第9話 離脱

「……は?」


俺は全く見覚えのない嫌疑をかけられ困惑する。一体こいつは何を言い出してるんだ?


「お前らは森から、俺たちが戦闘をしているタイミングで出てきた。予め示し合わせていない限り、できない芸当だ」

「……偶然だ」

「そしてその一週間後、大規模な襲撃が起こった。こんな大規模な襲撃は見たことがねえ……それこそ、金を積まれた盗賊が結託でもしていない限りな」

「……金を積まれた、ですか」


カッシートが微妙に気まずそうな顔になる。心当たりがあるのか、或いは自分がその手段を取ったことがあるのか……


「お前がこの商団の護衛に参加した時、情報が欲しいと言ったな?何の情報だ?ん?」

「旅には色々な情報が必要なんだよ」


しかしキュスターは俺の反論に耳を貸すことはなかった。


「そんでもって連れのやつはフードで顔を隠していると来た。なあ?盗賊のお仲間さんよ。この落とし前、どうつけてくれるって言うんだ?なあ?」


さて、どうしようか。

俺が思案していると、上からサンが降ってくる。


「いい加減にしたら、キュスター?自分でも無理があるって分かってるでしょ?」

「……サン」


この一週間で多少打ち解けたとは言え、命を預け合うほどでは決して無い。そんな俺のために、キュスターに反論すべく降りてくるとは……何というか、損しそうな性格だ。


「うるせえ!」


キュスターはサンを突き飛ばす。


「部下が三人も死んだんだ。落とし前を取らせる!」


キュスターは一瞬で俺の目の前へと移動すると、得物を振りかぶる。位階が一つ上がったといえ、位階が四に達しているらしいキュスターの動きは全く捉えられなかった。


キイインという音が鳴る。


アイリスが、キュスターの斬撃を白い魔力で受け止めたのだ。


「……ふん。そんな力を持ってる癖に、特に戦闘に参加しなかったのか?」


……潮時か。


まだ難癖をつけようとするキュスターに、俺はこの商団に留まるのを諦めることにした。


「カッシート、俺たちはここで離脱しよう」

「……そうですか。護衛の料金は、半分でよろしいですか?」

「ああ。もらえるだけでも嬉しいよ」


俺はカッシートにそう返事し、サンに向き直る。


「サン、俺たちと一緒に来ないか?」

「……へ?」


想像すらしていなかったという表情で俺の方を見るサン。しかしその直後、顔を曇らせた。


「いや、私は……」

「気にする必要はない。お前の事情も、大体はわかる」

「…………!」


サンは目を見開く。


「その上で、私を……?」

「ああ」


俺はサンの瞳をじっと見つめる。


「……分かったわ」

「……よし。そういう事で」

「仕方ありませんね。では、サン様の分も含めまして、こちらが護衛代となります。ご達者で」


そういってカッシートはお金を渡してくると、くるりと俺たちに背を向けた。


「行こう、アイリス」

「分かりました」


アイリスは俺の首と膝裏に手を入れて、ひょいっと片手で抱え上げる。そしてもう片方の手でサンの首根っこをつかむと、ぽーんと空中に飛び上がった。


と、わずかに見えたアイリスの口元が、僅かに歪んでいることに俺は気づいた。


「……アイリス?」

「……べっつにー。拗ねてませんけど?二人っきりの旅に無断で女の子を入れたことなんて、怒ってませんけど?」


アイリスはぎゅうっと締め付けてくる。


やばい。確かに、アイリスに許可を取るのを忘れていた。


俺の背筋に冷や汗が流れる。


俺はなんとか機嫌をとるべく、アイリスを腕の中から構い倒すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る