出勤

ねんど

第1話

ピッキングってさ、犯罪じゃないんだって。

センパイはお茶をずぞっと飲んで言った。


他人の家の鍵を開けること自体はね、罪にはならないだよ。

家に一歩入るかどうかが問題なんだよね。


センパイはスマフォのディスプレイを眺めながら、ずずっずずっとお茶を飲んでいる。空き巣、流行ってますもんね、僕は答えた。


センパイが引っ越して、1か月のある日、新居に空き巣もどきが来たのだ。

その日、シフトの夜番だったセンパイは、午前中から家でダラダラしていた。


カチャリ


なにかが音を立てた、


センパイが音のほうに目をやると、重そうな玄関のドアがゆっくりと開いていくところだった。


ドアはゆっくりとドアチェーンいっぱいまで開くと


静止して、諦めたように、ゆっくりと閉まっっていった。


ばたん。

カチャリ。

鍵が閉まった。



・・・

「え、それは空き巣なんですか」

「いや、空き巣でしょ」

わざわざ鍵をかけなおす空き巣なんて聞いたことが無い。


それにさあ、結局、何も盗られてないからさ、警察も呼べなかったのよー。

ほんと困っちゃってさ。

センパイは相変わらずスマフォを見ている。

大家さんとも会えないから鍵の交換もできてなくて。


で、結局これ。


センパイは僕の顔にスマフォのディスプレイを見せてきた。

画面には、重そうな鉄のドアが映っている。

サー――――、ノイズのような環境音が聞こえる。

liveカメラはセンパイの自宅のドアを見つめている。


「入ってこないかなー、と思って」





カチャリ



スマフォから小さな音声が響いた。



ドアがゆっくりとあいて

足が

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出勤 ねんど @nendo0123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る