あなたに、とどけ。

豆ははこ

あなたに、詩を、そして、花を。

詩人が一人、おりました。


たくさん、たくさん、詩をかいて。


毎日、毎日、歌っていたら。


聞いてくれる人が、現れた。


たった、たったの一人だけ。


だけど詩人は、大感激。


聞いてくれたよ、優しいあの子。


いつかなりたい、立派な詩人。


そしたら、あの子に伝えたい。


大好きです、とひと言を。



すると、ある日のことでした。


詩人のもとには、詩の種が。


詩の種、それは、なんでしょう。


そうです、ことばの種でした。


詩をかき、読んで、育てたら。


美しい実が、実ります。


数多あまたの美しいことばの、実。


選ばれし詩人の、あかしです。



人々、詩人をほめそやす。


名誉だ、素敵だ、素晴らしい。


人々求む、詩人の詩を。


それでも詩人は、あの子のためだけに。


美しい実が、実るのを待ちながら。


詩をかき、読んでおりました。



あなたに贈ると、約束したよ。


あなたのための、素敵な詩。


あなたはそれを、待っていてくれて。


わたしはとても、しあわせです。


まずは、この詩を、女の子にと。



その間も、詩の種、ぐんぐん育ち。


いつか、しぜんにつぼみをつけて。


花が咲きそう、その頃に。


あと少しだよ、と伝えたら。


とても喜ぶ女の子。


詩人はとても、しあわせでした。



ある日、詩の種、花が咲き。


とても、とても、美しい。


伝えなければと、あの子のところ。


なぜか、おうちは空っぽで。


どうして、どうして、なんでなの。


詩人は一人、泣きそうに。



おいしいスープに、あの子の笑顔。


素敵なお家のテーブルに。


置かれていたのは、詩人への。


最初で最後の、ラブレター。



名誉やお金が、なくっても。


あなたの詩がね、大好きでした。


だけど、突然、あの種が。


わたしだけのあなただったのに。


そんなふうに思ってしまう。


自分がとても、嫌でした。


だから、ごめんね、さようなら。



詩人はすぐに、花のもとへ。



種からうまれた、きれいな花よ。


その実の中に、あるのはきっと。


数多の素敵なことばたち。


それより、わたしはことばを一つ。


届けたいんだ、どうしても。


だからお願い、きれいな花よ。


どうか、わたしと、ともにきて。



願いをきいて、落ちる、花。


偉大な種の、なれのはて。


詩人はかまわず、駆けていく。



どれだけ月日がたったのか。


詩人は今は、吟遊詩人。


きれいな声で、詩をうたう。



素敵な人よ、今どこに。


今日も詩人は、まちからまちへ。


素敵な花を、胸にさし。


素敵なことばを、心にいだき。


明日もきっと、探します。


大事な大事な、あの人を。


胸に刺したるお花といっしょ。


いつか実ると、信じています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたに、とどけ。 豆ははこ @mahako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ