老人の恋!

崔 梨遙(再)

1話完結:1500字

 喫茶店の常連客、中川さん男性75歳。


 朝のメンバーだった。朝は鶴田さん男性78歳と仲が悪かったのだが、鶴田さんが長期に渡って来なかったので、朝の部で中川さんは我が世の春を謳歌していた。


 ところが、やがて鶴田さんが朝のメンバーとして復帰。中川さんは鶴田さんを避けるため、朝は来れなくなり、午後に来るようになった。


 1人で暇なので、午後の数人組の奥様方(ご高齢)に話しかける。


「どこの宗教に入ってるんですか?」

「その宗教って、どんな宗教なんですか?」

「なんで、その宗教に入ったんですか?」

「好きな政治家は誰ですか?」

「何党を支持してらっしゃるんですか?」

「支持している理由は何ですか?」


 こんな話題ばかりなので、奥様方は不快になり、ママさんにクレームとして伝えた。ママさんは、クレームになっては放ってはおけない。中川さんに、“中川さん、朝に来てください。もう、政治と宗教の話も控えてください”と告げた。


「朝、鶴田さんがいるから来れません。午後もダメやったら、僕はいつ来たらいいんですか?」

「お友達と来てください。それなら、話相手がいるので他のお客様には話しかけないでしょう?」


 中川さんは、大声で散々言いたいことを言った後、カウンターの中にズカズカ踏み込み、自分のコーヒーチケットを破り捨てて去った。


 ああ、もう中川さんは来ないのか。誰しもが、そう思った。



 すると、翌週の午後に中川さんは現れた。そして、何事も無かったかのように言った。


「うどん」


だが、ママさんは、大声で怒鳴り散らされたことを許していない。


「中川さん、よく普通の顔して来れましたね?」


「じゃあ、コーヒー」

「いやいや、そんな問題じゃない!」



 その日、退散した中川さんだったが、

 スグに花束をママさんに贈った。

 ママさんは、丁重に受け取り拒否をした。

 女性には花を贈れば良いと思っているのだろうか?

 ママさんは、そんなものは求めていないのだ。

 結局、花屋さんが振り回されてしまったので気の毒だった。



 ちなみにママさんは50歳だ。旦那様もお嬢様もいる。中川さんも妻子がいる。さて、この恋の行方はどうなるのだろうか?




 中川さん、ママさんと喧嘩して、1人では来にくいらしくて、何度か、友人達と来た。その内、友人達と会う場にするのも難しくなったのか? 顔を見せない日々が続いた。



 だが、或る日来店、午後の奥様方の前でカウンター越しに大声を放った。


「僕が、いつ営業妨害をしたんですか?」

「こうして大声で怒鳴られることが、既に営業妨害なんですけど」

「なんで宗教とか政治の話をしたらアカンのですか?」

「そういうことを嫌だと感じる方もいらっしゃいますから」

「なんで宗教のことを話したらアカンのですか?」

「そういう話題を嫌がる方もいらっしゃいますから」

「じゃあ、僕の気持ちはどうなるんですか?」

「え?」

「出入り禁止にされる僕の気持ちはどうなるんですか?」



「知らんわーい!」



 それから、中川さんは、店の常連客の甲斐さん男性75歳を別の店に呼ぶようになった。


 甲斐さんは、どんな話題だったかスグに話してくれる。


「ママさん、中川さんが『ママさんは鶴田さんとできてる』って、嫉妬の炎で燃え上がってたで。あれはヤキモチや、よほどママさんのことが好きなんやろうなぁ。ママさん、気を付けなアカンで」


 気を付けろ! と言われても、どう気を付ければいいのかわからない。



「話題は、いつもママさんの話題ばっかりや。ママさんに惚れてるんやで!」



 そんなことを言われても困るママさんだった。







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老人の恋! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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