第48話 幕間6(古森蓮 その2)
最近、探索者サークルに入会する人が多くなっている。
これまで見向きもしなかった人達の入会に戸惑っているが、それも仕方ない事だろう。
改正探索者法。または探索者優遇法。
これまでの探索者法が改善され、一定の成果を上げた者への税金の優遇措置。探索者への特殊刑事罰の廃止。これまではスポーツ競技への参加を法律で禁止されていたが、それも廃止され、今後は各スポーツ業界に参加可能となる。
他にも改正による影響はあり、国が国民に探索者をやるよう促している法にしか見えなくなっていた。
そして、これらは既存の業界に影響があると共に、日本がダンジョンに依存していくのではと多くの人が危機感を募らせていた。
人の流出、市場の破壊。
そこまではいかなくてもその影響は少なからずあり、順応出来なかった企業からは人が離れる恐れさえある。
だが、これらは結局のところ企業の話で、個人のレベルでは話が変わって来る。
まだ法の施行までに時間が掛かるが、ほぼ確定したような状況なのだ。おかげで、多くの人が法の恩恵にあずかろうと、探索者を目指してギルドに殺到していた。
片道5.6時間だが、連日この調子なので正直うんざりしていた。
いつもならギルド側に指導員を手配してもらって、10階ボスモンスターを倒し、スキルを得てもらうのだが、ギルドも人手が足りないらしく古森にも指導員の依頼が来たのだ。
それは蓮だけでなく、20階を突破しているサークルの仲間達も同様だった。
「お疲れ、速水さん今帰り?」
「お疲れさま。うん、今終わったところ」
ダンジョンを出たところで、同じパーティメンバーの速水と一緒になる。
ここ最近は、指導員の依頼を強制されているせいで、自分達の探索を進められていない。
仕方ないとはいえ、自分達の探索が出来ないのは歯痒いものがある。
「どう、飲みいかない?」
「速水さんは二十歳なってないんじゃ…」
ジョッキを傾ける仕草をしながら、古森を居酒屋に誘う。
気が強そうな美女だが、気を許した仲間には親しく接しており、自然と距離も近くなっている。
古森はそんな速水を好きだった過去はあるが、この一年をダンジョンで共に過ごす内に恋愛感情は無くなり、心から信頼出来る仲間となっていた。
「大丈夫よ、飲まないから。 美桜達が探索終わって近くの居酒屋にいるんだって、一緒に行かない?」
「美桜って、葉月さんのことだよね? 俺が行っていいの?」
大和撫子。正にその言葉が合う女性であり、性格も芯が通っており人を惹きつける強さがある。勿論、そんな美女なので学内でも人気はあり、根暗な自分が近付いていいのかと腰が引けていた。
「大丈夫よ、他にもいるみたいだから。ほら、早く行きましょうよ」
速水は弱気な古森の手を取って居酒屋に向かう。
ダンジョンでは頼り甲斐のある古森だが、地上に戻ると途端にヘタレになってしまう。そんなギャップも良いなと速水は思っていたりする。
居酒屋に到着すると、そこには四人の男女が食事をしていた。
その内一人はビールが進んでいるのか、顔を赤らめているが、他の三人はシラフである。
「美桜、貴女ビール飲んでるの?」
「あ、咲ぃ〜。これが飲まないでやってられますかってんのよ〜」
既に酒に溺れているのは、大和撫子の美女である葉月美桜だった。
速水は何があったのかと他の三人に視線を向けるが、困った顔をして返答する。
「ダンジョンでちょっとあってな」
そう答えたのが、黒髪イケメンである
「指導員がキツくてさ、結構言われたんだよ」
同情しているのは、金髪イケメンの
女性との恋愛経験は無いのだが、リア充感を出し過ぎて彼女が出来ないのが悩みのタネである。
「歳下なのに、容赦なかったよね〜」
にゃははと笑う明るい少女は、このメンバーの中では幼く見え、人懐っこそうな雰囲気を出している。
「美桜も落ち着きなよ、咲ちゃんも来たしさ」
ぽんと頭に手を置いて、潰れそうな葉月を止める。
「……無理よ。モンスターだから気にならないって聞いてたけど、あんなに怯えた姿見せられたら倒せないわよ。 てかダイコって誰よ!?」
「あーね、アレはきつかったねー。 私もムーコって言われたなー」
居酒屋で先に飲んでいた四人が思い浮かべるのは、戦意を失った二体のゴブリンの姿。武器を失い、抵抗する術を切り取られ、虚しく地面に倒れ込んだゴブリン達の姿だ。
倒さなくては前に進めないのも分かってはいるが、瀕死の状態まで追い詰められたゴブリンを痛めつけるのは、いくらモンスターでも心が痛んだ。
「ゴブリンの話? 人型だからね。私も最初は気持ち悪くなっちゃったな。 あっ烏龍茶一つ、古森君は?」
「俺はビ…烏龍茶で」
古森は先月二十歳を迎えている。
そこで、サークルの先輩と酒は酌み交わしており、それなりに飲める口だった。
だからビールを頼もうと思ったのだが、お前だけ飲むのかみたいな圧力を感じたので烏龍茶にしておいた。
「俺さ、正直言って探索者バカにしてたのよ。でもさ、今回の探索で考え直したわ」
話題を変えようと思ったのか、天照が古森の方を見て感心した様子で見ていた。
「どうしたのいきなり?」
「いやさ、俺や大和って幼い頃から武道やってたからさ、ダンジョンなんて楽勝って思ってたんだ。 でもさ、いざボスモンスターを前にすると何も出来なかった。もし指導員がいなかったら、俺たちはここにいないんじゃないかって思うんだよ」
「うん、その為の指導員だから気にしなくて良いと思うよ。報酬も貰ってるし」
「そうじゃないんだって。単純に凄いなって尊敬したんだよ」
「うーん、そんなものかな?」
何に尊敬したのか古森には分からなかった。
確かに10階ボスモンスターは厄介ではあるが、武道の経験があるなら、魔法に注意するだけで大した事はない。
古森でも倒せたのだ。
この四人なら指導員がいなくても、突破出来たのではないかと思ってしまう。
「あっ? その腕輪って宝箱で手に入れたの?」
御剣のコップを持つ手に、時計とは別の装飾品が付けられていた。微かに魔力を感じて尋ねたのだが、どうやら当たっていたようだ。
「ああ、運が良かった。宝箱なんて滅多に無いらしいからな、10階で四つも手に入れたのは奇跡じゃないかと思うよ」
「四つ?」
10階のボスモンスターを倒した時、稀に宝箱が現れる事がある。古森も指導員をしている間に、二度ほど見ている。
中身は初心者用の武器が多く、装飾品のような物は無かった。それに四つも出現するなんて聞いた事もない。
「御剣君、それ本当なの?」
速水が話に加わる。
探索者をしているからこそ、一度に四つも宝箱が出るのは異常な事だと理解出来るのだ。
「本当だよ。私達も持ってるし」
御剣の話に同意した花坂は、自身が手に入れた首飾りを取り出して見せた。
それは残りの二人も同じで、各々が持つ戦利品を掲げて見せてくれる。
「はー、そんな事あるんだな。俺達でも宝箱から装飾品なんて出たこと無いよ」
「そうよね、やっぱり持ってる人は持ってるのね。それで効果は調べてもらったの?」
「いや、十万円は高過ぎて診てもらってない」
「あーね」
そんな会話を続けていると、飲み物が届けられる。
改めて乾杯をして、段々と盛り上がっていく。
ダンジョンでの話は終わり、別の話題に変わるが古森も普通に話せていた。
美男美女の中で気後れするかと思っていたが、案外話せるものだなと自分で驚いている。
それはダンジョンで鍛えられたというのもあるが、サークルを通じて多くの人と接する機会が増え、コミュニケーション能力が身に付いたおかげである。
「そういや、ダンジョンで撮影した映像ってどうするんだ?」
時間が過ぎてもう終わろうかと思っていたところ、天照が何気なく聞いて来た。
「サークルで確認する。殆どデータは消すと思うけど、宝箱が四つも出たなら資料として残しそうだな」
「そうなのか。良かったら映像データくれない?」
「大丈夫だと思う。先輩が映像確認するだろうから言っておくよ」
「助かる!」
満面の笑みで喜ぶ天照を見て、余程いい経験だったのだろうなと予想する。
動画サイトに投稿するのは止めとけよと忠告しようと考えたが、それを言うのはデータを渡す時でも良いだろう。
最後に葉月が潰れた事で、この場はお開きとなった。
後日、映像を確認した先輩に呼び出されてひと騒動起こり、更にスキル発表で一波乱巻き起こるが、それはまた別の話である。
ーーー
御剣大和(20)(純イケ)
レベル 3
《スキル》
アイテムボックス
《装備》
生命の腕輪 簒奪の剣
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天照翔(19)(金イケ)
レベル 3
《スキル》
俊敏
《装備》
韋駄天の腕輪
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葉月美桜(20)(ダイコ)
レベル 3
《スキル》
治癒魔法
《装備》
増魔の指輪
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花坂麻由里(19)(ムーコ)
レベル 3
《スキル》
木属性魔法
《装備》
遠見の首飾り 反響の杖
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