第11話

アイリスが生成した二つの球。


ギュリギュリギュリギュリギュリギュリ……


禍々しい異音を立てながら、恐ろしいほどの魔力が二つの球に集まっていく。


「私の属性は『黒白』……俗にいう、勇者属性の“ユニーク枠”です」


勇者召喚の際には、これまで確認されたことのない属性の保有者が必ず一人現れる。それがいわゆるユニーク枠と呼ばれるのだ。

今代の勇者で言うと、『呪属性』がそれにあたる。


「黒と白の魔力に、細かな役割の違いはありますが……その真髄は、純粋なエネルギーです。黒と白、エネルギーの球に極限までエネルギーを込めて行けば」


やがて、二つの球の色が変化する……黒の球は白に。白の球は黒に。


「これが、黒白反転。せっかくですので、この上も見せてあげましょう……奥義・空」


アイリスがそう呟くとともに、二つの球が徐々に引き合っていく。

そして、ふっと黒白の球が消え去った。


「消えた……?いや……」


よく見ると、アイリスの指先の空間に、とてつもないほどの「歪み」がある。


歪みがつよすぎて、もはや向こうの空間を見ることさえできないほどだ。


つまり、これこそが「奥義・空」なのだろう。


「祝福せよ……!」

「守る!」


その異常性を感じ取ってか、必死の形相で『聖女』がバフをかけ、『守護者』が盾を構える。


アイリスは笑みを浮かべると、その”虚無“を勇者に向け、放つ。


ドウン!と砲弾が着弾したような音を立てて粉塵が舞う。アイリスがそれを軽く手で払うと、倒れ伏す『勇者』『聖女』『守護者』の三人がいた。


守護者の盾は、アイリスの奥義を受けて跡形もなく消失している。


「かつての魔王は、本気の奥義を十発食らっても生きていましたよ?」


そう言ってアイリスは冷めた目で三人を見下ろす。本気の……ということは、アイリスは手加減してなお一撃で『聖女』と『守護者』の守りを突破したということか。

とんでもない力だ。


「……ぐっ」


『勇者』は立ちあがろうともがくが、衝撃が強すぎたのか無様に手足を動かすことしかできなかった。


「革命家ごっこは終わりにして、修行に戻りなさい。いいですね?」


俺がアイリスの戦闘に見惚れている間に、いつの間にか戦場全体が静まり返っていた。 


アイリスの奥義に、『勇者』陣営は戦意を喪失したようだ。


「……なぜ、王国の側につく?ひどい政治を行い、圧政を敷いていた王国に?」


背後のアリステルが身体を硬くするのを感じる。


「私たちは王国についているわけではありませんよ。……強いて言えば、アリステルについている、と言ったところでしょうか?」


アイリスはそういうと、話は終わりとばかりにくるりと背を向ける。


「行きましょうか」

「ああ」


俺はそう返事をする。


しかし、その直後。強烈な破砕音が城の外から聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る