エピソード 3ー2 白いもふもふ、驚くべきことを知らされる
紗雪は疲れていたのだろう。結愛に連絡をしたり、SNSでおおよその事情を話したりした後、すぐにウトウトとしはじめた。
そこに瑛璃さんが訪ねてくる。
「あ、瑛璃さん、なにかご用ですか?」
「一緒にお風呂でもと思ったのだけど……眠そうね」
「ふあぁ……ちょっと疲れが出たみたいで。お風呂は明日の朝に入ります」
「そう。なら、私がユリアをお風呂に入れてあげましょうか?」
「わふ!?」
ちょっと待ってと慌てる。だけど眠たげな紗雪は「瑛璃さんがご迷惑でなければ」と口にした。そして次の瞬間には、私は瑛璃さんに捕獲され、そのまま浴場へとドナドナされていった。
「ふふ、本当に綺麗な毛並みね」
「わふぅ」
身体を洗われた後、私は瑛璃さんに抱っこされたまま湯船に浸かっていた。
というか、瑛璃さん、私の正体に気付いてないのかな? 瑛璃さんは動物が好きだから、私がもふもふという理由でかまってるだけという可能性もあるけど……
うぅん、分かんない。
「紗雪のこと、調べたわ」
「……わふ?」
「ダンジョンブレイクで両親を失っているのね」
そうね、だから放っておけないと思ったの。心の中ではそう答えながら素知らぬ態度を返す。でも、そんな話をするって言うってことは、やっぱり私の正体に気付いてるんだよね。なんて思っていたら、瑛璃さんが異空間収納からスマフォを取り出した。
……これ、私のスマフォだ。
「持っておきなさい」
「……わふ?」
ダメ元で惚けてみる。
「ユリア、追求したりしないから、スマフォは持っておきなさい。じゃないと、今日みたいなことがあったら困るでしょ?」
「……わん」
私は答えず、けれどスマフォは異空間収納にしまった。
「……なにかあればいつでも連絡なさい。それと……悪かったわね。貴女が人の姿でモデルになるのをあんなに嫌がるとは思っていなかったの」
……私も、過剰に反応して悪かったわ。なんて、恥ずかしいから絶対に言わないし、ここで人の姿を取るなんて真似もしない。
そんなふうに思っていたら、瑛璃さんが驚くべきことを口にした。
「というか、ちっちゃいって言うな! って言うの、完全にネタだと思ってたわ。だって貴女、自分の理想を体現した姿をしてると思ってたから」
「……わふ?」
「それに、追っ手を掛けたこともごめんなさい。貴女が急に飛び出したから、ダンジョンへ帰ってしまうかと不安になったの」
思わず瑛璃さんを見上げた。
だって、それは、まるで……
「ダンジョンブレイクでは多くの人が亡くなった。だから、親を失った子供もたくさんいたし、戸籍すら分からなくなった子供もいる。だけど――」
瑛璃さんはそう言って私の耳元に唇を寄せた。
「十年も一緒にいたのよ? 貴女の正体に気付かないはずないでしょ」
「わん……」
そっか、瑛璃さんは気付いてたんだ。
いまの姿こそが、私の本来の姿だって。
……そう。私は十年前のダンジョンブレイクであふれ出たフェンリルの子供だ。
もちろん、いまの私は人間のつもりだけど。
「まあ、こんなに可愛いもふもふだとは思ってなかったけどね。もしかして、いつまでも成長しないのって、人と成長速度が違うからだったりする? だから、写真を撮られるのを嫌がった?」
私は瑛璃さんに抱っこされたまま、前足でバッテンを作った。
「違うの? じゃあ、単純に背がちっちゃいのはたまたまなのね」
「わん!(ちっちゃいって言うな!)」
「ふふ、いまの貴女がなにを言っているか、分かる気がするわ」
瑛璃さんは微笑んで、そっと私の頭を撫でる。そうしてお湯に浸かっていると、瑛璃さんは思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、貴女に言っておくことがあるのを思いだした」
コテリと首を傾げる。
「いままで言わなかったけど、深層ボスをソロで倒せるような探索者って日本でユリアだけよ。ましてや、深層ボスを一人で周回して素材を集める探索者、ほかにいないからね?」
「わふ?(え、じゃあ……深淵に行く人は?)」
「というか、貴方がアルケイン・アミュレットや魔導具を装備するというのがそもそもイレギュラーなのよ。だから――」
やり過ぎないように覚えておきなさいと瑛璃さんは笑った。
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