の為にとブルーダを呼び出した。


「ふぁ~~~、おはよう…… 直ぐ…… 行く…… 」


 朝早くに起こされ、頭が働かないブルーダ。しかし義眼の為にと目を覚まし、急ぎ昨日の工房部屋へと足を運んだ。中に入り一同と朝の挨拶を交わした後、


「どうぞ、先ずは左目用の片眼鏡モノクルが完成したので試してください」


 完成した片眼鏡をヒイロから渡された。昨夜の今朝だ。その製作工程の速さに驚きの声を上げる。


「まさか一晩でか?」


「そうじゃ、わしとヒイロの合作じゃ」


 自慢気に言うドモン。


「なるほど、分業か」


 その速さの理由が解り納得したがそれでも完成には早すぎる。しかし今はそれどころではない。早速渡された片眼鏡を左目につけて辺りを見渡すと、その性能にブルーダは歓喜の声を上げた。


「おお、よく見える。はっきりっと見えるぞ。凄い、凄いな!」


透鏡レンズの調整は必要なさそうですね。あっ、それをつけて鍛冶をするのは禁止ですから」


「お、おう…… しかし、どうしてもだめか?」


 喜んでもらえたようでホッとするヒイロ。そして注意点も伝えると、ブルーダからは渋った返事が返ってくる。


「本当に駄目ですからね。それは他の仕事や日常生活の為に先に作ったんですから」


「ブルーダ、ヒイロの言うことを聞き入れてくれなければ、義眼が完成したとて渡せんぞ」


「わ、わかった…… 約束する」


 ヒイロと共にドモンも念を押して伝えると、流石に諦めたようだ。内心今すぐ鎚を握りたかったのだろう。しかしここで我慢しないと義眼は手に入らない。

 仕方がないと諦め言うことをきくようだ。


 受け渡しが終わるとセツナが口を開いた。


「それでは大長老。朝の実務の時間まで水魔法の修練をしましょうか」


「よろしく頼む」


「ではレイン、後のことはよろしくお願いします」


「はいはい、いってらっしゃい」


 セツナの言葉に頭を下げるブルーダ。その後二人揃って部屋を出ていった。


 仕事の合間にセツナはブルーダへ水魔法を教えることになったのだが、部下達と相談した結果、起床後と就寝前の時間しか取れないと申し訳無さそうに言われた。

 しかし朝に教え、それを夜に確認すれば問題はない、後は本人のやる気と努力しだいだ。と、いい快諾したセツナ。

 恐らくブルーダの本気度合いを試すことも含まれているのだろう。


 二人が去った後、レインは魔法袋から食事を取り出しテーブルに並べ始める。


「ほら、二人共食事を取ってちゃんと寝なさい」


「おう…… 」

「はい…… 」


 ヒイロとドモンは夢中になり、徹夜で片眼鏡を仕上げてしまった。職人らしいと言えばらしいのだが…… 

 しかし、ここで最強の女性からストップが入った。このまま作業を続けさせないよう、強制的に食事と睡眠を取らせるらしい。


 さすがに夢中で作業をしている二人を途中で止めには入らないが、作業が終わると食事を取らせ休ませる流れは、ドレン工房でも度々あったことだ。

 ここで彼女への返事を間違うと、しばらく作業が出来なくなることを知っている二人は大人しく従った。


 食事を終えたヒイロとドモンを寝かしつけた後、レインは起きているガロードとお茶をしながら話し合っていた。


「こうやってレイン姐と二人で話すなんて久々だな」


「そうね、久しぶりね」


「それでどうだったんだ?」


「あの乱入者二人は明日にでも解放されるみたいよ。でも心配は無いようね」


「そうなのか?」


「ええ、問題はドワーフより一緒にいた猿族の獣人の方みたい。たぶんなにか騒ぎを起こすかもってセツナが言ってたわ」


「そうか、師匠が…… しかし面倒臭ぇな」


「本当よね」


「でも珍しいな。獣人国から出たがらない猿族がドワーフ国にいるなんて」


「そうね。調べた結果を簡単に説明すると、祖国で色々と不正をやり過ぎてバレたから国を追われたみたいよ。それで隣国のドワーフ国に来てあのドワーフに取り入ったみたい。でも上手く行かないようよ」


「所詮、猿知恵か…… 」


「あら、うまいこと言うわね」


「しかし、心配ないと言っても警戒は怠らないぞ。他の刺客の兼もあるからな」


「恐らく猿族の彼が解放されたら接触するでしょうとセツナが言ってたわ」


「マジか!どうするんだ?」


「えっ、丁度いいから纏めて潰すけど?」


「……………… 」


 なんてこと無く軽く言うレインの言葉に、無言になるガロード。彼はわかっていた。彼女がとても怒っている事に。そして出来ない事は言わない人だということも。


「だから二人の護衛は任せるわ。頼むわねガロード」


「はい!お気をつけてレイン姐さん」


 レインの雰囲気にのまれ、思わず立ち上がりビシッと足を揃え返事をしたガロード。自分も一緒に行って暴れたかったが、今それを言える雰囲気ではなかった。


 そんなガロードの行動を無視して、優雅にお茶を飲みながらレインは頭の中で確認していく。


(獣人国へは冒険者ギルドにお願いして手紙は送ったし、ドワーフ国の重鎮達にも話は通したから問題ないわね。後はセツナの予想通りなら、解放されて直ぐに接触があるでしょうから、そこで纏めて叩けば問題ないはず。私の義息子むすこに手を出そうだなんて万死に値するのに殺さず捕らえてくれって面倒よねぇ~~~ )


 






 

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