祝福(その2)
津川リョウスケはずっとニヤニヤしっぱなしだった。
川地のやつ、いまさら本領発揮で草。
おせえだろ。
お前わかってる? たいした成績を残しちゃいないけれど、いちおううちの学校のエースを従えているんだぜ。
お前みたいなずっと座って本を読んでいるようなやつに負けてたまっかよ!
しかしなんだ。
いきなり川地がキレッキレになってムカついたってのに、怒りを通り越して、これは。
めちゃウケる! なんだこれ。
俺、ずっとイライラしてた。
俺みたいなかわいい男子高校生をポイ捨てしたあの女に。
俺の顔が好きって言って寄ってくる女どもに。
なんにもわかっちゃいねえじゃん。
自分ばっかか、お前ら、って。
他人なんて見た目でしか判断しやしないじゃんか、って。
でも、俺だって、自分ばっかだ。自分、自分、自分。なんだろう、いま自分が薄れていく。自分がなくなったとき、思考している自分は、本当の自分なのか?
どうでもええわ!
光の残像よ、でっかく輝け!
宍戸ジュンはこの瞬間を待っていた。
最初のサビの前の、個人芸タイムだ。
ここを完璧にやり遂げて、見ている連中全員を思い知らせてやる。
渡や小林みたいないかにもなヒーロー顔じゃねえのはわかっているけど、いまってダークヒーローのほうがみんな共感するもんなんだぜ。
完璧な群舞に度肝を抜いている皆さん、よく見ておいてくれよ。
俺たちのこと、ちゃんと網膜に焼きつけろ!
いくぞ!
二谷!
二谷キンジは宍戸とともに中心に立ち、一瞬見つめ合ってから背を合わせ、ポーズを決めた。
完璧だ。完璧な静止、そしてやたらめったら振り回しているように見えて、技のサーカスの時間だ!
やっぱり俺たちは最強だろ。
ほらな、宍戸、昨夜ずーっとあーでもないこーでもないって言ってたけどさ、俺たちは本番に強いタイプなんだよ。
だって俺たちが負けたのって、二人三脚リレーだけだぜ。いや、負けたことで、一層俺たち、最強になってるよ。これから先、どんなことがあったって、全然余裕。
宍戸がいるし。俺は宍戸の友達として恥ずかしくない奴でいたい。
背中がぴんと伸びる。
なにも怖くなんかない。
三橋ヨウヘイはステージに立つまで、会場にメイちゃんがいるか、そんなことばかり考えていた。あちこち探しても見つからなかった。
高橋の彼女と一緒にきているはずだ。
もしメイちゃんが宝田のことを好きだったとして、自分はまた失恋だ。
俺が好きになるコはいつだって、俺のことを好きにならない。
憎らしい。
宝田め。
でも、絶対に振り向かせてみせる! 追いかけ回すことより、キラキラして振り向かせてみせるんだ。
絶対きれいになってやる!
自分が一番かっこいいって思わなくっちゃ、最初に俺を認めるのは、俺自身だ!
腕を掲げ、気を漲らせ、地に叩き落とす!
お気に入りのロザリオです!
和田リツはいま、自分たちだけでなく会場全体が一体となっているのを感じた。
誰も指示していないのに、手拍子が起きだした。
すごい。
俺たちはオーディエンスの手をいつのまにか動かしたんだ。
俺なんて才能がない。誰も感動させることができない。
そんなふうに絶望していたけれど、そんなことはない。
俺だって、まだまだぜんぜんいける。
まだ俺、十八歳になったばかりだ。
まだまだ俺は生きていく。まだまだチャンスも出会いもある。
新しい自分と、いま出会った。
だから、もう一度、やってやる。
ヤマ、プロになろうぜ。絶対に。
弓を引くように、力をこめるように、空気を掘るように!
全員が揃えて、アマテラス!
山内ミツルは必死だった。
なにくそ、なにくそ。いつだって焦りまくっている。
ずっと焦っていた。
自分はプロになんてなれないのかもしれない。
才能がないから周りにも才能のないやつしか集まらないって。
でも違うんだ。
それは一見、自分を卑下しているように見えて、自分を守るため、他人を見下していたんだ。
こんなふうにいま、クラスのみんなが一つになって、しかも雨の会場全体を揺さぶっている。
足元が滑る。
焦ったらいけない。
大地をちゃんと踏み締める。
そして、全力でぶつかってやるんだ。
これが終わっても、ずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます