エピソード 4ー3 手加減が出来る子と出来ない子

 翌日の放課後。

 紗雪と結愛は私とこゆきを連れてダンジョンへ向かった。今回の目的はこゆきの能力テストなので、向かったのはボア種が出るダンジョンの中層だ。


「えっと……それじゃ、こゆき、貴女の力、見せてくれる?」

「きゅい!」


 可愛らしく鳴いて、結愛の腕の中から地面に飛び降りた。そんなこゆきに向かって、分かっているわねと視線を向けると、彼女は分かっているわよとばかりに頷いた。

 そして現れるブラウンボア――は、狐火で消し炭になった。

 ……うん、知ってた。


「わんっ!(手加減しろって言ったでしょ!)」


 ツッコミを入れるけれど、こゆきは上手いこと手加減したでしょと言いたげな顔だ。たぶん、自分がどれだけ規格外のことをやっているか自覚がない。

 ……まあ、彼女は深淵のボスだから、これでも手加減してるつもりなんだろうけどねと、そんなことを考えながら、恐る恐る結愛と紗雪の反応を確認する。


「すごい、こゆきすごーい!」


 まだダンジョンのことをよく知らない結愛は無邪気にはしゃいでいる。でも、中層の魔物を消し炭にするのがどれくらいすごいのかをちゃんと知っている紗雪は目を見張っていた。


「これは、また。さすがユリアの呼び出した子というか、なんというか……」


 待って。

 私の関係者だから加減を知らない、みたいな言い方されるとショックなんだけど。

 え? 私、最近はそれなりに加減してるわよね……?


「――こゆき」


 紗雪が呼ぶと、こゆきはすぐに駆け寄ってきた。それから九尾を揺らしながら、「きゅい?」と鳴いて紗雪を見上げる。

 紗雪はしゃがんでこゆきの頭を撫でる。


「あのね、もっと手加減できる? こゆきが強いのは分かったけど、あまり強いと目立っちゃうの。だから、ギリギリ倒せた、くらいが理想なんだけど……」

「きゅい!」


 任せてと言いたげに頷いて、こゆきは再びまえに。

 そして現れたブラウンボアに狐火を放った。ここまではさっきと同じ。だけど、さきほどのように相手を消し炭にすることなく、少しいい戦いをしてから倒した。


「わー、こゆきは器用だね。ユリアは何回言ってもやり過ぎちゃうから、実はこゆきもそうかなって心配してたんだよね」

「わふっ!?」


 え、待って。私って、紗雪からそういう目で見られてるの? そんな、嘘よ……とふらついて、その場にぽてりと転がった。


「……あれ? ユリア、急に転がってどうかしたの? もしかして退屈?」

「くぅん……」


 紗雪に抱き上げられるけど、私はなんでもないわよと一鳴きした。


「ん~? まあ、いっか。こゆきの力も確認できたし、ひとまず上層にもどりましょ」



 ――という訳で、私達は上層に戻ってきた。

 そこで紗雪が配信用のカメラを取り出す。


「お姉ちゃん、いまから配信するの?」

「せっかくダンジョンに来たし、可愛い妹がダンジョン配信者にデビューしたって紹介しようかなって思って。もちろん、嫌ならやめておくけど?」

「嫌じゃないよ。それに、お姉ちゃんの妹って、もうバレちゃってるし」

「それじゃ、妹として紹介するのでいいよね? ……あ、ちなみに、どういう感じで紹介すればいいの? 結愛はあのメスガキちゃんスタイルで行くんだよね?」


 紗雪が何気なく問い掛けると、結愛は「~~~っ」と悶えた。


「もうもうもうっ、お姉ちゃんの前では普通に配信するよ!」

「……そうなの? そういう本性というか、裏側、見せちゃって大丈夫?」

「どうせ配信切り忘れでバレてるよ! ばーかばーか、お姉ちゃんのばーかっ!」


 悪態をつくと、紹介されるまでカメラの外にいるねと端っこに駆けていった。拗ねる結愛も可愛い。とか思ってたら、紗雪に抱き上げられた。


「ユリア、ありがとうね」

「……わふ?」

「結愛の護衛をしてくれたでしょ? それに、こゆきを召喚もしてくれたことも感謝してるよ。おかげで結愛がすっごく楽しそう。だから、ありがと。そして、これからもよろしくね」

「わん!」


 私が答えると、紗雪は私を片腕で胸に抱いて、空いている手で配信を開始する。


「真っ白なコラボ配信に彩りを! ダンジョン配信系実況者の紗雪だよ!」

 

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