パラレル・ワールド ~嗚呼、なんてロジカルな魔法の世界!~

初美陽一@10月18日に書籍発売です

第1話 近未来の天才科学者、魔法の存在するファンタジー世界へ飛んでしまう。

「フムフム、これは何とも、困ったモノだ」


 私は自他共に認める天才科学者、ルーク=アロイス。

 歴史に名を残してしかるべき男だが、そんな私でも失敗は付き物だ。


 さて結論から述べると、時を自在に行き来するタイムマシンを発明しようとしたものの、失敗してしまった。まあ失敗は成功の母と言うし、発明などはトライ・アンド・エラーの繰り返しが基本なので、失敗それである。


 ただ問題は、今まさに誤作動で起動してしまった、このマシンが。



 ――どうやらを実現してしまったらしい――



 まあ本来、想定していた機能とは違うが、これはこれで大発明であろう。

 ということは、だ。


「フムフム、つまり―――私はやはり天才、ということだな!」


 間違いない。


 まあそういう訳で、発明品の機能の齟齬そごなども、些細な問題なのだが。

 さすがに少しばかり見過ごしがたい、最も大きな問題が、目の前に。


「……あ、あ……あなたは一体、何者なのですか!? 一体、どこから現れて……その大きなのようなものは、何なのです!?」


 軽装のドレスと鎧が組み合わさったような衣装をまとう、月を溶かして染め上げたかの如き金色の長髪がうるわしい、高貴な容貌の美女がこちらへ向けて叫んでいる。

 手にはレイピアらしき細剣さいけんを持っているが、震えているようだ。


 それにしても〝馬車〟ときたか、その言葉だけで文明レベルに差がありそうだと読み取れる。銃でなく剣を持つことから、よもやタイムスリップに成功したのでは、と勘違いしそうにもなるが。


 ……どうもそれどころではなく、もはや〝別世界〟に来てしまったのだと、認めざるを得ない光景が一つ。見るからに深い森林の真っ只中で、佇む異形は。


『……オオ、オ……』

『姫ヲ……連レ去ル……』

『魔王様ノ……メイノママ……』


 なんか、のだ。

 骨が動いてしまったら、もうどうしようもない。アレがなんか巨大な怪物とかなら、まだ着ぐるみか機械人形ロボットなんかを疑えるが、骨が動いたらもうどうしようもないのだよ。


 それにしても、あの骨の兵隊らしきもの、筋肉すらないのにどうやって動いているのだろう。スッカスカだ。関節さえ継ぎ目が丸出しだ。そのくせ二足歩行し、それぞれ兜や鎧、槍なんかも持っている。どうやって重量を支えているのだ。意味が分からない。謝ってほしい。


「フムフム、これは、なるほど―――ええい、全くロジカルではないな!」


 そんな風に私がイライラしていると、なんか変な骨から〝姫〟と呼ばれた美女が、焦燥しょうそうの声を上げていた。


「前方にはスケルトン兵の小隊、後方には何やら〝フムフム〟言っている変な人……わたくしは、罠にかかったという訳ですねっ……ええい、卑怯な! しかしわたくしは、屈しません! 虜囚りょしゅうはずかしめを受けるくらいなら……クッ、殺せぇー!」


(フムフム、変な人とは私のコトだろうか。この大天才に向かって失敬な。スルーしたいな。このまま帰ろうかな)


 さて、この――恐らく並行世界と思しき場所へ飛んでしまったのも、そもそも突発的な事故なので、速攻の帰還もやぶさかではない、のだが。

 その選択を取りにくい、3つの理由が存在する。


1.〝並行世界〟への転移に必要なエネルギー残量が、良くてあと一回、あるいは足りない可能性。


2.並行世界とは〝無数に存在する〟もの。世界ごとの存在位置を座標と定義して、〝元いた自分の世界の座標〟を寸分たがわず導き出せるものだろうか。


 ……そして最後の、は。


『カタカタカタ……姫、連レ去ル……』

『姫ヨ……抵抗、スルナ……』

『コノ、クッコロサン、メ……』


「くっ、ち、近寄らないでくださいっ……ひと思いに、くっ、殺せぇー!」


 なんか変な骨――スケルトンの兵隊、とかいう連中の魔の手が、姫に迫り。


 やれやれ、と私は嘆息たんそくしつつ――ドーム状のハッチを開き、両手に光線銃を持ち、マシンのふちを踏みつけながら叫んだ。


「フム、全くロジカルではないが――個人的な理由に基づき、加勢する! 我が発明の一つを喰らえ! すなわち、ビームである」


『エッ、誰ッスカ、急ニ……怖ッ……』

『ビームッテ、ナニサ……意味ワカラン……』

『勘弁シテクダサイヨ……コッチモ、仕事ナノニ……』


『『『ギャーーーーーッ……』』』


 何やら変な骨が文句を言っていた気はするが、耳を傾けることにロジカルを特に感じなかったので、容赦なく撃ち込む。銃口から雷光の如く迸った一閃が、骨を一瞬でほうむった。結果的に死体の後処理になったような気がする。フム、ロジカルだ。


 そうして後に残ったのは、腰を抜かしたのか、へたり込んで目を白黒させている姫のみ。


「……ふえっ……えっ、えっ……まさか、わたくし……助けられて……?」


 さて。……私が今の行動を取ることになった第3の理由だが、それ即ち。



3.襲われていた姫の見目みめが、元の世界にいる愛する妻と、だった。



 ということである―――妻と別人とはいえ、妻と瓜二つなそっくりさんの危機を無視して、私は愛する妻と顔を合わせることなど出来はしない。

 ロジカルではないだろうか、いいや、ロジカルである。おかげさまでマシンのエネルギー残量は完全に尽きたが、悔いはない。


〝うんうん〟と納得している私に、姫が恐る恐る、しかして気品ある所作しょさまじえて声をかけてきた。


「あ、あのっ……あなたは今、わたくしを助けてくださった、のですよね? 危機をお救い頂き、感謝いたします!

 わたくしはの第一王女、エメリナ=マジカリア――」


 マジカリア国、フム、やはり全く聞いたコトがない。推測通り私は、別世界へ飛んできたのだな、と納得していると。


 姫――エメリナ姫は、爛々らんらんと目を輝かせながら、問いかけてきた。


「あなた様は、まさか―――高名な魔法使い様なのでしょうか!?」


「フム………魔法使い、………だと?」


 彼女の口から、〝魔法〟などという、非科学的な言葉が飛び出して。



「――――ふんっ、全くなっ!」



 私は腕組みし、そんなコトを口走った。

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