出会ったその日に美少女から結婚を申し込まれた男の話

リーフェル

第1話 お菓子

 とある日、俺は会社に向かう途中に寄ったコンビニのレジで見知らぬ女の子に声を掛けられた。


「ねぇ、このお菓子も買ってくれない?」


 清楚な感じの可愛い子だった。

 紺色のブレザーと短めのスカート。ブレザーの下からは白いワイシャツが顔を出している。毎朝、彼女と同じ位の年頃の制服を着た子達を良く見かける為、すぐに彼女が近くの高校に通う学生だと分かった。


「財布でも忘れた?」

「うーん、そんな感じ。ちなみに買ってくれたら良いことがあるかも?」

「えー、本当かなぁ。いいよ、レジに置いて」

「ありがと、お兄さん」


 明るめの茶髪のツーサイドアップに透き通るような碧眼。あどけない表情とは裏腹に、身体は大人と大差ない程に成熟している。


「やばっ、急がないと会社に遅刻する!」


 会計を済ませ、彼女にお菓子を渡して急いでコンビニを出る。だが外に止めてある自転車に跨がった瞬間、彼女に服の裾を掴まれる。


「どうかした?」

「お兄さん、五分だけ私に付き合ってくれる?」


 その言葉に何度も心臓が大きく鼓動する。彼女いない歴=年齢である俺からすれば、そうなるのは必然だ。それが彼女みたいな可愛い子に言われたら尚更である。


「そこのコンビニの裏に来て。買ってくれたお礼、してあげる」

「あ、あぁ」


 喉が掠れる。身体が焼けるように熱い。頭では十中八九、からかわれていると分かっている。だがしかし、彼女の言葉には不思議な力が込められていて抗う事が出来ない。


「ちょっと待っててね」


 コンビニの裏で自転車から降り、俺は彼女の次の言葉を待った。すると彼女は先ほど買ったチョコの掛かった棒状のお菓子を取り出し、その内の一本を俺の口に咥えさせた。


「そのまま、ジッとしてて」


 そう言うと反対側を彼女が口で咥えた。いわゆる、ポッキーゲームである。この時点で俺の頭はパンク寸前だった。


「じゃあ、行くね」


 彼女が少しずつ食べ進め、俺との距離を詰める。何だか彼女の方からいい香りもしてくる。


「んっ……」


 そして、互いの息が届く距離まで二人の顔が接近する。激しく鼓動する心臓と乱れる呼吸に俺は必死に耐える。しかし、それも限界が近い。


 今にも気が狂いそうになった俺は、早くこの状況を何とかしたい一心で、口に咥えているポッキーを食べ始めた。


「んっ……えっ……?」


 次の瞬間、俺は見ず知らずの美少女と唇を重ね合わせていた。しかも食べ終わった事にすら気付いていなかった俺は、夢中で彼女の唇を貪り続ける。


「んっ……んぅ……!」


 その事に気付いたのは、彼女が力なく俺の胸を叩き始めた時だった。慌てて離れると彼女は目にうっすらと涙を溜め、衣服が少し乱れていた。


「ご、ごめん!!」


 俺は必死に土下座で彼女に謝罪した。すると彼女は俺を一瞥した後、俺を置いてその場を走って何処かへ居なくなってしまった。

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