第2話 転生スタンダードに近い『よくわからないけど異世界転生しているみたいです』

 異世界転生モノから、思いついた作品をいくつか選んで冒頭を比較します。


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ーー少女は孤児院で育ちました。

ある日、一台の馬車がやってきて、裕福な商人の家へと、仲間の何人かと一緒に売られて向かうことになります。

 けれど、途中、山賊に襲われて逃げる途中、馬車は崖から転落してしまいます。

 気がつくと、馬車はバラバラになっていて、自分以外はみんな死んでいました。

 衝撃と混乱のなかで、この、レンという名の少女は思い出すのです。

「わたし、おっさんだったーー

いやいや、何言ってんだ 自分!?

思い出してきた

結城蓮十郎‥‥私はメーカー勤務の三十代の研究者だったー

それが事故にまきこまれて死亡 その後異世界で女子として誕生して いまに至る

もしかしてこれが 俗に言う 異世界転生というもの」

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『よくわからないけれど異世界に転生していたみたいです』(内々けやき(絵)、あし(原作)、講談社、Kindle版)の冒頭場面です。

 これを、「転生スタンダードに近い」と称するのは、ヴァージニア大学のイアン スティーヴンソン博士の、世界から前世の記憶事例の2000例を集めて詳細に論じた重厚な研究書にも、似たような事例が出てくるからです。インドの例ですが、階段から落ちて頭を打った瞬間に、前世の記録を思い出したのです。

 この方が、生まれた瞬間から前世の記憶一式を完備しているという、よくある設定よりリアリティがあると思いませんか。

 ただし、スチーヴンソンの研究では、前世の記憶は3歳ごろ、言葉をしゃべれるようになるのと同時に浮上しますが、ほとんどが7-8歳から10歳ごろまでに徐々に消失するといいます。

 その点、この少女レンは、その後も鮮明に記憶を維持し続けて、異世界での活動に役立てているところが違っているのですが。

 

 次の話では、比較のため『聖者無双』の冒頭を紹介します。


【参考文献】

イアン・スティーヴンソン『前世を記憶する子どもたち』 笠原 敏雄 (訳)、日本教文社、1990

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