第61話 脚注➂崇徳の怨霊伝説

崇徳の怨霊伝説にしても当時と後代の人々が造り上げたプロフィールとも取られ、彼が舌を噛み切って血書を認めたとかはまったくのデマであるとする説が未だに根強くあります。拙くはありますが歌人としての作者の目からしても、崇徳上皇の御歌を拝見するにつけて、上皇の穏やかなお人柄を感得するばかりです。怨霊などとはこれも後代の忠臣蔵同様、さもあれかしという人々の恣意が働いた結果というのがむしろ事実なのではないでしょうか?怨霊などとおどろおどろしくあるのはむしろ、皇位とつらなる権力と富をめぐって、廻りにいる輩(うから)どもが為した行為ゆえであり、その罪の意識が崇徳をそうあらしめたのでしょう。崇徳、後白河、引いてはこの物語の主人公である待賢門院(の過去世を持つ藤原亜希子…いや、正確に云えば亜希子のみではなく、亜希子始め彼らの‘関わり’というのが作者の主意なのだ。六道輪廻に翻弄される人々の、しかし三世を掛けたそこからの離脱、ということを私は描きたい分けです)ともども、心ならずもそのような史実とされるカナールに則って描いてはいますが、それは飽くまでもクワンティエンの追求に於いてそれを「お借りした」というのが私における事実なのです。作者の良心として歴史上の方々にこれをお断り申し上げたい次第です。ただ例え崇徳上皇が怨霊などとは無縁のお人柄だったとしても、当時も、後世に於いても、このように誤解されて祭り上げられ続けるならば、さぞや心穏やかならず、なのではないでしょうか。

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